三層へ
「貴様ら……ここまで来て、原神殿を裏切るか!」
「へへっ……まぁな……俺らにゃあ……どうしても相川の奴が世界を滅ぼすとは、思えねぇんだよっ……!」
「ぬぅ……我らよりも原神殿方に協力的だった貴様らがな……活神拳、殺神拳……所詮相容れぬと……」
原神たちとの戦いの中で、武術大世の一派は二つに分かれて戦いを繰り広げていた。
「【氣征天原】……貴様ぁ……」
「……悪いのぉ……今更ながら、目が覚めたのじゃ……真っ向からぶつかり、そして儂を越えた……瑠璃を泣かせたことは許せんが、儂はあ奴の立場を一切考えておらなんだ……それにな。」
活殺のトップが睨み合う。そんな中で遊神は氣を張り巡らせて穏やかな口調で言った。
「娘の幸せを願わぬ親は、おるまいて。」
「はっ……世界より、我が子を取るか【氣征天原】……堕ちたな。最早、言葉は要らぬな。後は戦いで語るのみ!」
まさに神速というべき速さの【激甚なる者】の攻撃により武術大世の戦闘は激化の幕を開いた。
「あーあー……お嬢さん方は、どーしてこーなんスかねー?」
「だねー……死にたいって言ってるんだから死なせてあげるべきでしょ。」
「黙り、なさいっ!」
影の世界。闇に覆われた世界でシェイムは芽衣と組んでキバ、そして【最低最悪最凶】と戦っていた。
「無駄って言ってるじゃないッスか……」
だが、その攻撃はほとんど通らない。スピード、術式構成力で勝っているシェイムと芽衣がキバと【最低最悪最凶】を足止めできているだけにすぎないのだ。
「裏切り者……!ご主人様に、死ねと言っているのと変わらないんですよ?」
「はぁ……そっちが裏切り者でしょ。正直、俺らも生きていた方が良いと思いますし、気が進まないのに力使いたくないんスけど……まぁ、ご主人の願いだから俺らがどうこう言うもんじゃないッスしねぇ……」
「どう考えても間違えてるのは、目に見えてるでしょう……!?」
「あの方は、負の神で、正の神でもある。俺らの常識で考えて何が正しいかなんて分かるはずないんですよ?」
攻撃の合間に繰り広げられる会話。
分からないが、願いを叶えたいキバと【最低最悪最凶】。
幸せになって欲しいから、戦い続けるシェイムと芽衣。
「傲慢で独り善がりな考えを押し付ける方が、おかしいんスよ!」
「理解しようともしない!それは意見の尊重じゃなくて単なる無関心です!単に距離を置いているのと同じ……誰からも必要にされてないと思わせたまま、放置する方が害悪に決まってます!」
どちらも自分にとって「善い」と思われる行動を胸に戦っている。
「それで、ハーレム?おかしいじゃないッスか、そんなの望んでるとは思えませんよ?」
「……出来ることなら皆、自分一人で何とか癒したいと思ってます……けど!そうでもしないと、あの方は……」
「まぁ、そういうのどっちでもいいからあいつも不幸になればいい。」
突如として闇の世界に別の声が響く。二人はその発言に嫌悪感を示した。
「何スか……?言っときますけど、俺は無理矢理生き返らせることに反対であるのであって、原神派じゃないッスからね……?」
「あぁ、俺も原神派じゃないよ。個人で動いてる。……あいつに、妻帯者の苦しみを味わわせるためになぁっ!」
「ngaihrfamishgieaormfjfjii!」
男の声と思われる声の後に突如として聞こえてきた奇音。思わず自発的に耳を突き破りたくなる音に対して発言主の男は謝罪した。
「あぁ、ごめんマリアン……そういう意味じゃなくて……その、一般論。」
「gaourjamgnaiam?」
「……あぁ、そうだよ……!あいつに、結婚の、素晴らしさを伝えに来た。俺の婚姻が決定した、お礼参りになぁ……」
姿は見えないが、血涙を流すかのような口調であることは分かった。
「もう、勝てないが……きっちり、別の形でしっかりとした、お礼を……な。」
一行は何となく経緯が分かり、闇の中で微妙な顔をしながら戦い始めた。
その頃の今村の心内では全員がいる円盤が急激な気温低下に見舞われていた。
「……?寒くなり始めましたね……祓さん。厭世のに何かしました?」
「はい。この世をそんなに嫌わないでほしいと……一生懸命話を……」
祓の言葉に理性の今村は溜息をついて本を閉じ、告げる。
「あのですね。ここにいる私たちはその感情の化身ですよ?話をしたところで変わるわけがないでしょう。」
「世界を嫌っていてもいいんですが……せめて自分のことくらいは……」
祓の言葉に厭世の今村が億劫そうに口を開く。
「そういうの、次の階層に行って愛情のに言えば?俺に言われても迷惑……どうでもいいことばっかり言われてもさぁ……」
「先生はどうでもよくないです……」
「どうでもいいんだよ。さっさと死ぬんだから。」
「そういうこと言わないでくださいよ……」
早くも涙目になり始める祓を見て厭世の今村は大袈裟に溜息をついた。
「はぁ……これだから。はいはい。全部俺が悪いんでしょ。ぜーんぶ、俺が悪い。それでいいから俺のことは放っておいてくれないかな?愛情のにでも適当なこと言って俺を消せばいいんじゃない?」
「そんなこと、しません……!ここにいる全ての先生は、先生なんです。先生を構成する何かを消すなんてこと……」
「何言ってるか分かんないけどさぁ……いい加減放っておいてくんない?」
二人のやり取りの間にも温度が急激に下がり、白崎が今村に告げる。
「ねぇ……さっきから100℃近く温度が下がってるんだけど……」
「あんまり冷えると景観が損なわれるので不味いんですがね……ついでにあなた方がここで死ぬのもちょっと……外で死んでもらうなら別にいいんですが……憂鬱があの状態では……」
「憂鬱?」
「……まぁ、何もしなければ無害と思って言ってませんでしたが、そうです。大罪衆の1つですよ。……死なれると迷惑なので別のを起こしますが、あまり刺激しないでくださいね?」
そう言って今村は仕方なさそうに自己本位の今村の縛めを解いた。
「死ねよ。」
「……何か、不良っぽいわね……でも今村くんの学生服見るのは懐かしいわ……」
「あ?だから何だ?」
「いや、その……いいな、って……」
「……刺激しないで下さいと言ったんですが……」
戒めを解かれた途端に姿を変える今村を見て白崎がじろじろ見ながらそちらへ移動し、理性の今村は何の感情もない目でそれを見送る。
「……置いて行きますか。温度も-270℃くらいには上がりましたし……ここはもう大丈夫でしょう。」
「あ、そんな温度だったんだ。肌寒いと思ってた~」
そんなことを言いながら今村は祓と白崎の姉妹を置いて扉から出る。するとすぐにミーシャが出迎えた。
「あ、どう「こんな所に居られるか!僕はもう逃げるぞ!」にゃっ?」
扉から出た途端、逃げの今村が復活して逃げ始めるのを見てミーシャは本能に従いそれを追いかける。
「……まぁ、私じゃないと認識されたとはいえ、一応私の端くれを持っているので大丈夫でしょう……次に行きます。」
「あ、…………あの、ヴァルゴちゃんが……いなくなってるんですが……」
「……そう言えばそうですね。少々お待ちください……」
シェンに言われて気付いたらしい今村が確認するとヴァルゴはこだわりの今村に捕まったらしい。
「……白崎さんが抜けたことで胸の大きさの格差が広がり過ぎてカテゴリーが別だと判断した……らしいですが。意味が分かりませんね。どうでもいいので次に行きましょう。」
「え、え…………だ、大丈夫なの……それ……?」
「何かあれば連絡は来ます。」
じゃあいいか。ということになって一行は更に深部へと下り始めた。




