続戦
「…………ふぅ。うむ。楽しかった。」
「読むの早過ぎ……」
動きを封じられていた今村から満足の吐息が漏らされる。その横には今村が少し前に消滅する間際に読んでいた高見東志の新作の続刊が並べられている。
「うむうむ。…………ん?何か変な動きが……?」
「次陣、召喚……」
そして読破後の今村が外の異変に気付く前にアズマは次の一手を打つ。今村の眼前に現れたのは「幻夜の館」だった。
「……何?」
「座敷童が創った地下の大迷宮。ゴール地点に『アカシックレコード』協賛のお宝本がございます。禁書庫からの意思ある魔導書……」
「……仕方ない。取って来るか……」
簡単に誘導された今村は館の中へと消えて行った。
「……ふぅ、上手く隙を付けて先生の心の中に入れましたね……」
「気を抜いちゃダメだよ。ここからが、大変な……」
「いらっしゃいませ。」
ミニアンの能力を借り、一時的に今村の心内に入った祓たちは薄暗く脈動する肉壁の中で今村の声がして驚いて跳ねる。
「にゃ、やば……」
「もうバレ……」
逃げようにも逃げ場所のない一行に対して声の主、眼を閉じて和服になっている今村は扇子で口元を隠しながら笑った。
「あぁ、私どもが消滅するまではこの中にいてもらって構いませんよ?何なら私の心の中の案内でもしましょうか?」
「えっ!?」
「いいのお兄ちゃん……?」
「えぇ。」
驚く一同に対して今村は再び軽く笑った後、薄く目を開いてその言葉に付け加える。
「ただし、私どもに不信感などの負の感情をほんの僅かでも抱くと……この様に外へはじき出されるので。」
次の瞬間、この場にいた者たちの多くが外へと弾き出される。
「な……原神様の見立てた、メンバーだったのに……」
「あぁ、あの方の……因みに、今飛ばしたのは適当ですので悪しからず……それにしても、あなた方は本当に私どもと縁があるようですねぇ……」
場に残った
祓、サラ、ヴァルゴ、ミーシャ、安善、マキア、クロノ、アリス、白崎、イヴ、フィト、シェン、シュティ、フォン
を見て今村はクスクス笑う。対する女性陣も褒められたとばかりに笑顔になって照れる。
「さて、これから始まるのは滅びまでのゲームです。主催者側の気分によっては一切の断りなく終了することもあります。……が、仮に成功すればあなた方が望む結果を手に出来るでしょう。」
今村はそこまで言うと扇子を閉じて口に縦に当てて忍び声で告げる。
「私どもの、消滅回避を…………」
その言葉にざわめく一同。それに対して今村は口の前で再び扇子を広げ、妖しい雰囲気を纏いながら冷たく続けた。
「ただし、一歩……いえ、半歩間違えれば、発狂して死ぬ上、記憶も失われますがね。……それでも、やりますか?」
「「「「「勿論。」」」」」
全員の了承を得られたところで、今村は扇子をぱちりと閉じる。瞬間、肉壁が開いて石造りの回廊が現れた。
「それでは、皆さん……地獄へようこそ♪」
そして彼女たちの戦いも始まった。
それら全ての戦場から離れた場所で【精練された美】、瑠璃は今回の【運命神】らが考えた作戦について振り返っていた。
一隊は今村の心を消滅から引き離すために『アカシックレコード』の館長レグバが仕込んだ種で油断した今村の心の中に入っている。
上手く行けば、この部隊だけで目的は達成されるが、成功率はかなり低い。ただ、今村の思考リソースに対する陽動の意味も含めている上、戦火において安全圏でもあり、有事の際は彼女たちが最終手段になり、全員が亡き後に意味を持つ。
別働隊で今村自身の動きを止める。これについては真っ向勝負では勝負にすらならないので搦め手を使う。幸いと言っていいのか、今村は現在消滅することに意識が向いているので細かいことは気にしないため、誘導が比較的上手く行きやすい。
また、心的リソースも前世の記憶を強制的に揺り起こすことで余裕をなくし、その記憶に関連した者たちが心の中にいることで更に視野狭窄になるように仕向けている。
最後に、本隊。過去、蠱毒の洞窟における今村の発言、
「『俺が誰かと付き合うなんてすると思う?3原神の武力組男集団を皆殺しにして『あ、今の何か納得いかなかったんで』つって3回やり直して『思ってたのと違うんで帰りますね?』って言って帰るくらいあり得んことなんだが……』」
をセイラン、ミニアン、瑠璃の3人掛かりで言霊を捕まえて【運命神】が最近、今村が自己消滅する前、2度原神たちを滅ぼす際に捕まえた、
「この戦いが終わったら、俺結婚するんだ……」
という言霊を合わせ、現在【言霊の姫】に依頼して創り上げている【強制契誓約書】、今村が自ら作り上げた物よりも強力に仕上げた物で縛り付けるための材料とする、最後の前提。
原神の武装男集団の3度目の皆殺しと復活
を成そうとしている。その他にも細かい策はたくさんあるが、すべて失敗した際には瑠璃以外の全員が命を投げ打ってでも最後の策を成功させる予定だ。
「……大丈夫かな……?」
「瑠璃先生~!」
そんなことを考えていると、瑠璃の下にブロンド色の髪をした絶世の美少女が現れる。
「ルカ……どうかしたの?」
「思いの外、援軍に来てくれるのが多そうで……檄文を増やしてください……」
現れたのは、瑠璃の弟子。ルカ。強くなればなるほど美しくなる世界であるクロマ・アロガンの出身で、瑠璃の修行により目覚ましく強く、美しくなった美少女だ。
「うん。すぐ書くよ。」
「お願いしますね。お師匠様を、絶対に死なせはしませんから……もう、私の目の前で、親しい人は誰も死なせない……!」
力を入れるルカに瑠璃は苦笑する。
「それで戦争してるんだから何とも言えないけどね……」
「お師匠様と先生、あと祓さん以外は何人死んでもいいんです!」
「……流石、仁のことを好きな子……」
軽く狂っている少女に新たな書状を渡して瑠璃はこの戦いの勝利を祈りつつ、最悪の事態への準備を整えた。




