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例外者の異常な日常  作者: 枯木人
最終章~終わりの幕引き~
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誤算

「ん~?…………あれ?体が……あるわ。」


 目を覚ました今村は不思議そうに体を動かして首を傾げつつ近くにいた占い師風の何者かに声をかける。


「お……その紋章は『アカシックレコード』の方かな?」

「…………禁書を作るにあたって、あなたの体を撮らせていただいておりましたが、写りません……」

「……あぁ、その辺は色々嫌だから。ごめん。」


 この形でファンクラブのようなモノがあったなどと言いたくないので今村は適当に誤魔化しつつ首を傾げる。


(ん~……アズマの近くに霊体で現れて指導したら消えようと思って体も消滅させておいたんだが……まぁ、あるならいっか。)


「……因みに、消滅前の体は……これで、いいですか……?」

「いんや、もっと強かった……けどまぁ、ちょっと世界が危機のはずなんだよね。じゃないと俺復活しないし……ということで、じゃ。」


 今村は適当に手を振ってその場を立ち去る。


「この体弱っ!……まぁ、体術以外の能力は使えるからいいとして……で、何と戦うのかな?どれくらい将来の、未知の敵なんだろうか……?楽しみ……」


 わくわくしながら今村は問題と思われる場所を魔導術で一瞬で検知し、その場に急行する。


 そこで見た敵は、随分と見たことがある者たちだった。しかも、言い争っている内容は主がどうのこうのという消滅前と大して変わりのない話だ。


「……目の前にいるじゃん……」


(つーか、今いつ?)


 何か記憶を改竄したのにこちらを主と認識して突撃してくるポンコツを転ばして椅子にしながら今村はここでようやく時を確認し、思わず溜息を吐くことになる。


「……早過ぎ。」

「兄様、遅い……」


 ふくれっ面でシュティが今村の方へとやって来る。外見だけは非常に可愛らしいがその顔は自らの血と原神の血で血塗れだ。だが、今村はそんなことを気にしている暇はない。


(……消滅期間、6時間……寝たのと大して変りない……しかも、重大な危機とか言う割に俺が来たら止まったし……)


「………………えへ……でも、よかった……」

「よくねぇ……何だこれ。」


 敵意を露わに、囲まれる。旧神たちの応援も来て今村は非常にやる気なく周囲を睥睨する。


「………………あーっ!もう、どうしても、どうしても俺にトリガーを引かせたいのかな!?イライラする……折角人が盛り上げて、綺麗に去ろうとしたものを……だいたいシュティは何考えてこんなことを?」

「あぅ…………兄様が、来なかったから…………不安で……」

「不安だったら世界を滅ぼす!ほう!いい迷惑だな!ザケろ馬鹿!」

「ごめんなしゃぁあぁぁあぁ……」


 シュティを思いっきり放り投げながら今村は大きく溜息を吐き、シュティは飛ばされながら謝る。そしてアズマの顔に勢いよくぶつかった後、今村の方へ戻って行く。


「だって、だってぇ……原神食べたら、消したって……だから、こんな世界、ヤダって……」

「……原神喰うなよ……」


 涙目で訴えかけてくるシュティだが、内容はどうしようもないものだ。仕方がないので今村はアズマに渡してある「永久黑之闇蓮華とこしえくろのやみれんげ」を白ローブで誰かが認識するよりも早く奪い取ってそれを弄る。


「……あ、皹入ってる。今回のでぶっ壊れる寸前だわ。つーか、これ壊れる前には分かるもんなんだな。」

「……!それ、なぁに……?」

「ん?まぁ、色々。」


 答えになっていない答えを返して今村は今回の騒動をなかったことにしつつ、周囲を見て認識阻害を掛け直し、取り敢えずるぅねとシュティの二人を抱えて別世界へと飛び込んで行った。


「…………欺瞞、だね。…………このままでは、済ませない……」


 その声は既にいなくなっていた今村には聞こえなかった。












「……えーと、で?何が不満だったんだ?」

「兄様が……どっか、行った……」

「……あいつなら……いや、違うな。」


 記憶を改竄した前提で話そうとして、今村はそれを思い留まる。恐らく彼女たちは改竄に失敗した、もしくは解除されているのだろう。


(……何かやたらと強くなってたし……変なもん飲んだんだろうな……チッ。それはなかったことにしたが……術式の耐性を綺麗に潰さねば……)


 一先ず、今村は改竄した物に考えられるありとあらゆる薬物に対する耐性を付けながら話を聞く。


 要約すると、昼過ぎに今村が来るといったのに来なくて別の人物が今村を自称してやってきたこと、それが不安で探しに出たら原神がふざけたことを言っていたので世界を滅ぼしにかかったということらしい。


「……馬鹿?」

「……だって…………兄様がぁ……」

「はぁ……こんなので俺はわざわざ……まぁいいけどさぁ……じゃ、消すか。」

「……え?」


 今度こそ、と今村は念入りに記憶を消してその場を後にする。そして向かうのは「アカシックレコード」だ。


「ん~……俺は平和的に、禁書にも載せないように話し合いをしたいなぁ……余計なことを残されても困るし……でもどうかなぁ……?」


 すぐにその場所について今村は占い師のような人物の前に降り立つ。


「よ、写真の件だけどさぁ……肖像画じゃ駄目?」

「ダメ、ですな。」

「でもさぁ、『アカシックレコード』は現世で何があっても干渉しないのに火種を残して逝くのも……」

「我々はきちんと紡いでいくことが使命ですので。それよりもこの体ではないのなら全盛期の姿を見せてもらいたいところですな。」

「……疲れるんだけど……」


 難色を示しながら今村は交換条件とばかりに告げる。


「やったら、最上級の禁書にしてもらうよ?俺の術式を破る方法だって調べりゃ出てきそうなところに残しておくには困る人生だし……」

「考えておきましょう。」


 占い師の風貌をした職員の言葉を受けて今村は少し考えた。


(……まぁ、最悪ちょっと前の俺になればここの記録も改竄できるし……体を戻すのはやってもいいか……あ~まさか記録のためとはいえ、俺を復活させるとは……『アカシックレコード』が現世に手を出すとは思ってなかったからなぁ……)


 異例の処置に驚きつつ今村は頷いて体を変化させ始める。その瞬間、バランスを崩した。


「あ……?」

「いや、まさかこんなに弱らせた状態で、ここまで僕の『死等側夜更寝しらかわよふね』が効かないとは……流石、としか言いようがない……」

「兄様の、嘘吐き…………」


 今村が気付いた時にはそこに、先程までいなかった顔見知りの者たちが現れていた。


「畜生が…………敵意が、ないから……気付かな……」

「はい、君は全ての準備が整うまで寝ててね?っとぉ、危なっ!」


 視線だけで睨み殺しに来た今村を間一髪と言うべきタイミングで避けることに成功する男。それを恨めしげに見た後、今村は眠りに就いた。


「怖っ!うっわぁ~……しかもご丁寧に何か良く分かんない術式で体を……あ、それはそれとしてお疲れ。」

「…………立派な、共犯者になってしまいましたね館長……あぁ~っ!うぅ……」

「…………知らない人たち、ありがと……」


 遠巻きに今村のことを見守る男と、その少し離れた場所で呻く女に対してシュティは礼を言っておく。


「あぁ、いいよ。…………僕のポエムを勝手にバラした罪、それに仕事をさせた罪を償わずに逃がそうなんてそうは行かないからね……?」

「わ、私は……折り合いを付けました。今の性を受け入れた結果として、この方は覚えてないでしょうが……居なくなられるのは嫌だと思います……でも、職を失うのは嫌~……」

「なぁに、黙ってればバレないバレない。それより君、ほら。」


 再び落ち込む女を適当に慰めつつ、男はシュティに紙束を放り投げる。


「これは…………?」

「彼の術式の解き方。彼は何かに失敗して薬の力で解けたと思ってるけど、実際は彼の作った秘宝、『蓮華玉』を何かした物と、君の血を合わせた物からしか作れない非常に強力な術だから……あ、結構血がいるけど……まぁ、割と覚悟して作ってね?出来れば「レグバー!どこだー!」……おっと。」


 大声が聞こえてきてレグバと呼ばれたらしい男は立ち上がる。


「じゃ、よろしく。」


 シュティは頷いてすぐさま行動に移った。




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全盛期、相川だった頃を書く作品です
例外者の難行
例外者シリーズです
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