終焉
「っつ……か、はぁ……何でこうなるかなぁ……」
アズマは困ったように頭を掻きながらフォンと安善の二名を術で浮遊させてゲネシス・ムンドゥスへと戻ってくる。すると、祓が出迎えてくれた。
「どうかされました?先生……」
「あぁ、まぁね……ちょっと、薬場の奴らが薬の使い過ぎか何かで狂って……その討伐に行かないといけなくなった。」
祓はフォンと安善を受け取りつつアズマを見る。
「危なくないですか?」
「ま、油断しなければね。じゃ、行って来るから美味しい夕食を作って待っててくれる?」
「はい。喜んで。」
祓の笑顔を前にアズマは照れながら飛翔する。その途中でフィトとシェンに出会い、祓との関係をからかわれながら魅了されつつ彼はシュティとるぅねの下へと移動した。
その頃、シュティとるぅねは原神、【芽生えし者】に喧嘩を売っていた。
「あるじ様を出せ~!じゃないと、人質を大量虐殺だ~!」
「…………早く、口を……割れ……」
「調子に乗りやがって……セイラン!すぐに助けるから!」
「……だから…………」
【芽生えし者】の一撃をシュティは睨むだけで破壊する。
「相性、最悪…………無駄……だから、ね……?」
【芽生えし者】の能力は確率の顕現だ。どんな極小のものでもあり得さえする仮説であればこの場に顕現させることが可能という強力無比なものである。
今村はそれに対して例外者という特性を持ち、その確率の例外を体現することでこれに打ち勝つが、シュティはまた違う。
シュティの能力は有神、すなわち、この世に存在する物であれば問答無用で、また、存在しなくともこの世に有させることが可能な能力で、自らの能力が及ぶ範囲内であれば何でもできる。
そして、地力においては【芽生えし者】は今村との一戦において信力が低下しており、何度か殺されたことで能力も低下している。
それに対してシュティは今の今まで今村の薬学センターにおける最高の休息を取り、世界最強クラスのフォンと安善の力まで手にしている。
つまり、現時点においてシュティが負ける要素はないのだ。
「…………はぁ……じゃあ、もう……しかたない……」
話にならないのでシュティはその力を有効活用するために【芽生えし者】へと告げる。
イタダキマス……
「分かったー?」
「…………!こいつら、絶対に…………許さない……!」
瞬間、原神たちの共通意識として、例外者である今村を滅ぼしたことを認識したシュティから怒りの涙が零れ落ちる。るぅねはそんな空気を読み取れずに何度もシュティに説明をせがみ、イラッとされながらも説明を受け、同時に目から光を失った。
「…………そう。」
「……………………えぇ……」
「全部、消し飛ばそう……?」
「…………………………えぇ……」
そんなやり取りを見ながら人質の中で他の人質を人質として盗られていたため動けなかったセイランが首を傾げる。
(あまり、悲しくない……?改心して、私だけのミハエル様になってくれたのに……何故……?)
大量の愛情はある。それが向かっていた先として【芽生えし者】がいたということも認識している。だが、それ以上に愛情がどこか行き場をなくして消されているという感じが拭えない。
セイランがそんなことを考えている内にシュティとるぅねは別の場所へと転移しようとする。しかし、その直前に他の原神たちが現れた。
「ふん。あ奴の残党か……」
それと時をほぼ同じくしてアズマたちもこの場に駆け付け、錚々たる面子を見てギョッとする。
「あ、あれを殺さないと。成り変わった奴。あいつだけは殺さないと。るぅねの人生の汚点だから。」
「じゃー、私は……兄様の、仇…………!」
この面子に対し、シュティとるぅねは一切気後れすることなく据わった目で殺意を滾らせる。
「……この場に、仇と、るぅねの汚点がいるってことは……後先考えないで全力で滅ぼした方が良いよね?」
「…………同意……それに、原神を滅ぼせば…………同時に、秩序が……滅びる……」
殺気を滾らせつつもお互いの意思を確認し、二人は頷いて自らと今村の薬園を繋げて強化剤を投与しまくる。
「…………うん……これなら……」
「皆死ねぇ!」
暴虐が、撒き散らされた。
「ぐっ!待て、何で急に世界を……」
「喋るなー!死ねー!」
アズマは訳が分からなかった。今日になって突然シュティが発狂したかと思うと、るぅねがそれに釣られるようにして壊れる。
このくらいであれば別に不思議でもないのだが、今日の二人は本気で世界を滅ぼしにかかっている。
(……あそこにある薬品すべて使えば……世界の半分近くを壊せる……原神とも相討ちくらいには……)
猛攻をしのぎながらアズマはるぅねに所有者権限で強制停止をかける。それを感じ取ったるぅねは体を跳ね上げて機動を止めた。
「……大事になり過ぎた。残念だがるぅね、お前は……」
「お前は、私の、あるじ様じゃ、ない……!違う……!この、名前の、意味も、分からない癖に……!私を、呼ぶな……私、を……止めるなぁあぁぁぁあぁあっ!」
呪縛を打ち破って死の一撃を放つるぅね、アズマは避けられないことを悟る。
(あっ、死んだ……)
脳裏に蘇るのは彼の想い人、祓のことだ。しかし、彼の目の前に現れたのはそれとは別の、現在、彼を慕ってくれている緑髪の美少女。
「じゃ~ね~……?」
フィトが、アズマとるぅねの間に割って入り、代わりに斬られる。咄嗟にアズマが手を伸ばすが、それは届かない。
「乱雲絶しょー!まず、一匹~シュティちゃん口開けて~?はーい!」
フィトは惨殺された。それを悲しむより先にるぅねはその亡骸をシュティに向かって投げ、それはシュティによって空間ごと喰われた。
「ん…………美味しい……」
「よかった~……次、殺す……」
更に目に怪しい力を溜めるシュティ、そして完全に狂った者の眼差しでアズマたちを見るるぅね。その力は先程殺したフィトの力を得てか、増している。
「にしても~……あるじ様を弑したとか言う割に~あの人たち弱~」
「……………………………………多分、かなり…………弱らせて、くれてる…………前、私……ずたずたに、された……こと……ある……」
「そっか、じゃあ滅ぼしていいんだね!……偽物のゴミさん、もっと、仲間……いるでしょ?呼んで?吸収して、強くなって……るぅねたちあるじ様の跡継がないと怒られちゃうからさ。」
「俺は、そんなこと……」
望んでいない、そう言う前にるぅねの無表情な視線が突き刺さった。
「お前の言うこと、聞いてないんだけど……?ていうか、誰なの?」
「この、バグ魔が……!死んで後悔しろ!」
「おっそ~い。まぁ、ボロボロになって精々餌になってよ。」
吼えるアズマだが、その攻撃は掠りもしない。代わりに致命的な攻撃が幾つもアズマに迫る。
それは、またしてもアズマには当たらない。しかし、それを庇ったシェンに当たり風穴を開ける。そして弱った神体はるぅねに無造作に掴まれてシュティの方に向かって投げられた。
「あは♪次の一匹~シュティちゃんはーい!」
「ごめ……なさ……」
「てめぇえぇぇええぇぇっ!」
激昂するアズマ。それをるぅねは冷めた目で見ながら攻撃を文字通り喰らう。
「まっず~……あ、楽にしてて?強いのと、わざわざ戦うより、あんたを餌にして庇わせた方が楽だからまだ殺しゃな………………ふぇ~ん……シュティちゃん肝心なところで噛んだよ~」
「おふざけは、今……禁止…………!」
アズマは頼みの綱の原神たちの方を見て更なる驚愕に目を染める。
「はは…………嘘だろ……?」
「嘘だったらるぅねたちも嬉しいんだけどな~あるじ様が死んだとか、そんな変な嘘、認めたくないし。」
「るぅねちゃん…………暇なら、手伝え…………」
「もう手伝うことないじゃん。」
血塗れになった原神がシュティに防戦一方に迫られており、旧神の救援を待ちながら時間稼ぎをしている。そんな光景を見て、アズマは折れた。
「…………何で、お前らは……平和な世界を……」
「欺瞞だから。無理矢理作られた小康なんて要らない。……ていうか、るぅね的にはあるじ様以外要らない。」
「目の前にいるじゃん……」
るぅねはその呟きに答える。
「え、うん……え?………………あるじ様!」
「俺じゃなくて。」
声の主に飛びつこうとしたるぅねはそのまま避けられて足を掛けられて、転ばされ、地面に倒れた所に座られる。
「うぎゅ……」
「…………早過ぎ。」
声の主、今村は非っ常にやる気なさそうにそう呟いた。




