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例外者の異常な日常  作者: 枯木人
最終章~終わりの幕引き~
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崩壊

「…………兄、様……遅い、な……?」


 シュティは野外に設置されたベッドから綺麗な青空を見上げていた。その声を聞きつけた彼女の友人、るぅねがもの凄い勢いでこの場に駆け付ける。


「あるじ様の話ー!?」

「う、ん……」


 相変わらずこの話題になると凄いな……そんな目でシュティがるぅねを見ていると何となく世界がざわめいた。瞬間、るぅねの目が鋭くなり、転移する。


「来た……」


 シュティはそれに従って同時に移動した。





「わーい!あるじ様だー!」

「だからさぁ……飛びつくなとは言わないけど、もう少し柔らかい感じにできないの?」


 飛びついて来たるぅねとじゃれるダークグリーンの髪色をした青年。世界を滅ぼすまでとはいかないが、絶世の美男子と言って申し分ないその青年は少し遅れてやってきたシュティにも爽やかな笑顔を向ける。


 瞬間、シュティの頭にノイズが走る。そして再び目を開けた時、シュティは目の前の青年を威嚇していた。


「…………っ誰……?」

「誰、とは流石に酷いな……俺だよ。アズマだ。」

「…………だから、あなた……誰……?」

「シュティちゃん、だいじょーぶー?頭おかしくなったのー?」


 アズマという青年に寄り添うるぅね。シュティには何故かそのすべてが気持ち悪いと思えた。


「不自然……だよ……?兄様の、名前は……」



 思い出せない。



「シュティちゃん?」

「髪、だって……」



 分からない。



 目の前の人物が、自分が兄と呼んでいたという事実だけは分かるが、それ以外が全く違う。


 だが、それが何なのかは思い出せないのだ。


「違う……よ…………?」

「何がだよ?何を言ってるんだ?るぅね、お前また変な薬を……」

「違うよー、シュティちゃんが変なのはいつものことだよー?」

「……違うだろ。シュティ、どうし「呼ばないで!」……どうしたんだ?」

「その名で、あなたが、呼ばないで……!」


 吐き気がする。頭がどうしても、どうしようもなく、痛い。心配げに覗きこんでくる顔が、これじゃない。


「嫌だ、違う……何、これ……?」

「おいおい、本当に大丈「触らないでっ!」」


 シュティがアズマの手を弾く前にるぅねがその手に対して鋭い一太刀を浴びせていた。


「何、あるじ様に、手を出そうとしてるの?殺されたいの?シュティちゃんだからこれで許してあげるけど、次はないよ?」

「うぅー……」


 シュティは斬られた分の血を自らの体の中に戻し、腕を再生させるための糧としようとして、思い出した。


「……!……あぁ、ありがとう…………るぅねちゃん……」

「え?どーいたしまして。」


 ぽかんとした顔でそう言うるぅねに対してシュティを起点として闇が蠢き始める。あどけないシュティの顔は妖艶な表情を浮かべてるぅねを見た後、憎悪の目をアズマに向ける。


 それを敏感に感じ取ったるぅねはいつもと変わらぬ顔で武器から滴るシュティの血を舐めてシュティに武器を向けて尋ねる。


「?斬られ足りなかった?やっぱ、死ぬ?」

「……あなたじゃ、殺せないよ?」


 斬撃の嵐の中でクスクス笑うシュティにるぅねがムッとして更なる強力な技を出す、その前にシュティは柔らかな唇を開いた。


「私を、食べたんだから……その血は、私に返してね?」


 瞬間、るぅねの体から体液や魔力が噴出し、シュティに飲み込まれる。それを見てアズマが非難をするが、シュティはそんなものを耳に入れない。


「偽物……うるさい、よ……?私の、兄様は……今村、仁。黒髪で、消滅の、力を使える…………例外者……!」

「オイオイ、何を錯乱してんのか知らないけど……止めさせてもらうぞ?」


 ようやく戦闘態勢に入ったアズマを見てシュティは嘲笑する。


「無理、だよ…………?っと……あ。」


 瞬間、背後からフォンと安善の攻撃がシュティに綺麗に決まり、シュティの体はズタズタになる。


「やり過ぎだって!」

「でも……」


 完全に死んだと判断したアズマは二人を非難しながらシュティを復活させようとするが、それには及ばなかった。


「くすくす…………いただきます……」


 地面からシュティが生えて来るとそれはフォンと安善からも何かを奪い取り、元の形に戻って地面から離れて空を舞う。


「あぁ…………兄、様の……土地が……綺麗に、しないと…………だから……あなたたちは、養分……ね……?」


 シュティはフォンたちの強大な力を以て補修と、自らの能力の付与に当てるとこの空間から出ようとし始める。


「ま、待て!」

「…………あなたは、兄様が……ね……何か、頑張って……保護してる、から……手は出さないで……あげるね……?」


 酷く興味なさそうにアズマを見下した後、シュティは今村を探しに別世界へと渡り始めた。

 残されたアズマは周囲で昏倒したまま動かないフォンや安善たちを揺り起こして何があったのか尋ねる。


 すぐに反応があったのはるぅねだった。


「るぅね、何が……?」

「うぅ……多分、魔牛を食べて、それが構成していたのを引き抜かれて、その穴から持って行かれたのかな……?そんな感じ……」

「それは大丈夫なのか?」


 アズマの問いにるぅねは下手な企み顔で答えた。


「あるじ様がちゅーしてくれたら……だいじょ……う、ぶ……?あれ……?誰?あれ?何で、るぅねは……あれ?あれ?あるじ様は……?おかしいよ?何で、知らない人がここに入れるの?あるじ様ー?応答……なんで、知らない人が持ってるの?」

「バグったか……?」


 アズマの疑問の目に対してるぅねは混乱したまま取り敢えずこれまで一緒に居て、相談できる相手のシュティの姿を探す。


「シュティちゃんは?」

「……お前、はぁ……今、斬りかかって逆に……」

「あっちか。」


 アズマのことなど無視してるぅねはシュティの下へと飛んで行く。直後、靄がかかっていた思考に冷たい記憶が蘇った。


「…………あは?あるじ様、消滅するって……言ってた……けど、まだ、るぅね動いてるから大丈夫だよね……?うん。兎に角、よくわかんないことばっかりだからシュティちゃんと相談しないと……」


 シュティがいると思われる方角から巨大な熱量が放たれて、るぅねはボロボロになりながらシュティの下へと辿り着く。


 シュティは非常に冷たい目でるぅねを見下した。


「…………何……?」

「あるじ様知らない?変なのが、あるじ様気取ってるの。あ、殺し忘れた。むーでも、それよりあるじ様が変なこと言ってたから、相談しないとダメだって思ったの。ねぇ、あるじ様、消滅するって、いつって言ってたの?あるじ様だけ消えるとか変なこと言ってたけど、るぅね一緒に消えるんだけど。」

「いつ……聞いた…………?」


 シュティの表情に興味が現れて、るぅねの下へと瞬間移動する。るぅねはシュティの急激な能力上昇に驚きつつもすぐに気にしないことにして頑張って記憶を辿り始める。


「あれ……?何か、おかしい…………?るぅね、その時、何か……?おかしいよ?何でなの?あるじ様のこと、その時、知らない人と……あっ……」

「………………あの時、その時点で……!」


 ある結論に至ったるぅねが全身から力を抜いてその場に崩れ落ちるのとほぼ同時にシュティの目に怒りの炎が灯り、近くの世界が軒並み潰される。

 るぅねは泣き笑いしながらシュティに告げる。


「あ、あは……るぅね、要らない…………に、戻っ…………ま、まだ、分かんないよね?あるじ様、何かあったのかもしれないよね?」

「…………じゃあ、何で、出て来ない……!もう、昼過ぎは、とっくに……!」

「気付いてないのかも、しれないよ……?あるじ様だって、時々、間違えるもん。そうだよね……違うよね……?るぅね、捨てられてないよね……?」


 シュティは一度、大きく息を吐いた。


「……一緒に、探そ……?世界を、潰していけば…………残った世界の、どこかには、いるはず…………もし、いなかったら…………滅びればいい……」

「……そーだね。どっちにしろ、消えちゃうんだし……あるじ様見つけたら後はまぁいいよ。うん。じゃあ……」

「「滅ぼそう。」」」


 今村の死後数時間。ここに、世界崩壊のトリガーが引かれた。




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全盛期、相川だった頃を書く作品です
例外者の難行
例外者シリーズです
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