19.思い残さないように
「何、で……?」
シュティがやっとの思いで絞り出した言葉はそれだった。
「ん?疲れたからもう今度の新作が来る16日で俺の人生終わり。で、まぁ……自分で言うのも何だけど、俺のことが好き過ぎて俺が死んだら生活に支障を来す奴らがいるからこんなことになった。まぁ、気にすんなよ。」
「…………無、理……」
「それもそうか。」
説得をするわけでもなく、当然のようにそう言って今村はその場に出してある簡易ベッドの上で寝返りを打つ。
「んー、んー?ん~……ん~?」
「さっきから何だこいつは……畑仕事しなくていいの?」
「終わったから……ん~……何か、変だなぁ……お兄さん見てると、おっぱいの奥がわさわさってする~……何でかなぁ……?」
シュティは今村の周りをぐるぐる回りながら時折止まり、首を傾げるるぅねに口出ししなかった。その代わりに今村に尋ねる。
「兄様が…………消える時は、……私も、消して……?……私も、疲れたから……」
「……折角休ませてたのに?」
「ごめん……ね……?でも、兄様を、逃すと……この先、また……」
(……そう言えばアズマは消滅の力は少ししか使えなかったか。)
「そうか……まぁ、仕方ない。」
「うん……じゃ、あ…………いつ頃……消えるの……?」
「昼過ぎだ。」
今村はそう言いつつ立ち上がってシュティの頭を撫でるようにして記憶の上書きをしていく。シュティには何をされているのか自覚がないようだ。
「待って、る……ね……?」
「じゃあな。」
眠そうにし始めたシュティを見た今村は上書きを終えたと判断し、先ほどまで自分が寝ていたベッドにシュティを横たえる。
すると首を傾げたままのるぅねは今村を見て警戒しながら尋ねて来た。
「ね、ねぇ……誰なの……?るぅね、会ったこと、ある?何かした?」
「……俺が誰だろうと、いいだろ?もう、何もしないんだから……」
「よくないよ?すっごく、気になる……るぅねのあるじ様じゃないのに……あるじ様に黙ってでも、知りたいくらい。後、消えるって、何で?シュティちゃんのことはるぅねが任されてるから、困るよ?」
るぅねの変な警戒のポーズを前にして今村は微妙な顔をしつつ苦笑する。
「安心しろ。消えるのは俺だけだ。」
「……それも、何か、困る……何で消えるの?疲れたなら、るぅねがあるじ様に頼んで、ここで休憩できるように……んーあるじ様そしたら怒るかなぁ……」
自分で提案したことに悩むるぅねを生暖かい目で見ながら今村はその申し出を拒否した。
「いや、いいよ。あんたが気にすることじゃないしな。それじゃ。」
「あ、待っ……」
るぅねの出した手は今村に届くことはなく、今村はこの世界からも姿と存在の跡を消した。
「……んー、酒宴の時間潰しにどこに行こうかなぁ……あんまり目立つ場所だと余計な混乱を招きかねないし……あんまりにも時の流れが早い場所だと時間がズレるからなぁ……」
「お前、何故まだ生きて……」
「おわっ……あぁ、ユーシア……そうだ。逆転の発想だ。」
敵意を露わにするユーシアを見て今村は邪悪な笑みを浮かべつつ全ての攻撃を無効化する。
「俺らの総攻撃で死んだはずでは!?」
「わりー、錯覚。全員に認識阻害掛けておいたんだけど……まぁ、何か付き合い長いからかお前には掛かってないっぽい。で、頼みがある。」
今村はにっこり笑って攻撃を喰らいながらユーシアの両肩を掴んだ。
「泊めて?」
「はぁ?っ!お、俺に、そんな趣味はない!」
振りほどけない力に対して、ユーシアはキスをしそうな程に近い今村に全力で焦りつつ抵抗する。だが、今村の方は苦笑するだけだ。
「俺にも変な趣味はない。ただ、消滅するまでの住む場所がないから頼んでいるだけだ。」
「そう言って、お前は……!ミニアンだけ飽きたらず、この俺も堕とそうと言うのか!?」
「全力で誤解してくれてるなぁ……つーか声が大きい。本神が来たらどうするんだよ……」
「ユーシア、私を呼んだの?」
驚くユーシア、苦い顔をする今村、そしてそれらを見て不思議そうに首を傾げるミニアン。まず、口を開いたのはユーシアだった。
「ミニアン……洗脳が解けたのか……?」
「洗脳?」
「おい、余計な刺激を与えんな。」
凶悪なほどの美貌を世界に振りまきつつ今村に対して放っていた以上の可愛らしさを振りまいて小首を傾げるミニアン。それらを見てユーシアは泣きながらミニアンの胸に縋りつく。
「ど、どうしたの?」
「ようやく、正気に……」
「おい、止めろっての。俺の存在はなかったことになってんだから整合性が取れないことはすんな。」
ミニアンには聞こえないようにユーシアの脳内に無理矢理テレパスを送り込む今村。何が起きているのかよく分からないが、ユーシアは一応頷いてこの場は今村から話を聞くためにミニアンを帰らせることにする。
「これからは、大事にする。もう、側室などは廃止だ。お前だけを愛すると決めたよ……」
「……もう、調子いいことばっかり言って……すぐに忘れるんでしょ?」
「いや、大丈夫だ。どれだけお前のことを愛しているかこの場で語り尽くせない程の想いを伝えたい。先に帰って、俺のことを待っていてくれるか?」
「…………先に帰らせたいんですね……はぁ……はいはい。」
呆れたような溜息をつきつつミニアンは去って行った。それを見送って彼は今村の方を睨みつけるようにして問い質す。
「……洗脳を解いた理由を聞こうか。」
「別に洗脳してたわけじゃないんだがなぁ……俺の記憶を剥奪して、それでも残った感情はある程度消し飛ばして、それでも残された分は別の場所に移し続けて、それでも残されて……結構苦労したんだからな?最終的には別の奴に好意を逸らすことで何とかしたが……」
今村の苦労したという言葉にユーシアは憤怒の形相で掴みかかる。
「おい、ミニアンに飽きたからとかいう理由じゃないだろうな?それならば俺は勝てんと分かっていてもお前を殺すために全力を尽くすぞ。」
「飽きたのは生きることと、頑張ることだけどなぁ……つーか。」
今村の目に寒々とした怒りが生まれ、ユーシアを貫く。
「殺せるなら、殺せよ。何で今俺が生きてると思ってんだ……それに、お前らが俺をきちんと殺せるほどの能力があれば、俺は……」
そこまで言いかけて今村は舌打ちして黙る。
「お前……」
「何でもない。ミニアンに関して……いや。端的に言うなら俺は童貞だ。元々の制約と、お前の呪いのお蔭でな……だから安心してミニアンと励んでくれ。」
「何を考えている?何をするつもりだ。」
「だからー消滅するっつってんだろ?あーお前の相手面倒。やっぱ他を当たることにするわ。じゃあね。」
そう言って今村は手をひらひらさせた後、ユーシアへ認識阻害を再び重ね掛けして別の場所へと飛び、そこで現時点における完全閉鎖空間を生み出して子どもたちとの飲み会の間まで自己封印した。




