17.悲劇
「……計画、変えますか?今からでも全員を集めれば……」
(あぁ、こっからか。)
ハジメのその声かけに対して今村は笑いながら首を振った。
「いや、もう大分変わってんだよねぇ……つーかお前特異点なのに……まぁ俺が無理矢理引き摺って来たからしょうがないか。」
笑っている間に世界に結界が張られる。急速に、そして先程見たレベルで強力に。今村はそれを見上げてひと手間加えて更に強力にしておきながらハジメに思い出したかのように告げる。
「そうそう、この戦いが終わったら、また酒でも酌み交わそうぜ?」
「……あの、私たちがこの戦いで死なないと世界が再び無に帰るトリガーが引かれるから父母様と一緒に死んでくれと言われて……いえ、生き残るおつもりでしたらそうしますが……逃げます?」
真面目に受け取られたので今村は微妙な顔をして冗談だ。とだけ告げて話題を変える。
「……それにしても、さっさと来ればいいと思うんだがねぇ……無駄なのに。」
そして予定された異変は、次の瞬間に起き、少し考えた今村によってそれは打ち消される。
「ぐっ……?今のは、一体……?」
「……俺以外の邪魔をこの世界から外に出して、中級神以下で嬲り殺しにしようとしてたんだ……まぁ、本来なら氷漬けにして別の世界に放り投げて封印しようと思ってたんだが、まぁいろいろ事情があって止めた。」
「……そうですか?」
よく意味が分からないとばかりに首を傾げるハジメに対して今村はそう言えばと思い出す。
「よくよく考えればこの時点で相手を引き摺りこんだが、その時点で結構簡単に相手に術が通じるって分かってたじゃん。久し振りに割と緊張してたから気付かなかった。」
「……【冥魔邪神】、か。」
そうこうしていると敵の本隊が今村の前に降り立つ。そして、人の形を成した光が耳を蕩けさせるような美声でそう告げるのを聞きながら今村は相手をおちょくることにした。
「人違いで~す。いや、化物違いだな。うん……あ、ユーシア!元気にしてたか?俺はまぁ元気だったよ!」
男の後ろにいた【勇敢なる者】に手を振って笑顔で声をかける今村。それに対して【勇敢なる者】、ユーシアは苦い顔で顔を軽く伏せるだけで何も言わない。
「ちぇ、つまんねーの。」
今村がどうあっても相手は流れ通りに物事を進めるつもりらしく、今村に宣言した。
「お前は、やり過ぎた。「あ、この辺り隙だらけじゃん。」正と負、陰と「やっぱり緊張してたんだなぁ……」陽、善と邪、光と闇……それぞれ「どうでもいいからさっさと始めてくんない?捻り潰すよ?」の調和のために、お前の討滅をここに宣言する。」
心底嫌そうな顔をする【始まりの神】に対してにっこり笑って今村は応じつつ次の瞬間には無視して一番殺し合いをした上、沸点の低いユーシアに対してふざけた口調で告げる。
「あ、ユーシアくんよぉ、俺……この戦いが終わったら、結婚するんだ……」
言った瞬間、言霊が世界に何かしらの働きかけを行う。それを感じて流石最強クラスの死亡フラグと感心しつつユーシアを見ると彼は今村の予想とは異なり穏やかな表情をしていた。
「……その軽口も、ここまでだ……我が宿敵よ。正直、本音ではお前との決着は俺が着けたかった……だが、存在の問題だ。もう、当事者間だけの問題ではないんだ。無様な死は見たくない。大人しく、死んでくれ。」
「まぁね、それもいいんだが……残念ながらただ死ぬってのはムカつくんだよね。もう少し待ってくれりゃ勝手に死ぬんだが……どうかな?」
今村の提案に対して、【芽吹かせし者】、セイランの対になる滅世の美少年が今村を心底見下した顔で告げる。
「あんたにはもう消滅しか残されてないんだ。早かろうが遅かろうが意味はないでしょ?諦めて今すぐここで自殺しな。介錯はしてやるよ。」
「何言ってんだこの俺がやられるはずないだろ?」
取り敢えず言っておきたいので死亡フラグを立てまくっておく。
「状況の把握すらできてない。こんなモノの相手に振り回される身にもなって欲しいな。原神殿。さっさと消せばいいだろう?」
「父母様、そろそろ始めましょう?」
互いのお付きがそう言うと、原神たちは臨戦態勢を整えた。それを見てから今村も緩く装備を固めて首を傾げる。
「んー『呪刀』じゃ過剰戦力かもなぁ……大太刀小太刀あたりにしておくか。あ、因みに俺が二刀流って知ってた?まぁその辺はどうでもいっか。」
高まる闘気の中で今村だけふざけたようにハジメに告げる。
「じゃ、先行ってるぜ?」
「……高速、神速。」
両者が揃って戦端を切る。今度は相手がモードに入るのをしっかりと見届けてからの攻撃で、敵にも油断はない。迎撃が今村たちを迎える。
恐ろしく濃密な攻撃。だが、分かってしまった。
(あっ……これ……無理じゃん……)
「父母様!?」
敵の攻撃を前にして止まった今村に対し、驚愕の声を上げてハジメが今村の横に戻ってくる。
「な、にを……?」
「……いやぁ……もう、ダメみたいだな……」
相手の攻撃が決まったところで、【勇敢なる者】が代表としてか、介錯をしに降りてくる。そこで見た今村は―――
「なっ!?」
「……お前らじゃ、逆立ちしたって俺には勝てないみたいだわ……」
無傷の今村だった。彼は忌々しそうに周囲を睥睨する。
「……駄目だわ。こんなのに殺されるのはムカつくわ。おい、ハジメ。」
「は……はっ!」
「ちょっと、引っ込んでろ。八つ当たりで皆殺しにする。あぁ、安心しろ……それもなかったことにしてやるから。」
気を抜けば殺される位の力が相手にもあることは認めるが、逆に言えば気を抜かなければ一切身の危険はない。
「あぁ、遊神さん。……はぁ……あんたらには、世話になったなぁ……勝手に幼い頃の目標にしてたし……まぁ、性格はアレだったけど。」
「化物がぁっ!」
「……あの世界から出て来ちゃダメだったな……武術だけ、なら俺と同じ……いやそれを上回ってたが……この世界には魔素も、神氣も、邪氣も、妖氣も、霊氣もおよそ俺が扱うことのできるすべての力がある……」
悲しげな目で今村は遊神を捻じ伏せてそのまま殺す。
「まぁ、後で何とかするから寝てろ……で、ユーシア……お前、前より弱くなってないか……?」
全て徒労とばかりに周囲に冷気を漂わせながら今村は霊氣を纏い、幽鬼のようにユーシアの方を振り向く。そしてその理由を解析して溜息をついた。
「あぁ……そうか。信仰の力が弱まったのか……俺の所為で。そうか……」
ユーシアが反応するよりも早く触れることすらなく冷気を送り凍結させ、粉々に打ち砕く。
「……はぁ。ダメだ。こぉんなに、頑張って、結末は、これか……」
「隙あり!」
「……それでも問題ないからこのままなんだよ。」
名も知らぬ旧神と思わしき相手の攻撃に見向きもしないまま、綺麗にそれを避けて先程まで自分がいた場所に来たそれを凍らせる。
「化、物め……!」
「そうなるようにしたのはお前らの方だろうが……俺はただ、邪魔をする奴らを排除するために強く……はぁ……」
喋るのも馬鹿馬鹿しくなってきた今村は溜息をついてこの場全てを凍らせた。
そして一言、
「……強く、なり過ぎたなぁ……しくった。」
と呟くのだった。




