13.鎮圧
「お、見っけ。フィト助けに来たぞ。」
「あ、あなた~うえ~ん~怖かったよ~」
「……龍一くんの方を助けに来たと言う方が正しいんじゃ……」
今村が湾岸でフィトを発見し、涙目で抱き着かれている中でアリスはそんなことを呟いた。
龍一は四肢を捥がれ、見るも無残な形で植物の蔦に吊し上げられており、意識も失っている。
「レイパーだよ~!いや~!あ~それ~ど~やるの~?私も~」
「……いや、思考誘導入ってるから……許してやって。」
小さくなっているマイアとアリスに気付いて自分も胸ポケットの中に入りたいとせがむフィトを背負いつつ今村は龍一を治してその状態を解析する。
「ん~いやらしい。」
「変態だよ~」
「そうじゃなくて、思考誘導が入ってんだよ。現代魔術じゃない……そうだな話術と言った方が近いかな?マイア、これ家に連れて帰って。」
「寝てる。」
返事がないマイアの代わりにアリスがマイアの状態を説明し、今村は胸ポケットからマイアを摘まみ出して龍一の隣に投げる。
「ふみゃっ!」
「マイア、それ連れて帰れ。」
「にゃう……分かったにゃ……」
悲しげにマイアは龍一を術で浮かせて屋敷の方へと帰って行く。マイアの代わりにフィトを胸ポケットの中に入れた今村は次の場所を考える。
それとほぼ同時に今村が持っている何らかの機器から警報音が鳴り、今村はその機器を取り出すとそれが指し示す方角に「異化探知」を使った。
「白崎か。相手は優也……」
「ね~何で~治したの~?レイパーだよ~?あれ~最低だよ~?」
「保護者だから責任能力がない場合の責任は俺が取る。……つーか、お前らも一応保護者なんだが……」
「じゃ~あなた~添い寝ね~?ギュッて~したまま~寝るの~」
思いの外軽いな……と感じつつ結構そんな場合じゃないと今村は白崎の場所へと飛ぶ。
「あっ!今村くん!助けて、優也が変なの!ずっと安全な場所に二人きりでずっと暮らそうって言ってて……」
「成程、確かに聞いてて違和感を感じるな。」
「そうじゃなくて!ほら、見なさい!あなたに攻撃しようとしてるわ!いつもの優也じゃ考えられない……」
「まぁ、色々あるんだよ。」
白崎の場所に着いた今村は白崎をローブで抱え上げて優也を上空から見下ろしながら異変の原因を探る。
「……無駄に不安を煽られて、精神的に追い詰められてる状態……というか、周囲が見えてないという感じかな?」
「……避けすらしないのね……これ、かなり強力じゃ……」
全て意味を成していないかのようにその場で優也の攻撃を平然と受けながら優也の状態を確認する今村に白崎は何とも言えない顔になる。
それら全てを気に留めずに今村は地面に降りて優也が一番得意とする遠くからの攻撃に拘るために距離を取ろうとした先に飛び、すれ違いざまに一撃を入れて沈める。
「ま、別に俺を殺そうとしたくらいしか悪い事してねぇし、この辺で良いだろ。世界的に良い事でも俺的にダメなことだからなー?」
「…………そうよね……結果的に、無事だけど……優也は今村くんを殺そうと……許されないことを……」
今村の言葉に全然意味を成していなかったが、優也の攻撃は今村が相手でなければこの世界は滅んでいたであろうレベルの攻撃であることを自覚した白崎がそう気付く。しかし、それに対して今村は軽く返した。
「いや、別にいいだろ。俺ぐらい。」
「いい訳ないでしょう……?あ、待ちなさい!」
「お前の妹が大変なことになってるからじゃあね。」
止める白崎のことを無視して今村は最後まで存在を気付かせなかった上、警報の解除に成功した場所へと急いで向かう。
(解除しなけりゃ、気付くのにもう少しかかってたな……チッ、それにしても遠過ぎだし行ったこともない……)
自力で飛ぶしかないことへ苛立ちながら今村は現場に到着する。そこで見た物は裸に剥かれ、猿轡を噛まされてテレパスを封じられて十字架に縛り付けられた祓と道衣の【全】と真っ赤な血を流しながら戦うアズマの姿だった。
「バカな……早過ぎる……!」
「がふっ……父さ……」
アズマが今村を確認してその場に倒れ、【全】は今村の登場に驚いて目を見開く。それに対して今村は一瞬だけ目を細めた後、嘲笑した。
「【全】よぉ。お前、アズマに担がれたな……まぁいい。取り敢えず、お前の権限については大体コピーし終えたし……消滅してもらうかなぁ……」
「な、何を……」
「分からないほど間抜けじゃなかったろう?……ま、その辺もおっと。口封じはさせんぞ。消滅させるにしても証拠品は残す。」
【全】の支配に関するコードの歪みが拡大したのを見るなり今村は【全】の前に一瞬で移動し、そう言って頭に手を置く。
「そ、【創始者万礼】……」
「前世でも効かなかったのに今世で効くわけねぇだろ……っと、俺、お前のこと嫌いだから滅茶苦茶にしながら治すから。」
ローブの一端を【全】の頭に突き刺してその場を離れて祓の方に行き、戒めを解いて抱きかかえる。
「せんせ……」
「はいはい。よく頑張りました。」
「……私たちの時と待遇が違う……」
「たいぐ~の~改善を~よ~きゅ~する~!」
抱き締めながら頭を撫でて慰められる祓に胸ポケットの連中が抗議するが今村は取り合わずに倒れているアズマを足の先でつつく。
「つーか五月蠅いぞ【全】。何をそんなに騒いでるんだ……」
「……ひとく……ダーリンが虐めてるんじゃ……」
「全く……『自聴他黙』。五月蠅くした罰だから更に苦しめ。」
途中で【全】へ更に術を掛けた後で今村はアズマを見下ろして祓に今村が来るまでのことを尋ねる。祓はこのままだとすぐに死にかねないアズマのことを少し見たが、何かあれば今村がどうにかするだろうと判断して気にしないことにして説明を始めた。
「【全】っていう……あの苦しんでいる者に拉致されかかって、偶然その場にいたらしいアズマ君と一緒に連れて来られたんですが……アズマ君は【全】に操られて意識を失いました。それで、【全】から先生に私は不要だと思われているかどうかとか……色々言われて……反論したら逆上されて、脱がされて……そこでアズマ君が、助けてくれて……今に至ります……」
「…………どうしたもんかね……」
祓の説明を聞いて今村は祓を自分から放し、腕を組んで考える。
「まぁ、取り敢えず訊くけど……アズマのこと好きに「先生しか好きじゃないですよ?何回、何十回、何億回でも言いますが……」……いや、ちょっとでいいからさ。アズマに心傾いたよな?」
「いいえ、全く……何を言ってるんですか?」
常識を疑うかのような視線を向ける祓に今村は更に少し考える。そうしているとキバがこの場にやって来た。
「うぃッス。全員救助完了ッス。……まぁご主人に助けられたかったとか言いながら勝手に処理してた奥方の方が多いんですけどね……」
「うん。お疲れ。帰っていいよ。」
「あいあい……何考えてるんスか?」
「今回の事件について説明するかどうか。」
「さぁ?まぁ、解決したんだしいいんじゃないスか?」
キバは軽くそう流すが、事件の被害者たちは出来れば説明して欲しいと今村に訴える。今村はそろそろアズマが死にそうなので復活させ、なおも首を傾げる。
「いや……じゃあ取り敢えずアズマにだけ言ってからにするわ。」
そう言って今村は術の終了によって完全回復を遂げたアズマを連れて別の世界へと飛んで行った。




