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例外者の異常な日常  作者: 枯木人
終章~彼にとってのハッピーエンド~
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10.華凜さん

「父様!父様!華凜頑張ったから来て!」

「……俺も俺で結構頑張ってたんだが……まぁいいよ。で、どこに行けばいいんだ?あんまり遠くないといいんだが……」


 日香理の傷心慰安旅行に付き合って帰ってきた翌日の今村は何やら興奮気味の華凜に急かされてソファから体を起こした。


「第一世界のチョクレジィトリィ!繋げてるから通るだけでいいよ!」

「……あぁ、美食世界。」

「そう!お店で頑張って、華凜上手になったから父様呼んでみたらって。お店直通で繋げてあるから早く!」

「まぁ、店直通なら大丈夫か……」


 腕を絡め取られながら今村は次元の裂け目に向かって入って行った。







「あっ…………えっ……?」

「店長さんどうしたの?」

「ここかよ……まぁいいけど。よぉ。」


 今村が入店したのを見た途端、料理を落下させる店長。そしてそれを見た華凜は首を傾げつつも何となく状況を先読みし、今村が答えを言う。


「久し振り?ここだとどれくらいの時間が経ったのだろうか……」

「1000年ですよ……私も、入神しました……相川シェフ……」

「へぇ、おめでと。」

「軽いな!」


 奥から別の女性が現れた。


「……ちっさいな~」

「お前がどっか行くからだろ!食欲元に戻ったからこんなままだ!謝罪として料理を作れ!」

「面倒だからパス。そんなことより華凜、どれ喰えばいいの?」

「え……いいの……?」


 何だかあまりよくない状態にしてしまった感がある華凜は周囲の状況を見ながら困ったように今村を見上げる。第1世界に来たため、「αモード」状態の今村は周囲のことを気にせずに席に着く。


 すると当然のように小さい人が隣に詰めて来た。


「まぁ、華凜というやつも料理は上手いがな。お前の娘だとは……流石。」

「こいつが頑張ったんだから俺は関係ない。こいつの努力を才能で否定しない。後無駄にこっちにくんな。」

「無駄じゃないぞ。……ところで、華凜は今村と言うファミリーネームなんだが相川、お前婿入りでもしたのか?」

「してない。」


 世間話が始まった今村たちのことを見ながら華凜は困ったように店長の方を見て尋ねる。


「え、えぇと、店長さん……料理、持ってきたいのですが……」

「え、あ、うん…………うん……」


 店長がどこか上の空になっている状態で華凜は困りながら料理を運び始める。その間に今村は店長に声をかけた。


「まぁ来たもんは仕方ないから訊くけど、最近この辺武装してる奴ら多いけど何で?」

「ぃ、さ、最近も、来てらっしゃるなら……どうして……」


 答えになっていない店長の言葉に対して小さい人が代わりに答える。


「戦争だ。お前が残した食材を巡って国が戦争しておる。」

「はっ。馬鹿かよ。」


 割と深刻な答えだったが、鼻で笑い飛ばして華凜の料理が揃うのを待つ今村。その瞬間、扉が開かれた。


「あっ、いらっしゃいま……せ……」

「お、いたいた。ゼロだ。」

「ふー……休戦は今の間だけだからな爺。食い終わったらさっさと首洗って王城で震えて待ってろ。」

「強がるなよ小童。震えて待つのは貴様だろうに。」


 現れたのは男4人と霊体のナニカが1人。それを見て華凜が固まる。


「各国首脳部の……和平会議でも揃わなかったのに、どうして……」

「……嫌だなこの流れ……俺が飯作る流れじゃん……何で飯食いに来て作らねぇといけねぇんだよ……面倒だ。さっさと済ませよう。アニス、厨房借りるぞ。」

「は、はいっ!」


 今村の発言に一瞬で我を取り戻したアニスはスタッフの控室に飛び込んでコックコートを持って来る。


「いや、要らん……まぁわざわざ持って来たんだしら着るけどさ……」

「え……それって、このお店の最高シェフの服で……やっぱり……?」

「……まぁ、ちょいと馬鹿の結婚式の為に料理を頑張ってた時期があってな。その時にここで料理してた。」


 華凜にそう言い残して今村は厨房へと消えて行く。しばし、料理をする時の音とは思えないような断末魔や破砕音などが響く中でフロアは懐古するように談笑する。


「あ~……この騒がしい感じ、懐かしい……」

「こんなのを懐かしんでたんですか……通りでお客さんが多くてもどこか静かだと言う訳ですよ……」

「この時点で香辛料の香りが……食欲を掻き立ててテーブルごと喰らいたい気分にさせられる……」

「あ、あの、それはやめてくださいね……?」

「おらよ。」


 急に音が止んで今村が不定形に蠢く灰色のナニカの料理を持って現れる。華凜はそれを見てドン引きするが客たちは笑顔でそれを迎え入れた。


「で、そこの亡霊は……まぁこれ食っても大丈夫だろ。」

(ほっほぉ……これは、また、えも知れぬ……)


 適当に配膳を終えた今村は華凜の料理の席に戻り、華凜の料理の仕上げを待つが、後ろが五月蠅くてどうしようもない。


「美味ぁあぁぁあああぁいぃぃいいぃぞっ!思わず生き返ったわい!」

「父上!?居たのですか!」

「何、そこまで美味いとなると……過去の、決勝戦クラスの料理か!?俺にも寄越せ爺!」

「はっ!嫌に決まっておろう!これは儂のじゃ!悔しかったらお主も死んでみるがいい!フハハハハ!」

「……いや、そういうんじゃねぇから。大人しく喰えよ……華凜は料理が冷める前に仕上げした方が良いんじゃないか?」


 霊体が復活して若者に爺呼ばわりされていた壮年の男がその霊体に爺予備をしながら騒ぐのを軽く窘めながら今村は華凜に料理を促す。だが、華凜はその騒ぎを見ながら首を振った。


「……お父様……料理ランキングに載ってなかったのに……」

「相川シェフはナンバーゼロですから……」

「何それ……」


 がっかりする華凜。それを今村は気まずそうに見る。


「……まぁ、でも上手くなったんだし……」

「華凜、父様に美味しい物食べさせたかったから頑張れたのに……父様の方が上手だったら……うぅ……」


 本気でショックだったらしく、周囲に多数の人がいるのにもかかわらず二人きりのモードに入りかけている華凜。幸い、周囲はそんなこと気にせずに忙しなく料理に集中している。


「……華凜も慰安旅行を希望します。父様と二人きりで……」

「……わかった。」


 仕方がないといった風に今村は華凜の申し出を了承してそろそろ騒がし過ぎるようになってきた後ろに目を向ける。


「おいアンタら。食物争いで戦争するのは生物として仕方ないことかも知れんがそれで世界を滅ぼすようなことはないようにな。」

「……まぁ、父上も生き返ったことですし……収まりはつくでしょうね……ですが賠償を……」

「俺が両方に出す。それ以上、何か文句あるなら掛かって来い。」


 異存はないようだった。今村はレジェンドクエスターズから何かしらの手当てを送るように指令を出して華凜を伴い、店を後にする。

 そして今村が帰るつもりであると気付いたアニスがその後ろ姿に手を伸ばし、引き留めに係る前に今村はその場からいなくなっていた。


「ま、また……碌に、お話も出来ずに……」


 その場に崩れるアニス。流石に周囲の人々も気を遣い、お代だけ払ってその場から出て行く。


「……さて、また悩める女の子を見つけた。」


 そんな折に、この場にも滅世の美少女が舞い降りる。彼女は小さい人が魅了されて固まる中でアニスに向かって女神の微笑で花唇を開いた。


「さぁ、あの人のために……ボクらと協力しないかな?」

「あなたは……」

「まぁ、恋する乙女だよ。君の料理能力は素晴らしいからね。仁のために一生懸命頑張ってきたその姿はボクに……まぁ勝てはしないけど、結構美人だから。行こう?」


 何が何だかよく分からないが、アニスは一先ずその滅世の美少女の話を聞くことにした。




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全盛期、相川だった頃を書く作品です
例外者の難行
例外者シリーズです
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