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例外者の異常な日常  作者: 枯木人
終章~彼にとってのハッピーエンド~
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5.短期編入生活にあたって

「えー、ね。今日は、ね。また、ね。新しい、ね。人がね。来ます。」


(……ん?)


 40歳中ごろというくらいの年齢に見える担任の男性教諭の言葉に今村は首を傾げながら前を見た。


「えー、ね。ね。教育実習のね、方がね。2週間、ね。来ます。教職課程の、大事なね。ものだからね。ね。皆さんも心がけてね。下さいね。間違ってもね。能力に飽かしてね。変なことはね。したらダメです。では、お願いします。」

「……グロ・マキぁっ!?……失礼しました。グロ・マキアと申します。短い間ですがよろしくお願いします。」


 驚くマキアに対して同様に驚く今村。そして子どもたちも驚くが、周囲の歓声に掻き消されてそれらに誰も気付くことはない。


(何であいつが!?……ザギニの奴、喋りやがったか……?いや、マキアの顔は予想だにしないものだったから偶然……?)


「父さん……何アレ……」

「知るか……」

「えー!ね!皆さん!ね!静かに!静かにしなさい!ね!……オイ、あんまり我を怒らせるなよ……?」


 雰囲気を変えて来た男性教員に生徒たちの大方が黙る。教室内がある程度静かになったところで教員はマキアをエスコートしようとして避けられつつ次の授業の為に移動した。


「えーと、次の授業は魔導学か……そういや教科書が来るのは明日か……自分で頼めばすぐに取り寄せできるが、バレ防止のためにそうしてたんだった。」


 今村はそう言って近くの席の人の本を術式でコピーして新しい物を製造しようとするがその前に華凜が今村の机を引き寄せ、自分の机も半分ぶつけるようにして机を合わせる。


「教科書、ないんですよね?私のを一緒に見ましょう?」


 わざと周囲の人に聞こえる声量で、わざとらしさを見せないようにそういう華凜に今村は苦い顔をして念話で答える。


 ―――近くの奴のを術式でコピーするからいい。目立つ前に下がるぞ―――

 ―――嫌です!華凜、父様と机合わせて勉強してみたい!教科書、明日来るんですよね?本が無駄になりますよ!今日は華凜と見よぉよ?魔導学終わったら体育と家庭科だし……―――


 時間割はそうじゃなかったはず……と思って今村が前の時間割を見ると周囲の妬みの視線が恨みの視線に変わりながらこちらに突き刺さって来た。


(美味そう。)


 それを食べつつ黒板に目を移すと時間割変更があった。家庭科室の空きの問題で調理実習が今日になっているようだ。


(……ふむ。暗に施設が足りてませんってことを訴えかけてるのかな?)


 裏の意味を探りながら今村はそう思うが、周囲の目はそれどころではなくアズマも苦笑しているほどだ。


「……華凜様、尾藤くんの教科書は……私が見せますから……」

「……私の好意は無駄だと?」


 念話とは何千℃もあるかのような温度差で華凜は今村の逆隣りの生徒に向かってそう言う。するとその子は善意で言ったのにもかかわらず、悪いことをしたかのような罵倒を向けられた。


 そんな様子を見て今村が誰にも見えないように楽しそうに笑う。それに気付いたアズマがいち早く警告する。


「止めなよ。」


 それにより一部の声が止むが、華凜の様子を窺う男たちは華凜がアズマの発言に対して同調する素振りを見せていないことを確認し、アズマを睨む。


「……てめぇ、王子だか玉子だかしらねぇが調子に乗り過ぎじゃねぇか?」

「お?お?」

「お父様……」


 やる気満々の敵に対してそっちがその気ならこっちにも備えはあるぞと言わんばかりのアズマ。そして楽しそうにそれら全体を伺いつつ介入しようかどうか考えている今村を止める華凜。


「弟なんだから、お姉様の言うことには従ってろよ……何なら、未来のお兄様の力を見せてやってもいいんだぞ?」


 男子生徒はアズマにだけ聞こえるようにそう言うが、今村はそれを一応聞きながら笑う。アズマは溜息をついて相手を睨んだ。


「弱い犬ほど……よく吠えるね。華凜が誰と付き合うのかはどうでもいいけどぼ……俺が、兄なんだけど?っていうか、能書きは良いからさっさとかかって来てくんないかな?俺らって父さんの言いつけで正当防衛以外の暴力を認められてないんだよね。」

「……保健室でその言葉を後悔しな!」


 戦いの戦端が切られた。華凜は結界を張りつつ呑気に今村に結婚相手の条件を言ってアレはないと話をしながら観戦する。それを聞きながら今村は保健室より病院でその言葉を後悔しろの方がまだ格好いいよな……とどうでもいいことを考えていた。


「いや、棺桶の中で後悔しろ……か。」

「え?殺していいの?」

「いやダメだけど。」


 戦闘途中でアズマは今村の方へと声を飛ばしてそう尋ねるが今村がそれを否定する。そのため、仕方ないとばかりにアズマは指先をその男に向けて小さく呟いた。


「エレキガン。」

「ごぐ……」


 殆ど物も言えずにその場に崩れ落ちた男。そうこうしていると魔導学の授業の時間になったらしく、先程の教員とマキアが教材を持って戻って来た。


「……オイ。誰だこいつを寝かした奴は……」

「アズマです。」

「おい!華凜!?」

「……貴様か。スミマセンが、マキアさん。私は少し席を外して生徒指導に入りますので生徒たちの自習監督に入って下さい。」

「はい。」


 身代わりを生み出して逃げようかと思うアズマだが目の前に今村がいて何を言われるのか分かった物ではないので諦めて教員と共に教室を後にする。


 教室内ではマキアに質問などが飛び交うが、マキアがそれら全てに対して『自聴他黙』を掛け、首を傾げて原因不明の音波障害を装いながら今村に念話で質問する。


 ―――何でいるんですか!?私の為ですか!?―――

 ―――俺こそ訊きたい。取り敢えず他のには黙ってろよ?―――


 マキアは誰にもわからない速さで頷いた。


 ―――黙ってます。で、私が来たのはアズマ君から先生が白百合学園の監査をするって言ってたと聞いたので、どうせならこの辺りの学園に監査をした方がいいんじゃ……という話が上がりまして。それで、ザギニのことも心配ですし、仕事のついでに来たっていう―――

 ―――……担当部署の下っ端にやらせるかと思ってた……―――


 理由が分かったところで今村はふと自習になったので華凜と机を繋げている必要もなくなったと机を離してマキアに告げた。


 ―――仕事は、真面目にやれよ?分かってるだろうが……―――

 ―――……んー……脳内で、頑張って済ませます。問題は発情しっぱなしなので周囲の性欲が上がったりすることですか……あ、お願いですけど流石にここでいっぱい我慢するので家に帰ってから3分で良いので一緒に部屋にいてください。一切触れませんからお願いします。―――

 ―――……まぁ、それくらいならいいだろ―――


 こんな契約を結んで今村の超短期の編入生活が始まった。




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全盛期、相川だった頃を書く作品です
例外者の難行
例外者シリーズです
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