3.入学して
「で、今度の学校はどうだ?」
特に問題はなかった入学式の夜、今村はアズマとフォンと一緒に食事を摂りながらアズマにそう尋ねた。
それに対してアズマは思い出し笑いのようなモノをしながら答える。
「面白そうだよ。何て言うか……堕天使と天使の息子の、小田倉って言う奴が僕の隣の席なんだけど……彼が疲れたような顔をしてたから取り敢えず友好関係を築くために話しかけて相談に乗ってみたんだけど……」
「……どうでもいいけどお前、そろそろ自分のこと俺って言った方がいいと思うぞ顔と年齢的に何となく。」
アズマにそう言いつつ今村はフォンに目配せする。そのやり取りを見たアズマは面倒なことになる前に黙って直すことにした。
「で?続きは?」
「……そしたら、登校風景から面白くてさ……まず、曲がり角で女の子とぶつかる所までは普通なんだけどさ。」
「……あんまり普通でもないけどな……」
アズマは日常的にそんなことがあるのか……と変な感心をしながら今村はアズマに続きを促す。
「いや、リアルで『遅刻遅刻~』って言いながら来る子はあんまりみたことないけど……それでも彼はそこからが普通じゃなかった。その子……フランスパンを1本丸々咥えたまま走ってたんだ!しかも、両手に更に一本ずつ。それに加えて通学用バッグの中には更にもう2本!」
「……頭おかしいんじゃねぇの?わざわざ話すってことは食に関する能力者ってわけでも何らかの代償ってわけでもないんだろうし……ご馳走様。」
食事を終え、フォンが食器を片づける中で今村とアズマは話を続ける。
「その上、味付けとかなしだよ!?いや、焼き直したパンもあったろうけど……それにしても変わってるなって思った。そしてそんな子と知り合って何かに巻き込まれかけてる小田倉君には更に驚いた。」
「青春してそうだな。」
フォンが淹れた食後のお茶を飲みつつ今村は頷いた。だが、アズマの話はまだ終わらないようだ。
「しかも、その日の内に続けてまた別の女の子とぶつかるという……しかも今度は食パン一斤をそのまま咥えた少女が!」
「……そいつら、お前らと同じ学校?」
「いや、百合姉ぇの出身校の白女……白百合学園だよ。これから話す子も、そしてその次の子も。」
(まだ居るのか……)
「で、その食パン少女は……」
「味付けなしでボ……俺の頭くらいの大きさのパンを器用に齧りながら『遅刻遅刻大遅刻~!』って言いながら……」
「どうでもいいけどさっきから何か昭和チックな台詞だな……」
「更にどうでもいいけど百合ちゃんの学校って厳しくなかった?」
食事の片付けを終えたフォンが話に入って来ながら今村の隣に座り笑顔で手を抱き寄せる。日常の風景ながら甘すぎる両親の姿に辟易しながらアズマは説明と話を続けた。
「遅刻とかには厳しいらしいよ。」
「食事のマナーは?」
「さぁ?それぞれの家の文化を重んじるんじゃない?」
「……重んじすぎだろ……」
半分くらい諦めながらフォンに抵抗しつつ今村はそう言う。そんないちゃつく両親に対してアズマは次の出会いを言いたそうにしているので今村もフォンへの抵抗を止め、話を促すことにした。
「でね、その次の交差点で合ったのがなんと!首から大きなお盆を提げてご飯を飯櫃いっぱい!味噌汁を両手鍋一杯!ワラサの照り焼き一尾丸ごと!そしてボウルに大きめの藁に包んだ納豆を入れた美少女とぶつかるんだ……!」
「大惨事じゃねぇか。」
「いや、何か女の子の能力で全部無事だったんだけど……その子はそれまでの子と違って『時間がなくて学校に遅刻するなら学校を潰せばいいじゃない……』って言いながら笑ってたんだ……」
「……もう白百合学園ダメだなこりゃ。」
次の補助金と寄付金についてどうするか考えつつ今村はそう言った。だがアズマはまだ何か言いたそうにしており、フォンがそれを言うように促した。
「で、僕は……じゃなくて俺はその子の時に味付きのご飯だったから何となく落ち込んだんだけど……」
「何に落ち込んでんだよ。」
今村の突っ込みも意に介さず、アズマは言いたいことを言う。
「でも、その子……それまで通り味付けのないものがあったんだ……それが、納豆という……!」
「……変わった奴だな……」
「うん。その子は色々考えた結果、小田倉君とぶつかったことで遅れたということにしようと画策して学校にその小田倉君を連れて行くんだけど、他の子は素通りでその子だけ怒られた。何でも左手でバッグ持ってたから左手を使わずに食事をするとはマナー違反だって。」
「……怒るところそこなのな……取り敢えず、白百合学園への寄付金は減額決定とするか……」
「その後もまぁ俺とかを呼び集めるくらいだから結構面白いこといっぱい起こったんだけど……明日の学校の為に色々準備しないといけないから省略。」
アズマは言いたいことは言ったとばかりに食卓を後にする。それを見送りつつ今村はフォンを引き剥がして自宅に帰った。
「お帰りなさいませ、お父様。」
「あぁ。」
百合の出迎えを受けつつ今村は執務室に直行して残っていた分の仕事を片付けつつ白百合学園への監査を入れる旨の通知書を作成し、色々考える。
(……なんだかんだ言って俺、未だにまともに学校に通ったことないな……いや一応行ってはいるが……中学時代は屑退治に忙しかったし……アズマたち楽しそうな学園生活やってるっぽいしなぁ……)
各家庭の昼食や夕食にお邪魔して話を聞いたところ、華凜以外はそんなに早く卒業したいという声を聞かないので今村は承認印を捺しながらそんなことを考える。
(……行ってみるかな。変装して。なに、そんなに俺のことなんて見てないだろうしバレんだろ。監査の名目で俺を編入させて……)
そうと決めたので今村は書類の作成に入る。
(……白百合学園の現状調査に当たって、比較対象となる学園の調査っと。地域性を考慮し、学力なども考慮することで貴校への監査を……)
文言上では柔らかく。しかし断れば内部に疚しい物があると判断すると言うことを裏で仄めかしながら書類を書き、今村はすぐにそれを送付する。
(誰かに任せると情報が洩れて面倒なのが来るしな。なるべく短期間での編入にして、情報が漏れないように進めないと……)
子どもたちの混乱のことも考えたがあまりこちらから指定すると余計な疑いを掛けられて無駄な確認の連絡が入りそうなので監査の名目だけを短い準備期間で指定し、編入することに決めさせる。
(まぁ、誘因者みたいなのが来たし、そろそろ終わりだから我慢してくれ子どもたちよ。)
「お父様、緊急の書類が……アフトクラトリアで紛争だそうです……」
「……うわ。」
戦力調整や政治支援、また難民問題や外交問題などの面倒な仕事が大量に入ったな……と思いつつ今村はさっさと片付けて遊びに行こうと決めた。




