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例外者の異常な日常  作者: 枯木人
第三章~異世界その1~
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10.暗躍

「…流石に無謀な突撃をするのはやめたか。」


 今村は遠視でローゼンリッターの歩兵部隊と敗残兵の騎兵部隊が合流した後、平地に陣を敷いたのを見てそう呟いた。


「…まぁ陣を作ったんなら夜襲掛けるけどね。」


 現在は夕方。日が落ちた後今村は夜襲をかけるか…と思いつつ自陣の完成を待っていた。すると背後に気配を感じる。


「ルゥリンと…祓とルカ、それに小野か。」


 今村は背後を見るまでもなく誰がいるかを言い当て敵陣の動きを観察し続ける。その背後からルカが飛びついて来た。


「おし…おししょ…おししょーさまー!」

「ごっは!」


 今村は腰辺りに後ろから衝撃を受けて息を吐く。常人なら即死レベルだがローブが反応しないということは悪意は全くないのだろう。


「何で一人で勝手に行ったですかぁ…?」

「…とてもじゃないが一人と言い張るには無理がある人数連れて来てるが…」


 7000人連れてきている。これを一人と言うには無理があると今村は前を向いたまま主張。だが彼女たちは全く分かっていないという表情を浮かべた。


「違うですよ今村様。この子たちがあなた様がいなくなってどれだけ心配したか分からないですか?」


 正直全く分からない今村だがそう言うと袋叩きにされる気がしたので代わりの言葉を探し、彼女たちの方を向く。


「…ルゥリンにその子呼ばわりはされたくないだろうな…」

「う…五月蠅いですよ!一応この中で年長者ですからね!私18歳です!」

「…うん…そうだな…」


 良いこと言ったのに何言ってるんだと憤慨するルゥリンに思いっきり生暖かい目を向けてやる。これで話が逸れて追及は免れたかと思うとそうでもなかった。


「今村…次は…無いわよ…」


 小野の目が怖かった。もちろん今村に通じるほどの威圧は放たれていないがそれでも周囲の空気を重くするには十分だ。そして祓が今村の超至近距離に正面から近付く。


「…何とかなると思っていても怖いのは怖いんですから行く前に言ってください…」

「…急に襲来したんだからそんな暇はないだろ。」

「じゃあずっと傍にいます。いいですね?」

「え…」


 驚く小野とニヤニヤするルゥリン。それに一瞬思いっきり嫌そうな顔をしてしまった今村。


「…それは無理だ。お前らに俺と同じパフォーマンスを要求したら衰弱死するぞ?正直邪魔。」


 いくら「神核」を持っている祓でも今村に付き合うには及ばないし、ましてや異世界に来て強くなった程度の小野、少しの間今村の訓練を受けただけの人間では到底及ばない。

 今村はそれだけのことをやっているのだ。


「じゃ…じゃあ今村はそれだけのことをやってるってこと!?なら分けなさいよ!」


 そんなことを全く知らない小野は今村にそう要求する。今村は露骨に嫌そうな顔をしながら術を発動した。


「『権利委託』」

「何…きゃあっ!」


 突如小野の頭の中に大量の視覚情報が入り込んできた。それは映ったたった1秒にも満たない時間で小野が自力で立つのを不可能にする。


「い…今のは何…?」

「…今使ってる烏の情報統括。大丈夫か?」


 小野の問いに今村は事実を冷静に伝えて手を差し伸べた。小野はそれを掴んで立ち上がる。ルゥリンがその様子を見て今村に訊く。


「その烏の情報統括ってなんですか?ルゥリンも使いたいんですけど…」

「お子様にはまだ早い。」


 斬って捨てた。ルゥリンは再び憤慨する。


「折角今村様の助けになるかもと思ったのにですよー!」

「無理、少なくとも『並列思考』をマルチモードにできないとな。」

「どういう事か分からないですよー!」

「つまり…ルゥリンなら右手で料理しながら左手で皿洗いしてワープホールを形成しながらコサックダンス踊ってその音楽を歌うぐらいできないとダメってこと。」

「そんなのできるわけないですよ!」


 ルゥリンが叫んでいる間に後ろの人は今村から離れてコサックダンスしながら右手で剣を操り左手で槍を操って魔力糸を伸ばそうとして気を失った。


「…はぁ。魔力で無理に体を動かして魔力切れ起こしたな後ろの馬鹿弟子は…」


 今村は見もせずに後ろの状態を当ててローブで背に背負った。


「全く…余計な真似をして俺の仕事を増やさないでほしいなぁ…」


 今村の言葉に小野と祓は俯くしかできなかった。












 ローゼンリッター遠征軍幕舎。薄暗いその場所に三人の人物がいた。


「…何ですと…こちらの陣営は今村と言う男に筒抜けと言う事ですな。…ふぅむ…ですから先手を打とうとしても出来ずにむざむざと騎兵隊を失うことになったと…」


 その中のカイゼル髭を生やした男が女の報告を受けて唸った。それに女は付け加える。


「…それに加えてお前らが間抜けだったからだな。見ていたぞ。」

「ははっ!面目次第もございません!」


 男は女の冷たい言葉に平伏して詫びる。それを一瞥して女は続けた。


「まぁいい。それよりもあの男…危険すぎる。このままでは我々が負けてしまう。」

「神の使徒である我々が…!?姫様!それはありえませぬ!」

「黙れ!現に負けておるではないか!いい加減奴の方が我々より強いことを認めよ!この愚図が!」

「…っ」


 女の冷静な言葉に声を荒げたもう一人の男は女のより苛烈な言葉に言葉を詰まらされた。


「いいな。これで早期戦に意味はないことが分かった。早く引上げ…」

「敵が来たぞー!」


 女の言葉が終わる前に兵士の悲鳴が響き渡った。女は苦々しげな表情を浮かべた。


「ちっ…流石と言っておくか…貴様ら。能力者・・・に犠牲者は出すなよ?」

「「はっ!」」


 二人の男はすぐに行動に移し、そして女もいつの間にか消えていた。












「…あ~だっるぃ。」


 燃え盛る敵陣の中で今村は溜息をついた。敵はあらかた片付け終わって今村の軍たちにはほぼ損傷はない。しかしローゼンリッターは多くの数を打ち取ることができた。


「大勝利…ね…」


 真っ暗な中で炎の明かりに照らされた小野が今村の方にやってくる。その顔はどことなく苦しそうだ。


「…人の焼ける匂いに当てられたか?」


 今村は「黒魔の卵殻」に覆われていて火の暑さもそれで発生する煙による息苦しさも何かが焼ける匂いもシャットアウトしているのでわからないがおそらくその辺りだろうと見当をつける。

 小野は頷いた。


「…それもあるけど…多くの人たちが死んでいくのを見て…」

「…あぁ。それか。」


 小野は平和で戦争もなかった世界から来たのだ。だが、今目の前にあるのは死体死体死体死体。死体の山だ。


「…それに…初めて人をこの手で殺…殺し…殺して…」


 そこまで言うと小野は泣き始めた。今村は溜息をつく。


「…とりあえず落ち着け。いいな?お前は殺されるかもしれないから殺したんだ。それは当然のことだ。誰だって死にたくないんだから自分が死ぬぐらいなら相手を殺すさ。元いた国の法律だってそうだろ?正当防衛。」

「で…でも…私が殺した人は私を殺すかどうか…」

「まぁ殺さないかもな。死ぬより酷い目に遭わされるかもな。でもたらればの話はキリがない。諦めろ。お前が選んだんだろうが。嫌なら最初からここに来るな。」


 今村は厳しく言った。この戦闘に参加したいと言ったのは彼女自身なのだ。一々泣き言をいうぐらいなら出て来てほしくない。


「…っぐ…ふぐっ…」


 小野は涙を乱暴に拭って今村を真正面から見据えた。


「嫌よ。また出る。まだ戦う。」

「なら行け。で、何かあったら全部吐き出せ。じゃねぇと心壊れるからな。幸いうちの軍の近衛は全部女だ。」

「不潔…」

「…何にもしてねぇよ。」


 何となく二人は笑った。そして小野は近くにいたルゥリンの下に走って行った。そしてそれを待っていたかのように黒装束の人物が今村に報告書を渡す。


(…にしても勝手に戦闘に行って戦えなくて・・・・・悔しがってた割に何を苦しんでたのか…まぁ思ってるのと実際やるのは違うからな…)


 今村はそんなことを思いながら報告書に目を通す。そして顔を顰めた。


「…通りで手ごたえがないと思ったが…能力者はもう逃げてやがったか…」


 今村は苦々しげに天を仰いだ。




ここまでありがとうございます!

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全盛期、相川だった頃を書く作品です
例外者の難行
例外者シリーズです
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