16.感動の再会破壊
子どもたちが誘拐されたその日は女の子組は恐怖などの様々な感情のため今村から離れられなかったので仕方なく一緒に寝て、男の子組は絶対に嫌だと訴える祓とフィトを昏倒させてアズマと龍一と一緒に寝かせた。
その日の翌日、怒りに涙を流しながら部屋に来た祓とフィトに失言の所為で邪魔にならないようにであれば同衾1ヶ月の許可と屋敷内での同行2ヶ月の許可を与えてしまい、それで宥めた今村は子どもたちと会議を開く。
勿論、祓とフィトも邪魔にならないように同席した。
「さて、その装置を提出すれば確かに卒園できるが……それはどうしてもという理由があってか?」
議題は、卒園に関してだ。正直今村はこの子どもたちは能力はあれど、あまり社会性を身に着けているとは言い難いと思っている。
尤も、自分も決して社会性がある方だとは思っていないが。そして子供たちに意見を求めると子どもたちは口を開いた。
「……だって、お料理、残飯みたいな味で……雑だし、不味いし……」
「部屋、壁とか汚いし……涎まみれの玩具とか触りたくない……」
「思い通りにならないとすぐ泣かれますし……」
「赤の他人の前でお昼寝とか訳わかんない……この前油断して誘拐されかかったのに……」
「教育レベルはあんまりだし、パパもママも自宅にいるのに預ける意味が分かんないし……周囲の目が痛いよぉ……」
「父様いないし……」
色々な理由が出てきた。今村はそれを聞いて少し考え、頷く。
「正直この時点でこの年齢の子どもたちに自分で将来を決めさせるってのはどうかとも思うが……まぁ、お前らの能力があればどうとでもなるな。」
「うん。」
「じゃあいいか……何か華凜だけ変な理由だった気もするが……まぁ、考えてた理由を全部言われたんだろ……それに昨日の出来事があったからか、神時歳も上がったしな。提出して来い。」
結構な金額を入園金と、ついでに寄付金として白百合幼稚園にはあげたのだが子どもたちが望まないのならば仕方ないと送り出すことに決めた。
「さて、取り敢えずキバと芽衣が送迎係な。」
「ウィッス。」
「……畏まりました。」
華凜とザギニが行ってらっしゃいのちゅーをせがんで来たのでそれを嫌々ながらも表面には出さずにして、今村は子どもたちを送り出し、氣を使って最近復活を遂げていたキマイラも秘密裏に送り出した。
「……で、さっきから覗いてる奴……出て来い。3秒以内に出て来なけりゃぶっ殺すから。」
「えっ……あ、感動の再会を……」
天井裏から声だけで非常に魅力のあると分かるような声をした女性の声が聞こえ、今村は面倒臭そうな顔を一瞬だけ作ってカウントを始めた。
「3・2「出てきました!」……」
降って来た絶世の美少女にフィトは普通に、祓は水神モードに入って堪えて降りてきた少女を見る。
「……誰だ?」
「安善です……メイって、呼ばれてました……その……覚えて、ます……?」
「知らん。」
今村の即答に思いっきりショックを受けた顔をして落ち込む安善。それを見て何だか悪いことをしたような気もしないでもない今村に祓が耳打ちする。
「ミーシャさんとか、芽衣さんとか……そう言う方々と一緒に連れて来た銀狼族の半妖の子ですよ……名前は……」
「……芽衣は今送り出したところだからミーシャを呼ぶか。」
「呼びました?」
黒スーツ姿のミーシャが現れると彼女を見て安善を自称する絶世の美少女は尻尾を振って興奮し始めた。
「今こそ、ご主人様を、猫派から犬派に……!」
「……もしかして、安善さん……?」
外見は違えどあった時の反応と氣の質が似ていたことから瞬時に思い出すことが出来たミーシャに対して今村は顎に手を当てて考える。
「……俺を犬派にしようと目論んでいた安善……思い出せんな……何となく大罪衆が騒いでる気もするが……因みに俺、別に猫派と言う訳じゃないぞ。確かに猫は好きだが……犬も、まぁまぁ好き。ただし猫はほぼ全種好きだが、犬は中型以上しか認めない。」
何気に衝撃の事実とばかりにミーシャが尻尾をピンと張り、犬猫の合戦の噂を聞きつけたマイアとレイチェルも驚いて硬直した。
「……そんなに驚くことじゃないと思うが……俺って結構兎とかも好きだぞ……」
「ハニバニ、単独、大勝利……!」
「どっから出てきた?」
「あっち。じゃあね。」
自由に現れたハニバニが消え、場は微妙な雰囲気になる。
「バニースーツのコスプレはまだしたことありませんでしたね……犬や猫などは見飽きてるでしょうから今度はそちらを……」
「いや、俺基本的に動物好きっていうより人間が嫌いなだけで……まぁ相対的には好きってことな。」
今村はこの後牛や蛇、狐に竜、鳥、その他様々な動物のことは好きかどうか尋ねられることになるが、現時点では全く気に掛けない。
「そんなことより、これ……安善だっけ……何?何しに来たの?」
「うぅ……修業が終わって、ご主人様にやっと会えるようになったの……あ、何だかよく分かんないけど、ご主人様は誤解をしてるの。ダクソンとか言う人……」
「あ!あの安善ね!ダクソンと相思相愛の!」
今村の思い出した言葉に安善の顔から表情が抜け落ちて、顔が下を向き誰からも窺えないような状態になる。それを気にも留めずに今村は続けた。
「思い出した思い出した。ダクソンの嫁だ。あ~そう言えば噛まれたっけ?わざわざその件について謝りにでも来てくれたのかな?別にいいのに。恩着せがましくなるしなぁ……俺はどっか知らない世界で二人仲睦まじく子どもをダース単位で作ってくれれ「バカァッ!」ば……」
安善は涙目で震えながらいきなり叫んだ。尤も、いきなりと思っているのは今村だけで、半分くらい寝惚けているフィトですら何となく話の流れを察してやれやれ感を出している。
「私、ずっと、ずぅっと、絶対、ご主人様……ごしゅ……うわぁぁああぁん!ご主人様の馬鹿ぁぁあぁ……」
「……さっきの流れの話に戻すと、馬と鹿も嫌いではない。馬は好きな方。」
「誰も聞いてにゃいにゃ……」
「種族は全然違うけど……犬派にしたい組として慰める……」
マイアの呆れ顔の隣でレイチェルが安善を慰める。それを見て今村はまた碌でもない笑みを浮かべる。
「……成程、そっち系だったのか……これは見当違いのことをしてしまったのかもしれんなぁ……一応、言質取ったとはいえ……」
「違う!もぉ、バカ!大好き!愛してる!分かってよぉ……!」
何かの術式を編もうとしている今村の手を見て安善はその手を胸の間に挟み込みながら今村を抱き締める。
「……かなり強い。凄いな……」
「え、あ、うん……祓さんを見ててね、胸、負けたくなかったから頑張った……えへへ。どうかなぁ?」
「いや、そっちはどうでもいいが……お前、旧神並みに強くなってるんだよ。それが俺の驚き……」
今村は文字通り目の色を変えて安善のことを観察する。安善はそれを受けて今村の目をじっと見返し、唾を飲むと目を閉じて口付けを交わした。
「……今村さん、にゃんでよけにゃいのにゃ……?」
「先生は基本的に悪意や害意に対する対応に極振りしてるので……後、単純に何の意図もなくキスされるとは思ってないんですよ……」
「死ねよ。」
キスを無理矢理引き剥がした今村は安善を蹴り埋め、キスをされた時に物のついでとして知ることになった情報を整理して首を傾げる。
「玻璃って、誰だ……?」
自分は知らないのに自分のことを、それこそ他の誰も知らないような幼少期から知っているかなりスレンダーな美女。断片的に手に入ったその情報を今村は考えながら自室へと帰って行った。




