12.卒園準備
「と言う訳で、2日で卒園宣言をしたわけだけど……何すればいいんだろ?」
「アズ兄ぃが勝手に宣言したんだよぉ……ぼくらは別に普通に通う……」
「占いの結果、協調性を見せること、一定以上の学業成果を見せること、また社会規範に従った行動を取れればいいみたい……」
入園式の後、子どもたちは会議を行っていた。因みに日香理と華凜は今村に連れられて異世界に散歩に出かけている。そんな折に龍一は部屋の中で空間のズレを感知した。
「……む、そこ!」
「おわっ……危ないな龍一……」
「なんだ、サイフォン兄上でしたか……」
棒苦無を投げた先に居たのはイヴの息子であるサイフォンだ。彼は現在、イヴの特訓を終えて、外見だけで言えば今村の年齢を越しており、スーツ姿でレジェンドクエスターズの様々な営業をしていた。
「ふぅ……異世界に行っている間にまた年が離れたなぁ……」
「あ、久し振り。……小遣いちょうだい。」
「ザギニ、新しい水晶玉欲しい。」
生まれた時はそれほどまでに歳の離れていなかった弟妹たちを見て苦笑するサイフォンにアズマとザギニは容赦なくそう言ってサイフォンの苦笑をより深い物にする。
「まぁ、今の服装は制服をみたいだし……入園の時に祝ってやれなかったみたいだしな。入園祝いだ。」
「ありがとー。因みに今日が入園式だった。」
「ありがとー……あれ?これ、ここの世界のお金じゃない……」
「……ここの通貨ってどれだった……?」
異世界ボケをしているらしいサイフォンが紙幣や硬貨、また貝殻や穀物、エネルギーや魔素など様々な通貨らしきものを出してザギニにこの世界に適応し直すように指導を受ける中でアズマは決めた。
「取り敢えず、友達という物を作って連れてくればいいと思うんだ。それで協調性はクリアってことにして……」
「捗ってますか?」
卒園に向けて色々考えている最中、百合がお茶とお茶請けを持って子ども会議室へ入って来た。
「あ、百合ねぇ。」
「はい。アズマくんたち、幼稚園を2日で卒業するって張り切ってると聞きましたよ?頑張るのは良いですが、無理はしないようにしてくださいね?」
笑顔で円卓に持って来た物を置き、少し離れた所にいるサイフォンとザギニを見るとそちらに近付いて行く。
「あ……百合ねぇさん……」
「あらあら、サイフォンくんにも追い抜かれたみたいですね……お金ですか?ここでの通貨はGですよ。これ。第3世界は基本的にシェンさんの管轄だから金属貨幣が力を持ってることは覚えてないと。」
悪戯っぽく笑う百合にサイフォンは何故か顔を赤くして俯きながらか細い声で礼を言って逃げるようにして去った。
「……これって、もしかして……」
ザギニはその様子を見て何やら面白そうなことになっていると直感的に理解したが、続く龍一の声で話題を変えられる。
「……そう言えば百合姉上はあの学園を一週間で卒園されたと……何をされたのですか?交友面と、どこまで勉強されたのか、そして社会的事業もされたと聞きますが……」
「そうですね……確か……幼稚園の皆さんとは全員お友達になりましたね。勉強は……当時はあまりしてなかったのでポアンカレ予想まで……事業はしてませんよ?ボランティアでお父様が創った星の整地をしましたが……」
百合の答えに子どもたちは引いた。
「あっ。お父様がお呼びになりそう……では、失礼します。」
「え、お呼びになりそうって……」
まだ呼ばれてないのに……とアズマが言う前に百合は消えた。百合が消えた後に少し沈黙が流れた後、アズマは口を開いた。
「何か、父さんの血を色濃く引いてるって感じ……だね。しれっととんでもない……まぁそれはそれとして、僕らも頑張らないと……取り敢えず、インパクトを与えないといけないから近隣の幼稚園全域の子どもたちを支配下に置こう。」
「学業……問題は、職員たちでもわかる範囲じゃないと認可が下りないってことだよね……ポアンカレは一応答えらしきものが出てるからいいけど……ていうか何をどうやったらそこに行ったのか……」
ザギニの呟きに対する百合の答えは異世界にいる彼女の父親に会うために世界の構造がどのようになっているのか知りたかったというものだ。
因みに、百合は4次元でも認識しようと思えばできるので3次元まで求めなくてもいいかな……と思っていたが周囲の言葉に押されて一応求めた。
「……ナビエ・ストークスの波動予想でもやって短期個人未来予測やる……?魔術式は理解できなくてもパフォーマンス的には分かりやすいし……」
「ん~……職員の人達と僕らの視てる世界とはまた別だから僕らのやり方だと理解できないと思う……誰がどうやっても成立する物しか認められないから……」
アズマはそう呟いて閃いた。
「そうか。じゃあ魔術式が視れるような発明をすればいい……全員が。魔術を視認できるような……」
「え……多分発狂するよ……?」
「だから、視る、までは出来るようにして対応可能魔素の容量をオーバーしたら自動で切るように設定して……これを発売できれば社会事業も……企業時点で交友関係をクリアして……」
ぶつぶつと呟き始めたアズマ。そこに今村と散歩に行っていた日香理と華凜が帰ってくる。
「は~……父様かっこいい……何してたの?」
「……卒園要件について考えてた。華凜ちゃんは?」
「父様と別世界の創造視察。色んな人みたいな神々が来るのに父様が格好良く対処して、時に斬り殺し、時に脅してるの……格好いい……」
「……それってどうなんだろ……」
華凜の変な感性に話を聞いていた優也が首を傾げるが日香理が慌ててフォローに入る。
「基本的には話し合いで、困った部分の解決をパパ様はやってたから……でも華凜ちゃんはパパ様が隠してた所も覗き見してたの……」
「うん。それは華凜の秘密にするからいいとして、卒園……何しようとしてたの?見せてね?」
アズマは自分の世界に入っており聞いておらず、ザギニはこれからどうするか水晶玉で占っているので華凜は優也と龍一に尋ねた。
「……魔術式を見れるように……ふーん。じゃあサンプル用に何人かニンゲンが要るね……でも普通のだと華凜たち見ただけで精神壊れちゃうし……」
「人体実験は反対だよぉ……華凜姉様怖い……」
「だって入園してると父様との時間減るから急いで卒園しないと……」
「見えた……朝倉という……あの、芸能人なら……一般人の枠組みでも私たちをまだ認識できる……」
華凜が知らないと首を傾げると日香理がレジェクエの情報部門のトップにいる未だアイドルの大物だと教えて華凜は頷いた。
「じゃあ、その人に付き合ってもらってさっさと卒園しよー!」
「あ、僕が考えた案なのに何で華凜が仕切ってんだ!」
「うっさい!アズマに任せてたら卒園が長引く!」
「妹の癖にー!」
「はっ。アズマの方が弟の癖に……」
子どもたちは賑やかに朝倉の下へと移動し、彼女を拉致って実権を開始した。




