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例外者の異常な日常  作者: 枯木人
第三章~異世界その1~
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8.準備終了

「…よし、こんなもんか。」


 計画書が出来上がると外は日がもう高くなっていた。周りにいる人々はタナトスを除いて眠そうにしている。


「…それにしても今村。…よくずっと話してられたね…と…トイレとかもなしで…」

「あぁ、人間辞めたからね。排泄とかもうしなくなってる。」

「え!?…ど…どういうこと?」

「う~ん…まぁ色々あったんだよ。で、体液が何でも溶かすようになったからトイレとか必要なくなった。…で、何で急にトイレの話?」


 今村の言葉に小野は顔を赤くして押し黙り、下を向いたがその直後小さい声で呟いた。今村はそれを普通に聞き取る。


「あぁ。ここのトイレ汲み取り式なわけね。…フェーラルスライム入れとくよ。あと何かあったら言ってくれ。大体改善しよう。」

「少しは気を使ってよ!」

「また今度な。ルゥリン。兵に呼びかけを。この紙にある所に全員揃えてくれ。」

「はいです。」


 昼になって来たルゥリンに指示を出す今村。まず、ルゥリンに今村達を「ワープホール」で送ってもらい。その後その場所で待つこと数分、各地から全軍が終結した。揃ってすぐ静かになっている兵士たちを前に今村は口元に拡声木を当てて命令を下す。


「これよりこの地に新たな城と城下街を作る!材料はこの近くの城で城自体は俺が造るから材料だけ持ってこい。あ、城壁の方は自由創作。」


 そして今村は一拍置いて息を吸い込み言った。


「そして終了後の晩飯は俺が作る!」

「「「「「え?」」」」」


 祓、小野、美川、蜂須賀、ルゥリンが戸惑いの声を上げるがその疑問符は次の轟音によって掻き消えた。


「おおおおぉぉおおおぉーーーーっ!」

「「「「「は?」」」」」

「お師匠様!和食出ますか!?」

「さぁ!テメェら分担は済ませてるからな!詳しくはお前らの直属の隊長に聞け!いつも通り終わった班から飯にしろ!」


 ルカの言葉を無視して言った今村。それに対し会場は大混乱に陥った。


「え…っと。先生?どういう事ですか…?」

「どうもこうも…そのまま。さて、タナトス。城造る…って。もう持って来たのか…」


 いつの間にか今村の後ろに巨大な城が建設されていた。


「おい、もう城は俺が作るから大将は飯を…」

「…ま、そうしますか。」

「先生…とりあえず何か手伝いますね。」

「え?何?」


 今村の目の前に荒野の中には不自然なキッチンが広がっていた。そしてその周りはスライムがたくさんいる。何も知らない人が見れば襲われているようにしか見えない。だが、そんな中でスライムの中の一部は農業をしていた。


「…もう…何て言ったらいいか分からないわ…」


 赤いフェーラルスライムがもにょもにょしていた所に緑色のスライムが何かばら撒く。その後ろからどんどん野菜が実り、それを黄色のスライムが実だけ回収して触手を伸ばし今村に手渡す。今村はそれを受け取りローブが様々な器具で調理していく。そして要らない部分を近くにいるフェーラルスライムの中に放り込みフェーラルスライムはしばらくすると交代する。

 その光景が留まることなく猛スピードで行われていく。祓はどこで手を入れていいのかわからない。辺りには良い匂いが立ち込め始めていた。


「…さて、皆ちょっと退いてな。」

「…え?」

「早く!」


 今村が急かすままに皆が退いた。それを確認して今村はローブの速度を上げた。辺りにソニックウェーブがざんざん飛び回る。


「お…おぅ…」

「何というか…」

「…って言うか調理のスピード上げたみたいだけど火を通すのどうしてるのかな…」

「…『黒焔くろのほむら』を何かに変えてますね…」

「見えるの!?」


 今村の周りはソニックウェーブが吹き荒んでいる。元同級生ズには全く中が見えないが「神核」持ちの祓には中が辛うじて見えていた。


「…それにしても…あのスライムたちも凄いね…頑張って運んでる…何か応援したくなってくる…」


 スライム自体が動くのでは間に合わないとスライムが判断したようで、収穫物だけもの凄い。それこそ目にもとまらぬ速さで運んでいるが暴風域の近くでどんどん収穫物はなくなっていく。そして収穫物を運ぶ距離は減少している。

 心なしかスライムも必死のような気がして手伝いたくなる。だが、スライムの速さも異常なので手を出すこともできない。黙って応援するほかないのだ。


「…まぁ…とりあえずこんなもんか。」


 今村は辺りを食べ物で埋め尽くしてようやく止まった。スライムたちも互いの健闘を称えるように一ヶ所に集まっている。


「さて、スライムお疲れ。『配素氣流はいすきる』」


 今村はスライムたちに魔力を流し込んだ。スライムたちはどことなく嬉しそうだ。今村はそんなスライムたちを閉鎖空間に帰して自分でちょくちょく味見をしていく。


「ん…まぁまぁかな…」

「へぇ…ちょっともらうね。」


 小野は少し食べてみる。


「おいしっ!え!?何これ!今村これ美味しいよ!?…ってあれ…?何で嫌な顔してるの…?」

「…これ今頑張ってる奴らの為に作ったのであって何もしてない奴の為に作った訳じゃないんでな…まぁ別にいいんだけどな…」

「が…頑張って来るよ!」


 小野は半分ほど完成している城壁の方に向かって走って行った。


「…何気に速い…さて、祓は今からちょっと手伝ってくれ。麺類は来てから注文を受けて作らないといけないんだが調理に使うあの火は扱いが難しいから今から説明する。」

「え、あ、はい。」


 今村は祓をキッチンに来させて説明する。


「まず不燃液だが…気をつけろよ。生きてるから。」

「生きてる…?」

「あぁ。知能はないがな。少しでも高温から逃げようとするから麺を茹でるとその中に入る。で、さっと上げないと麺に水が入りすぎて爆発するから。」

「爆発…?」


 とにかく普通の調理じゃないことは分かった祓。今村がお手本を見せるという事なので集中して見る。


「よっ。ラーメン完成。」


 1秒に満たない時間での調理。出来上がったそれを今村は盛り付けて祓に渡す。


「食っていいよ。」

「…いただきます。」


 面を啜った瞬間祓の頭はスパークした。


(麺に…何か練りこまれてる…味があっておいしい…それにスープが濃厚なのに癖がない。…ん!?ここから麺の味が違う…でも合うっ!)


「…食うの早いな。まぁいいや。作れそう?」


 今村は黙ってそれを見ていたが食べ終わったのを見て祓にそう訊いた。祓は少しやってみますと言って調理に取り掛かる。だが麺が爆発した。


「きゃ…」

「…遅いよ。『操水風化:集水』」


 爆散した不燃液を鍋の中に入れ直す今村。祓がもう一度チャレンジしようとするのを今村はローブで補助した。


(…これは…何か違う…)


 ローブが巻きつけられた自分の両手を見ながら何か違うと思う祓。だが調理は出来るようになった。


「…よし、じゃあ頼んだ。後で金は払うから。」


 今村はそう言ってキッチンを離れ、スライムたちの合作農場に歩いて行った。


(…本当に『呪氣』で発芽のタイミングと結実の時期を調節できるのな…)


 今村は農作物を見てそれに触れてみる。この植物たちの設定は栄養のあるところですぐに発芽して子孫を残そうと種子を速攻で作った後は自身を大きくして年に2回種子を実らせるようになるというものだ。


(…『呪氣』と『神氣』が複雑に絡まってて出来てんだよなぁ…フィトありがとう)


 冥界の木に思いを馳せる。それにあの木の真骨頂はまだまだこんなものじゃないんだよな…と思うと自然と歪んだ笑みが浮かんでくる。そんな今村の下に人が来た。


「1軍作業終了しました!」

「ん…」


 待てを掛けられた犬のような顔をして報告してくる男。今村は烏を使って視察する。城の西側に立派な城壁が出来ていた上、魔法障壁までつけられていた。


「…よし、確認した。」

「はっ!『魔力拡散』!」


 男は戻る時間も惜しかったようで魔力を全開にして部下たちに仕事の終了を知らせる。瞬間、料理に兵士たちが蟻のように群がった。


「おーおー…自分でやっといてなんだが軽く人間辞めてるよなあいつら…」


 その後も続々と報告が入り、城は完成した。




 ここまでありがとうございます!


 調理場は戦場ですからね。

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全盛期、相川だった頃を書く作品です
例外者の難行
例外者シリーズです
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