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例外者の異常な日常  作者: 枯木人
第二十八章~覚醒と創出~
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25.せーさん

「あ……先生……お姉様が……」


 今村が白崎の下へと向かい、空間転移をするとそこには祓が居てついでに室内にプールが出来上がっていた。

 今村はそのプールに手を突っ込んで温度を測ると白崎に尋ねる。


「……水中分娩する気?いや、予定じゃ切開分娩する予定だったんだが……」

「……産んだって、ふぅ、きちんと、実感したいから……」

「……しかも呼吸法がソフロロジーという……まぁ確かにヨガは教えたが……経膣で産むなら産むでいいんだが……痛いぞ?せめて無痛分娩にしておけ。」


 今村はそう言うが、白崎は難色を示す。


「……合理的だけど……」

「お前の場合は痛覚を切ればいいだけだし……まぁ正直に言うなら普通に産むのは無理だと思うから切開の方がいいんだけどなぁ……いや、設計上は開くようにしてあったか……?うん。まぁ、いけないことはないか……一応尋ねておくが、生まれてくるのが3歳児サイズってことを念頭に置いてそれを選んでるんだな?」

「えっ……?」


 白崎の動きが止まった。今村は溜息をつく。


「イスナはその辺の説明もせずに何してたんだ……」

「いえ、その、ソフロロジーの基本として、赤ちゃんに会えるって嬉しさを感じられるような説明を受けてたけど……」

「恐怖でも何でもなくて単純な痛みを覚える出産になるぞ。悪いことは言わないからさっさと開かせろ。」


 今村はそう言って産後横たわるために設置されていたベッドの付近にメスなどを置いた。


「何、すぐに終わる。さっさと寝てろ。そんなに産んだ感触が欲しけりゃきちんと魔術じゃなくて局所麻酔をかけてやる。……本当は開いた方が早いんだが、まぁいいよ。ただ、自然分娩はきついぞ。」

「……今村くんがそうやって恐怖を煽ってくると折角リラックスしてたのが無駄になるじゃない……」


 白崎は観念してベッドの上に横たわる。それを見て祓は小型のプールの水を回収し、今村の隣に立った。


「……立ち会い希望?」

「後学の為に……それと、何か手伝うことはありますか?」

「特にない。白崎は祓が見てるが、それでいいのか?」

「……別に、ないけど……開くのよね?大丈夫なの?」


 不安気な白崎に今村は笑顔で答えた。


「開いて良いなら、1分で済む。大丈夫だ。」

「……私の準備って、何の意味があったのかしら……?」

「が、頑張りましょう。お姉様……」

「オーケー、始めようか。」


 今村はそう言うと手元に何かのコントローラーを召喚し、無言でその中にある赤いボタンを押した。


「スリープモード。」

「あ……」

「よし、次。オープン。」

「……お姉様は、本当に機械なんですね……」


 問答無用で眠りに就き、ボタン一つで腹部が開いて行く白崎の内部にある様々な部品などをみて祓はそう呟いた。それに対して今村は反論する。


「んー……機械、ではないな。半分くらいはそうかもしれんが……はい摘出。」


 蓋が開いたところで今村は中にいた子どもを抱え上げつつ、今回初めて繋がっていたへその緒をすっぱり切って子どもの方は結び、白崎の方は適当に操作して自己修復させる。


「終わり。後、こいつ機械って言われると軽く凹むから言わない。」

「はい。……あの、その子泣きませんけど……いいんですか……?」

「別にいいよ。あ、お湯には入れる。」


 白崎を直しつつ髪の一筋で術式を形成しようとした今村より先に祓が適温の産湯を準備してその子を入れる。


「……んくっ……あれ、生まれた……?」

「あぁ、生まれた。」


 赤子は湯に入れられると目を覚ましてそう呟き、今村の言葉を聞くと体を硬直させた。


「あ、ぅ、し、失敗しました……第一声が、あれ、生まれた……だと……何か、微妙と言いますか……」

「気にすんな。まず生まれた後は産声を上げるものであって会話をするものじゃないから。」

「おぎゃー!おぎゃー!」


 今村の言葉を真に受けてきちんと産声を上げるその子は女の子のような男の子だった。これを見て今村は将来、どこぞのエクセラールの聖女のような元息子みたいに女にならないように頑張って育てなければ……と思う。


「……大声って、疲れますね……」

「あ、のど飴です……えぇと、名前は男の子ですから優也くんでしたね……」

「あ、すみません。えぇと……コロルさん?」


 産声を生真面目にあげて疲れた子どもに自家製ののど飴をあげる祓。そんな彼女に今村は確認する。


「白崎が優也って決めたのか?」

「はい。」


 祓は今村の言葉に頷いて、そして少し首を傾げてから続けた。


「……あの、もし差し支えなく、お嫌でなければお姉様のこと、菫と呼んであげてくれませんか……?」

「いや、そんなに大層な言葉付けなくても別にいいが……スミレか。」

「ひゃいっ!?」


 いきなり声を上げて跳ね起きた白崎に今村と祓は後ろを振り向く。彼女は顔を朱に染めて腹部を見て顔を真っ青にした。


「あ、あの、これ……」

「何だ面倒な。ほれ。」


 今村が術を使って元通りにすると白崎は子どもを見て頷き、抱き上げた。


「これが、私と今……ひ、仁くんの、こじょも。」

「……無理すんな。今村にしておけ。」

「で、でも。その……やっぱり、子ども、優也が混乱するから……」

「?お母様は……何か大勢いらっしゃるようですから菫お母様、もしくはネージュお母様と呼びますが、お父様はお一人のようですし、お父様で通しますから大丈夫ですよ?」


 優也の優等生発言に白崎は微妙な顔をして彼の頭を撫でる。


「いい子だけど……うん。」

「つーか俺、名前呼び好きじゃないんだよね……」


(代替品だから記号で呼ばれた方がいいんだよなぁ……祓みたいに先生とかだといいのに……消える時に微妙に術式が怠い。)


 そんな本音は言わずに今村はそう頷く。すると白崎は首を傾げた。


「でも、この子の名字はどうするのよ……?」

「好きな方を名乗らせれば?今村か白崎で、どっちも嫌なら俺の名字って他にも結構いっぱいあるから言ってくれれば他のにするが……」


 優也は白崎の顔を見て少し考える素振りを見せると頷いた。


「今村で、お願いします。」

「じゃ、お前は今村優也な。戸籍作って来るわ。んじゃね。」


 今村はそう言ってこの場から去って行った。





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全盛期、相川だった頃を書く作品です
例外者の難行
例外者シリーズです
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