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例外者の異常な日常  作者: 枯木人
第二十八章~覚醒と創出~
581/644

24.違算

「もう少し甘く……」

日香理ひかり。コーヒーは子どもが飲むにはまだ早いから……」


 意図して遠くを見るような表情を作ったのではなく、普通に苦くてそんな顔になったらしい娘にアリスはそう声を掛けながら近づいて行く。

 それに対してクワトロシスターズの一人がポーズを取りながらドヤ顔でアリスに言った。


「そのような手抜かりをわたくしどもがするとお思いで?乳幼児にも安心安全の原材料で作ってありますとも!」

「……そ、そう……でもあんまり甘いと体に……」

「ふっふっふ……そんな考えが甘いですよ!だだ甘ですよ!マイマスターにより創られた私たちに誰でも考えつくような抜かりなどあるわけがない!よく聞きなさい!」

「いやいいから。」

「……えー……」


 折角の長台詞を今村にバッサリと切り捨てられたシスターだが、今村はその辺のことを意にも介さずに子どもの方に近付く。


「初めまして、日香理。ようこそこの世に。節度を持って大いに楽しんで、元気に生きてくれ。」

「……うん。初めましてパパ。ママからどんな方かはよく聞いてる……」

「うん、多分それは大体忘れていい。」


 カフェオレを飲むのを止めて今村の方を向いた彼女に今村が笑顔でそう告げるとアリスが声を上げた。


「何で!?まだ何も聞いてないよね?」

「俺のことなんざ碌なこと言ってないだろうに……」

「……わたしが生まれてすぐこんなこーひーを飲みたくなるくらいにはあま~い話ばっかりでした……」


 うへぇと言う顔をする幼い娘にアリスはしたり顔で頷く。


「うん。いいこと。」

「……いや、あんまりよくない……ん~……でも確かに、幼少期におけるその家庭環境は円満であるに越したことはないが……俺が嫌だな……」


 許容すると果てしなく英雄のように祭り上げられるのである程度で抑えなければならないな……などと今村が思案しているとアリスの下にクロノがやって来た。


「あ、やっほ。お兄ちゃん!愛してるよ。」

「……殴りたくなるから、止めろ。」

「無理。それでね、お姉ちゃん産まれたなら……」


 軽い殺意を覚えながら今村はクロノに右手を向けるが、クロノはアリスに用があったらしく小声で何か告げる。


「あ、そうだったわね……」

「うん。丁度、また最初から上映されるから……」

「え、じゃあもう行かないと……」


 今村には何の話か良く分からないが、ふんわり二人の話を読み解くと子どもたちを集めてこの世の基本理念や知っておくべきことなどをまとめた映像を流してテストをしているらしい。


(……正直、こいつら親にあんまり向いてないような気がしてたが……内面もきちんと成長してるんだな……俺が最初から最後まで面倒看ることはしなくてもよさそうだ……)


 何となくクロノとアリスにも親心のようなモノを芽生えさせている今村はそう思いつつ彼女たちが頑張るのであれば、外から無理やり割って入るようなことはしまいと最低限の口出しだけに決めた。


(元々、こいつらに子育て方法を教えたのは俺だし……大丈夫だろ。)


 時々変な方向に成長するが、基本的に今村が育てた子どもたちはそこまで大きく間違えた人格に成長することはないと本人は思っているのでもう見送ることにした。


「ごめんねひと……ダーリン。ダーリンとずっと、永久に、全ての世界が滅びても一緒に居たいんだけど……」

「日香理の教育だろ?……まぁあんまりにも早期から教育をするのはお勧めしないが……頑張れ。俺のことなんてどうでもいいから、行ってきな。」

「うん。全然どうでもよくないからね?変なことしたらダメだよ?行ってくるからね……」

「じゃあ、また後でね、無限大好きお兄ちゃん!」

「何それ。」


 アリスに抱えられて無言で小さく手を振る日香理に手を振りかえしながらクロノに突っ込みを入れて今村はクワトロシスターズの方を振り返る。


「無限大好きお兄ちゃん……何か新しいジャンルみたいですね。」

「まぁ、私どもの方が忠誠心マックスなんですけどね。」

「対抗して新しいジャンルを作りますので少々お待ちを……」

「うっせー。次、行くぞ。」

「「「「イエッサー!」」」」


 まともに取り合わない今村に敬礼してクワトロシスターズは今村と一緒にまた別の空間へと移動した。











「うぐ……お、おぉ、仁か……ちょっと、産卵に手間取っておってな……」

「……竜珠からやった方が良かったんじゃねぇの?」

「折角の主の子じゃから……人型で産みたいのじゃ……妾は空間系の術はあまり得意でないからのぉ……ちょっと、難しい……のじゃ……」


 褐色の肌に巨大なバストを誇る地獄の女帝サラは一所懸命に妊娠したと言うのにもかかわらずいつもと変わらないほっそりと、しかし肉付きは決して悪くない腹部に手を当てて術を行使しようと頑張る。


「まぁ、頑張ってるところ悪いんだけど……安全に嫡出したいから俺がやる。あ、その前に近くにいるのは……イスナか。イスナは白崎の所に行って色々問題がないかどうか確認して来てくれ。」

「うぃーむっしゅ!」


 身を翻して消えたクワトロシスターズの一人を見送りつつ今村は他の面子にアイコンタクトを取り、サラの状態を確認しつつ準備に入った。


 そして、状態を確認しているクワトロシスターズの一名が若干表情を強張らせて今村に尋ねる。


「……マイマスター。これ、半分くらい生まれてません……?」

「ギリギリ産まれてない!変なことになる前に嫡出するぞ!」

「いえっさー!」

「む、どうか「はいおねんねしてくださいねー」すぅ……」


 余計なことをしないように、そして痛みを感じないようにするためにクワトロシスターズの一人がサラを昏倒させると今村は術式をサラの上に浮かべた。


「はい、簡易式!保全は終わった!えーと……アルバ!」

「わかっておりますとも。じゃあ引っこ抜きますよぉ……抜本式!」


 目の前にいるのが誰か良く分からなくて少々考えたが、今村は間違えずにクワトロシスターズの名前を当てて子どもの引き抜きにかかる。


「……む?明るい……」


 そして、それは成功した。殻を身には纏っているものの、殆ど体を出していた大柄の子どもが周囲を不思議そうに見渡しているのを見て今村は息をつく。


「間に合った。」

「お疲れ様です。」

「……お医者さんか……?無事に、生まれたのか……?まだ何か良く分からない試練的な物は出来なかったのに……」

「試験?」


 子どもの不思議な言葉に今村も首を傾げる。


「マイマスター!白崎さんの方が、生まれそうです!」


 しかし、それを追求する暇はないようだ。白崎の方に行っていたはずのイスナと呼ばれたクワトロシスターズの一人がこの場に戻って来るや否や今村にそう告げた。


「何?早過ぎんだろ……喧嘩売ってんのか?」

「売ってません。ここは我々に任せて先に行ってください!倒してしまっても問題はないんですよね?」

「問題しかない。大人しく面倒見てろ。行ってくる。」


 イスナのボケにも全く取り合わずに今村はすぐさま白崎の下へと移動をすることになるのだった。




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全盛期、相川だった頃を書く作品です
例外者の難行
例外者シリーズです
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