23.しゅっさん
「今村さん!ちょっと来てくれませんか?マキアさんが変です。」
「……あいつが変なのはいつものことだが……まぁ、出産関係か。今行くよ。」
執務中にミーシャが今村の部屋に飛び込んできていきなりそう告げる。今村は年度末に向けての財務諸表などの書類を適当に片付けてすぐに移動した。
「……あっ、せんせ……」
「ふむ。産まれるな……痛いなら切るけど?」
「私の処女膜に触れていいのは今村さんだけだって言って絶対に産まないんですよ……痛いけど、我慢すれば快楽に代わるからって……」
「馬鹿だな。取り敢えず問答無用で。」
今村はマキアが何か言う前に麻酔をかけて無理矢理寝かせた。瞬間、マキアの腹部から小さな手が血塗れになって突き出て来る。
「ひっ!」
「おぉう。」
もう一つ手が出て来るとそれは無理矢理マキアの腹部を裂いてその全体を現した。
「けへっ……けへ……あー……ぅ。うん。周りが、よく見えない……あ、そういえばママごめんね?出してくれなかったから刺しちゃった……治すよ……?」
現れたのはようやく掴まり立ちが出来そうな程度の外見をした少女だ。彼女は産まれるや否や濡れていた体を大気中の水分を凝固させて洗い流し、風を用いて乾燥させると今度はその風を実体化して身に纏い、ベッドに降り立つとマキアの腹部に術を掛けて元通りにする。
「……『カーレリッヒ』でも、これか……もう少し上位の奴を使えばよかったかな?まぁいいや。初めまして。」
「……うん?お兄ちゃんかな……?初めまして、ザギニだよ?ママ、ずっと私のことそう言ってたから、多分間違ってない。」
今村はザギニの反応を見て高速で思考する。
(……周囲と自分の乖離は出来てる。いきなり母体を刺した辺りから色々問題があるやつかと思ったが……そうでもないな。ただ、問題は倫理観だ……)
「……あ、産まれてる。はーいザギニちゃん。私がママよ?あっちにいるのがパパね?」
「うん……」
刺されたことに全く気付いていないような態度でマキアは笑顔で起き上がりつつ娘を抱っこしてそう告げた。そしてその次の瞬間、表情を一切なくす。
「で、パパに攻撃しようとか考えてないよね?」
「え、あ、うん。」
「よろしい。」
殺気まで放つマキアにザギニは軽く怯えた。そんな彼女を守るかのようにマキアは大事に抱き締める。
「だいじょーぶよ~?パパにさえ、襲い掛からなかったらママは世界を滅ぼしてもザギニの味方だから。……あ、パパにも性的になら襲い掛かるのはありよ。寧ろ推しょ「何言ってんだこのタコ。」」
最後まで言わせることなく今村はマキアの頭を押さえて黙らせる。それによりマキアの顔が歪み、目の前にいたザギニが笑う。
「ふふってなった……くすくす……」
「お、面白かったか。よかったな。」
「うん。結構変なママみたいだけど、ザギニが頑張ってしっかりしたママにしたいな。」
今村はその言葉に思わず驚いた。
「……思ったより、まともだ……その意気は良し。でも、頑張りすぎんなよ?」
「だいじょーぶ。親が子を育ててくれるように、子も親を育てるんだよ!ママは私に任せてね。」
可愛らしくウィンクをしてくるザギニに今村は笑顔になりながらその頭を撫でた。
「ふわぁ……」
気持ち良さそうに声を漏らして目を細める娘にマキアは内心で邪悪に嗤いながら思う。
(堕ちる要素がたっくさん……やっぱり血は、争えないものなんだよザギニ……クスクス……大丈夫、大丈夫……じっくり、ねっとりと、堕とすから……安心してね?神だから、近親相姦しても、オールオッケーだから……)
そんな内心を知らないザギニと今村。ザギニの方は自分に芽生えた何かの感情に僅かに首を傾げながら、今村の方はそんなこと全く気付かずに手を放し、二人は別れる。
「じゃ、この子は責任もって教育してきまーす。既にママになった皆さんで教室開いてるんですよ。安心してください。」
「……なら、まぁ……安心していいのか……?変なことはやってないだろうな?」
今村の訝しげな視線にマキアはグラマラスな体で胸を張って否定する。
「変なことは、してません!『審偽眼』とか……信じてくださいよ~」
「お前には……いや、お前らには大量の前科があるだろうが……変なことはしてないみたいだな……じゃあいい。」
今村は目を元に戻して手をひらひらさせてマキアに抱えられたザギニに近付いて頭を撫でながら念話をした。
(変なことされたらすぐに逃げるんだぞ?)
「うん!」
「……?あ、先生……念話で何か、言いましたか?」
「色々、じゃ……おっと、連絡が入った……アリスか。」
携帯電話を見てクワトロシスターズからだったので今村はそう判断する。それを見てマキアはすぐに今村に告げた。
「では、こちらは大丈夫ですから、どうぞ行って来てください!」
「ま、そうだな。……それじゃ。」
今村はこの場から姿を消した。そして、次の瞬間、マキアは蕩けるような笑みをザギニに向ける。
「変なこと、はしないから。大丈夫よ……?クスクス。先生も、もう少し私たちの性格を知るべきですよねぇ……」
ザギニは何となく悪寒を覚えたが、マキアからは逃れられない。
「……さっき、急に先生の物である私のお腹を内側から刺したことをノーカウントにする代わりに……ザギニはしないといけないことがあるからね?」
気付いていたのかと思うザギニを抱えたままマキアはザギニを抱えて他の面々が集まっている場所へと飛んだ。
「あ、ひとくん!」
「……そろそろその呼び方は止めてほしいなぁ……子ども産まれるんだし……」
「じゃあダーリン!」
アリスの下に飛んだ今村は微妙な顔をしながらアリスの腹部に触れる。
「……早いな。じゃ、始めた方がいいかな?」
今村の言葉に応じるかのようにどこからともなく赤色の猫っ毛の美少女が現れて右方向に両手を上げながらポーズを取りつつ言った。
「その必要はありません!」
続いて、逆方向に両手を上げながら同じく赤毛で、若干くせ毛の美少女が現れて口を開く。
「お子様は、空間系の能力を保有しているようです。」
更に続けて前に現れた二人の間に両手を広げ、地面に付けて別の直毛の赤毛の美少女が宣言する。
「時期が来れば勝手に生まれることでしょう!」
最後にひとつ前の少女の後ろで両手を広げて天に向けた毛先だけがカールしている赤毛の美少女が高らかに告げた。
「因みに女の子様です!」
「……そう。」
全体のポージングが決まったが、今村は特に何も言わずに流した。それがお気に召さなかったのか彼女たちはすぐに横一列に整列した。
「まぁ、そろそろ生まれると言ってましたから。」
「あ、出てきましたよ。」
「……産湯ちょうだい……体がべたべたする……あ、パパママおはよ。今日はいい天気だね。」
生まれて来るなりそう言ってきたのは金髪に黒髪が混じった3歳児だった。彼女はクワトロシスターズの誰かが差し出した産湯に浸した布で体を拭いてもらいながら気持ち良さそうに息をつく。
「ふぅ……ママの中も結構快適でよかったけど……実際に見る世界の景色はやっぱりいいな……こーひー飲みたい。」
「どうぞ。」
甘いカフェオレが準備されてそれを満足そうに飲みながらその子はやけに渋い顔でそう呟くのだった。




