14.家事
第1世界の食に関する大世界でしばらく食べ歩きして回った後、今村と百合はゲネシス・ムンドゥスへと戻った。
「あ~お腹いっぱい気味……ということで、サラに無茶なこと言うか。」
「呼んだかの?」
戻ってすぐ、今村と百合の目の前にサラが現れる。次いでアルマが両手を広げたままとてとて今村の方へと向かって来て無言でよじ登り、背中で眠りに就く。
「……何じゃ、もう次の子が生まれたのかの……フォン、とか言う方のか?それともフィトか……」
「フィトは無理なことやってるよ。……そう言えばあいつまだ寝てないのか……仕方ないから仕掛けを大規模に……でもなぁ……あいつ俺が近くにいると眠気が薄くなるから今限界だったら……起こすことになるし……まぁ今はいいか。」
そして今村はサラにゲームのルールを告げる。
「じゃ、サラには家事を頑張って貰おうか……炊事、洗濯、掃除、音楽、それら全てを効率よく。」
「む……?そんな、簡単なので……よし、主も実はシたかったのか……?」
サラは嬉しそうに今村にそう言うが、今村は普通に首を横に振った。
「簡単……?お前、前に料理するって言ってフライパンごと溶かした奴が言える台詞なのか……?それに、」
今村はそう言って召喚陣を出す。すると、そこから今村の教え子である白髪の美少女、祓。そして育ての娘である絶世の美少女で死の歌姫アリア、更に今村が近年稀に見るあざとさとして認めた絶世の美少女猫娘、マイアの3人が出てきた。
「アリアは取り敢えず、父娘の口調な。そして、百合をここに加えてゲームの説明に入る。」
前世での四天王口調で物事を言うのを先に封じて今村はサラと、序でに状況を良く分かっていないこの場にいる面々全員に説明をする。
「今から、全員に家事を頑張ってもらう。順番はアリア、サラ、百合、祓、マイアで、種目ごとに毎回1順する。審査員は今から呼ぶが……サラは各ジャンルの得点が1度でも80点を下回れば失格。」
「む……それだけでいいのかのぉ?」
よく分かっていないな……と思った今村は内心で嘲笑しながら審査員の方を呼びにかかる。
こちらは、今村の悪友で欺く神のライアー、武威神タナトス、今村の守護獣となったキバ、そして過去の組合での副会長のミカドだ。
「ざっと説明すると、今からやってもらうのは目の前の奴らが4つの家事をするからそれの採点。1人に1回で入れられる得点は20点……で、その回における5人全員に渡せる点数は全部で80点。上手に割り振ってくれ。」
この説明を聞いてサラはようやくこのゲームの厳しさに気付いた。少なくともこの場にいる中で祓には家事で勝てる気がしない上、今村が呼んだということは他の面々も家事に優れているということは間違いないだろう。
(……じゃが、1度に全体で80点……まだ、見込みはあるのじゃ……問題は、仁がどう採点をするかと言うことじゃな……あやつの性格からして不正はしないじゃろうが厳し目な採点にはなるだろうのぅ……)
目の前で一切の術式を使えないエリアを作り上げてそこに5つの部屋を構築している今村を見ながらそう思っていると、準備が出来たようだ。
「じゃ、入って。設定として、ここは彼氏の部屋です。1泊2日程度の出張予定が大幅に延びて1週間になったため、掃除を頼まれました。」
「……先生、表札に悪意を感じるんですが……」
祓の前の表札には相馬とあり、祓は不快感を露わにしていた。他の面子も同じような物で、サラの場所には彼女の補佐官の名前が、アリアにはテイナーと言う名前が、百合にはキバと言う名前が、そしてマイアには。
「今村さん……レイチェル、おんにゃのこだにゃ……みゃぁ、彼氏に今村さん以外のにゃまえ書かれるよりマシだけどにゃ……」
「お前はネコだろ?……いや、今のはいい。忘れたまえ。」
「にゃ……?」
何か言ってて変な感じになったのでマイアの所の表札だけ白に戻した。そしてゲーム開始となる。
部屋の中は至ってシンプル。フローリングでベッドがあり、その下には半透明のボックスがあり、季節外れの衣類が仕舞ってある。その他にタンスや本棚などの一般的な家具があり、そのどれもが若干埃を被っている状態だった。
そんな部屋に入る前にまずはマイア以外の全員が表札を綺麗にして書き直すところから始める。この時点で今村はマイア以外を減点した。
「……ところで、何でこんなことしてんの?僕も暇じゃないんだけど……主に君の所為で!」
掃除の風景を眺めつつ、マイアがぴょんぴょん跳ねて高い所を掃除し、胸を揺らすさまを楽しんでいるライアーは今村にそんなことを尋ねた。
同じくマイアの方を見ながらメモ用紙に何か書きつつ、アカシックレコードからきちんと渡された本を読んでいる今村はライアーの方を見ずに質問に答える。
「拭き方にムラがあるな……あぁ、お前の仕事はそろそろ終わるよ。全員の記憶が無駄に戻りやがったから……本っ当に、要らないだろうに……」
「いや、最後のコメントは要らないけど……終わるかぁ……は~……劉協ちゃんはきちんと生き返らせてくれる?」
「……あぁ。」
今村は歪んだ笑みを浮かべながらロールプレイングをしたゲームの世界で爆殺した女性の劉協ではなく、時間遡行して史実のおっさんを連れて来た時に、ライアーがどんな顔をするのだろうかと今から楽しみにしつつ頷いておく。
「おっと、ここで全員に通達。ベッドの下にあるボックスの裏にはエロ本が隠されてるからその対応などにも目を向け……お前らちゃんと掃除を見てるか?やけにアリアとか百合とか見てるが……」
「ハッハッハ。大丈夫ですよお義父さん。きちんと審査もしてますとも。」
「だれがお義父さんだ。気が早い……口説いてからにしろ。」
呆れたように言った今村はサラの掃除振りを見る。彼女はエロ本を見つけた後に、見つけていなかったことにして元の場所に戻すとボックスを出してベッドの外から一定のラインまで掃除機をかけ、元に戻した。
「……上手い。これで、ベッドの下まできちんとは掃除をしていない感を出して本はバレてないと思わせる作戦か……」
「これは彼氏のプライドを守るにはいいですが……今回は掃除、というお題ですからどう判定した物か……」
したり顔でミカドがそう言った後にタナトスがそう付け加える。他の面々も自らの個性を発揮していた。
掃除をしつつ読み始める者、全部掃除をし終えた後に綺麗に並べ直す者、気付いた後は元通りにしてベッド付近の掃除はしない者、綺麗に掃除をして本も棚に並べる者。
「ふーむ……これは甲乙つけ難いッスね……」
「僕的には恥ずかしがりつつ興味津々のマイアちゃんマジ可愛いってところだけどねぇ……」
「……チッ……割り振ると……こいつが消去法で、ある程度の得点を得ることになるとは……」
今村は掃除、という一点だけで審査をしている為、掃除をしなかったものは減点になる。
この後、掃除の順番やフローリングの流れに沿った拭き方や使う薬剤、そして力の入れ方など全ての局面において高水準な掃除を見せつけたアリアと百合は90点台を叩き出し、時点で今村以外から高得点を得た祓、そして一定得点を全員から貰ったサラが80点台を取り、マイアが残念な結果になった。




