12.悪夢と抑圧
「……む、中々粘るね。だが、まぁ12分の1だしな……精々頑張れ~」
外の世界では4時間が経過しており、フィトはフラフラになりながらもまだ立っていた。そんな様子を適当に見届けた後、今村は別の場所へと移動する。
「……時間が結構かかるのは白崎と、マキアだな。」
フィトに影響が出ないようにある程度離れたところで今村はそう言って立ち止まる。その背中では【狂危凶瀾恐厭姫】ことアルマが肩から降りて健やかに眠っている。
「ふむ、じゃあ折角来たんだし……手伝わせるか。」
「……………………ぅ?」
今村の独り言に反応してか健やかな寝息を立てていたアルマが目を開けて眠そうに擦りながら欠伸をする。それを尻目に今村は適当に機器を設置して白崎とマキアのゲーム用に場所を整地する。
それが終わると、二人に連絡を入れることにした。
「えーと……個人回線は嫌だから……オルディニの不特定テレパスネットワークで連絡を入れるか……」
数瞬後、白崎とマキアが揃ってこの場にやって来た。両者ともに何故か全力で身を清め、絶世の美少女に差し掛かるレベルで薄く化粧を行っている。
「は、始めるのかしら……?」
「あ、あの、知識はいっぱい知ってますけど、初めてなので……その、あの、色々と至らない……」
「……お前らは何を言ってるんだ?」
顔を赤らめてもじもじしている二人に今村は半笑いで、軽く目だけ冷めて二人を見ながらそう言って続ける。
「……何、お前らが勝つ前提で話してんの?お前らに勝ち目なんざないようなゲームをさせるに決まってんだろ……」
それを受けて二人は冷や水を掛けられた気分になって身を強張らせた。そんな彼女たちに今村は続ける。
「さて、……じゃあ白崎から、ルールを説明する。」
「……ちょっと落ち着かせてもらえるかしら?……大丈夫よ。」
何度か深呼吸して白崎はそう言った。それに応じて今村は歪んだ笑みを浮かべて彼女に告げる。
「他人に思いやりの心を発揮して毎回悲惨な目に遭ってるお前にはある映像を見てもらおうと思ってな。それを見て心が折れる、もしくはもう見たくないと言ったらお前の負け。」
「……分かったわ。それで、何を見るのかしら……?」
白崎の言葉に今村は殊更邪悪な笑顔を浮かべる。
「お前のせいで不幸になった奴と、お前のせいで死んだ奴の……人生映像だ……お前の心に刺さるような場所だけを厳選したな……何、本人の心境までは入れないよ。俺は、優しいからなぁ……」
(まぁ、入れるまでもないと言った方が正しいがな……思う存分共感して勝手に潰れろ……最悪、記憶ごと喰って何もなかったことにしてやるから安心しな……)
かなり腰が引けている白崎に対して今村は口の端を歪めたままアルマに指示を出す。
「アルマ。あいつに顔は見せるな。俺が言ったことはわかるな?その通りに悪夢だけを見せろ。」
「……………………一巡…………?」
「まぁ、それだけで勘弁してやろう。」
今村の言葉を聞くとアルマは頷いて今村の背中から降りて地面に立ち、白崎の方に無音で高速移動して唱える。
「……覚めぬ悪夢を……アハハァ…………♪」
「っ!ぁ……」
術が掛かった途端、その場に崩れ落ちる白崎。今村はその映像を最初だけ確認することにした。
「……あぁ、祓の母親の死か……まぁ、こいつの母親がこいつに王位を継承させようとして色々あったからなぁ……じゃあ次は祓かな?結構速めにギブアップしそうだね……」
そう言って今村は映像を閉じるとマキアの方を見る。彼女は唯でさえ豊かな胸を更に張って強調しつつドヤ顔で宣言した。
「私は何人、どんなに残酷に死んでも先生の為ならどうでもいいです!その試練なら合格したも同然!」
「お前には別のゲーム。ま、簡単なこと。……少しでも発情したら脱落。」
今村の言葉にマキアが固まった。
「え、それ……私、とても困る……というより、無理なんですけど……先生私の権能を知ってますよね……?」
「知ってる。第3世界の性交の神でしょ。」
今村のなんてことないような言葉にマキアは何度も頷く。
「そうです。それだけで大体察してくれますよね……?しかも、今に至っては数億年単位で焦らされ続けて、やっと今日結ばれるとなっていて、頭の中もう大変なんですよ……?さっきからもう色んなところが……」
「うん。まぁそんなの俺には関係ないよね。ということでほい。」
今村はマキアに向けて防犯ベルのようなモノを投げた。瞬間、それはけたたましい音を鳴らして音波兵器のように近くの物を破壊する。
「うるさ……!」
「死ンジャエ……」
不快だったらしいアルマがマキアをノーモーションで殺しにかかるのを今村は防いで抱っこする。そして、ベルに負けないように大声を張り上げた。
「俺が居なくなった時点から48時間以内にそれが鳴ったらアウトな!始めるぞ。よーいスタート!」
今村は光速で移動する。そして遠く離れたところでベルの音を1デシベル単位で逃さない受信機のことを確認して舌打ちをした。
「チッ……何か良く分からんが、音が鳴らなくなってやがる……まぁ、でもあの辺には仕掛けがいっぱいあるから我慢しても無駄だろうがな……」
今村はそう言って一先ず、後ろから抱っこされて再びおねむになってきている【狂危凶瀾恐厭姫】のアルマを抱えたまま仕事が大量に残っている家に戻ることにした。その戻る途中で今村は呟く。
「……にしても無限ねぇ……時間があれば結構付きっきりで研究してみたいところだが……後……15年って所かな……それまでに、やらないといけないことがたくさんあるからなぁ……」
「………………………………ぅ?……じゅー、ご……?」
「いや、何でもない。」
今村はアルマがまだしっかり起きていたので黙って考える。
(……化物の死因が長年蓄積させた自らの毒による病気と、鍛えるためにやってきた戦争の後遺症の衰弱ってのも締まらないしな……その前にはあいつらに打って出てやらないと……まぁ、最終的には勝てずに英雄や神々に滅ぼされるのは仕方ないが……ただで滅ぼされると思うなよ……)
そう思うと最近新たに創り出した邪神法を無意識で弄び、邪悪に嗤う。
(散々嫌がらせをしてくれたんだから……ずたずたにしてやる……安心しろよ……貴様らの大好きなシステムは維持できる範囲内で破滅をくれてやる……!)
何となく楽しくなってきた今村だが、その前にやることは山積みだ。
「……鍛えることに専念したい気もあるが……まぁ、作るって決まってしまった子どもたちの為に将来を作ってやらないとな。」
(差し当たってやらないといけないことは家にある山積みとなった書類たちの処理だな……あいつら、地位を上げた割に働かねぇし……)
軽く溜息をつきたい気分になりつつ、今村は書類とデータの確認を終えたらサラとアリスにもゲームのお題を出さないといけないな……と思考の片隅で思いつつ自宅に着いた。




