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例外者の異常な日常  作者: 枯木人
第二十八章~覚醒と創出~
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9.サンゴとゲーム

「……んぅ…………!」

「起きたか。無事に生まれたから安心しろ。」


 手術を終えたイヴが目覚めた瞬間、何かを探すように動き始めたので今村はそう声を掛けた。それを受けてイヴは安堵する。


「よかったです……あの、息子って、あの方々に聞いたんですが……」

「おぉ。中々デカかった。もう外を飛び回ってる。」

「えぇ……」


 大量の育児本を読んでどんな子でも頑張って育てようと思っていたところでの今村の発言にイヴは何となく肩透かしを食らった気分になる。


「今は……大体……目測100㎝の19kgってところかな……4~5歳くらいじゃね?まぁすぐに会いに行かせるが…………名前は?」


 今村がイヴに尋ねると彼女はすぐに返した。


「仁さんは何がいいと思います?」

「俺が言ったらお前それを選んで自分の考え言わないと思うからお前が言ってから言うよ。……『遮音壁』」


 外に何かしらの気配を感じた今村は結界を張ってからイヴにそう尋ねた。それに対してイヴはすぐに答える。


「シフォンとか、フォンモール……フォンス……」

「子どものことを考えて、言えよ?あんまりふざけたこと言ってるとお前を殴って砕牙は俺が一人で育てることに……つーかお前どんだけフォンのこと嫌いなんだよ……」

「砕牙……ですか。」


 死フォンだのフォンモール(mort)だのフォンだの言っているイヴを睨みつつも今村は普通に考えていた名前を言ってしまい少し顔を顰める。


「……ではサイフォンにしましょう。」

「お前今漢字に変換しただろ……」


 さいフォンと変換したのではないかと勘繰る今村。だがイヴは違うと前置きした後、続ける。


「仁さんの元相方、彩雪さんから、そしてフォンさんから取った名前です。二人とも良い方でしたから……」

「勝手に殺すなよ……彩雪は確かに死んだけど……でもまぁ、それでいいならそうするか……子ども本人に確認は取らないとアレだが……」


 今村は名前の候補が一応出たところで取り敢えず結界を外してイヴを連れて外に出てみることにした。


「……囲まれてるが、大丈夫だろうな……」

「まぁ、仁さんの要素が入ってるのでよほどのことがない限りは殺されはしないと思いますが……」

「……俺の要素が無いと簡単に殺される恐れがあんのかよ……」


 若干呆れるような思考回路に今村は半笑いになりながら自分も人のこと言えないか……と考え直す。そうこうしている内に子どもがいると思われる場所に着き、今村はそこで何とも言えない顔になった。


「……何、やってんだお前ら……」

「た、助けて……」

「……あ、先生。躾中です。生れたばかりと言っても、精神はある程度の年齢に達しているのでやっていいことと悪いことは覚えてもらわないと……」


 イヴの子どもは木に逆さ吊りにされ、術式が一切使えないようにされていた。その説明を一番遠くにいた祓から聞いて今村は一応頷く。


「まぁ、若干やり過ぎじゃないかとも思うが……あいつ、何やったの?」

「先生のことを馬鹿にしました。ここにいる皆さんも処刑するべきかどうか悩んだのですが……アリスさんなどの主張でまだ生まれて間もないことを考慮してこの様な形に……」

「万死に値しますね……我が子ながら何てことを……」


 イヴが信じられないとばかりに口を押えて逆さ吊りの子を見る。それを見て今村は本気で呆れた。


「馬鹿か……?その程度のことで何であそこまで……」

「女狂いの色情狂って……本当にそうであればどれだけいいことか……!それによく知りもしないのに、騙されてるなんて……しかも、あまつことか先生のことをアレ呼ばわり……」


 祓の憤る顔を余所に今村はお説教に交ざりに行くイヴを見送った。


「……色情狂か……生まれたてなのに難しい言葉知ってんなぁ……」

「その点は流石先生の子ですよね。」

「取り敢えず、よっと。」


 今村は一っ跳びで吊るされている子どもの所まで飛ぶとその戒めを解き、子どもを解放する。すると子どもは開口一番今村に怒鳴った。


「おせーよ!」

「あ゛?お前、下に投げてやろうか?」


 今村はそう言って子どもに今の言葉を聞いて下で怒っている面々の声を聞かせる。


「あの~すみません~!処分させてください~!今度は許しません~!」

「ひぃっ!」

「それと……誰に向かって口利いてんだ?」

「あ、が……」


 今村の殺気に子どもは白目をむく。それを見て今村は首を傾げた。


「……この程度の殺気なら軽く耐えられるって検査に出たはずだが……?はて?能力だけ先行し過ぎてたのかね……?」


 生まれてきた子どもの能力を把握するために検査をして、今の殺気程度であれば普通の子どもが怒られた程度の認識レベルだと思っていた今村はそう言いつつ地面に降りる。


「……取り敢えず、自分が殺されかかるとか、知らない世界をいきなり滅ぼすとかそんなレベルの悪事をしない限りは殺すなよ?」

「分かりました。」


 周囲を睥睨しながら今村は子どもをイヴに手渡す。イヴは子どもを抱えると足下に闇を呼び出してその中に沈んで消えて行った。


「……イヴに子育てを任せて果たして大丈夫なのだろうか……?一先ず、クワトロシスターズはアレを追跡。」

「らじゃー!」

「地の果て、天の隅、どこまでも追いかけてお世話させていただきます!そう!私たちは~……!」

「「「「クワトロシスターズ!」」」」


 決まったとばかりにポーズを取った面々は今村の無言にも負けずに一瞬でイヴを追いかけてどこかに消えて行った。


 しかし、一人だけ戻ってくる。


「すみません。最近考えた第2のキャッチフレーズをご主人様に伝えるのを忘れてました。あなたの側で永久のお世話を「いいから行け!」……えー……行きますけど聞いてくれたって……」


 今村に冷たくあしらわれて若干寂しそうに何度か今村の方を見ながら去って行くクワトロシスターズの一人は途中でアリスから何かを受け取って何かを告げて満足気に会釈してから去って行った。


 そして代わりにアリスが今村の方にやって来る。


「ねぇねぇ、ところで、ゲームはいつするの?」

「……さっきアレ、何て言ってた?」

「ん?あなたの側で永久のお世話を、愛の伝道師クワトロシスターズ!って言ってたよ?それでゲームは……」

「順番がある。まずはフォンとフィトからだな……他は散れ。」


 今村の言葉に従って殆どの面々が消える。ただ、少し前にフォンの解放に加わったメンバーたちとクロノだけが残った。


「……クロノはどうかしたのか?」

「うん。」


 ここに残っているのはクロノとは別に仲が良くないメンバーなので今村がそう尋ねるとクロノは頷いた。


「あのね、クロノが一番お兄ちゃんのこと好きなのに、この人達でも無限なんでしょ?じゃあクロノってどうなんだろうってずっと思ってたから、そこの緑の人に訊いてみたいの。」


 クロノのあっけらかんとした言葉にこの場の面々の一部が何故か怒りを覚えたらしい。


「あ?誰が私よりひとくんのこと好きだって?」

「面白い冗談じゃのぉ……ただ、リアリティに欠け過ぎて、現実味がないのが欠点じゃが……」

「アハハ、子どもは、そういうものですから……ねぇ、クロノちゃん。まだ世の中が広いの分かってないんだもんねぇ……?すぐ近くにいる、私のこともよく分からないんだから……」

「……仁、あんたこの子たちに何したの……?」

「俺が訊きたい。」


 眠っているフィト以外の過剰な反応にフォンが引きながら五月蠅いのでクロノもついでに問答無用で気絶させ、「幻夜の館」の一室に適当に投げ捨てた。


 それを受けて今村は告げる。


「まぁ、ちょうどいい感じになったし……始めるか。」




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全盛期、相川だった頃を書く作品です
例外者の難行
例外者シリーズです
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