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例外者の異常な日常  作者: 枯木人
第二十八章~覚醒と創出~
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8.頑張れ

「うふふ……あ、仁さ……!い、ふぉ、フォン様!?」

「……久し振りね。」


 落ち着いたフォンを連れて手術などの為にゲネシス・ムンドゥスに帰ってきた今村は他の面々は解散させてイヴの前にフォンを連れて来た。


「……私より先に、仁の子を身籠るなんていい度胸じゃない……」

「え、あ、そ……その……」

「やめろ。こいつはどうなっても知らんが生まれてくる子どもに悪影響が出たらどうする。」


 フォンの圧迫面接並の笑顔での脅しにしどろもどろになるイヴ。今村はイヴ、正確にはその中にいる子どものことを庇って間に入る。すると、袖を引かれる感覚があり、その方向には誰もいないことを把握すると舌打ちしてイヴとフォンに言った。


「ちょっと緊急の用事が出来た。すぐに戻って来るが喧嘩すんなよ?クワトロシスターズ。ちょっとの間頼んだ。」

「母体の健康はお任せあれ!」

「行ってらっしゃいませご主人様!」


 何か変なポーズを決めるイヴの身の回りの世話をするために呼んだ4人組にそう言い残して今村は別の場所へと飛んで行った。












「で、何か用?」


 呼び出された先など分かっているとばかりに今村は過去にセイランとミニアンに渡した移動する世界の屋敷へと飛んだ。

 そこに着くと、セイラン、ミニアンの他にアカシックレコードから盗っ……借りて来た本の解読の為に別世界にいるはずの瑠璃とユリンもいて、お通夜のような雰囲気でいることを見て今村は首を傾げ、尋ねる。


「何してんの?」

「…………フォンって方……旧神のあの方が居るから……駄目なのかい……?」

「何が?」


 沈痛な面持ちでミニアンが今村にそう言うが、今村は良く分からないので首を逆方向に傾ける。


「……仁……あの人が、本命なの……?ボク、諦めないと、ダメ……?」

「本命?いや、俺は誰も本命とかないけど……まぁ俺のことは諦めないとダメとは思うぞ?」


 何となく話の流れを掴んだ今村は瑠璃の言葉にそう答え、セイランに首を振られた。


「いえ、理由なく諦めることはないですけど……子ども、お作りに……なられると聞いたので……」

「どこで聞いたんだよ……?……いや、まぁどこかとかはいいけど……」

「私たちとはずっとダメだと仰っていたのに……」


 残念そうなセイランの言葉に今村は更に首を傾げ、首から上だけ上下逆さまになる。


「いや、そりゃ誰だってダメだが……勝つから問題ないだけであって。」

「ですが、お兄様は私たちとはそのような勝負を持ちかけることすら……」


 セイランの言葉に今村は首を元に戻して頷く。


「そりゃ、お前らは生殖活動を伴うヤリ方しか絶対に認めないし……『生命生成』とかの能力使っていいなら勝負に乗るけど?」


 その言葉を聞いて全員が溜息をついた。まず瑠璃から今村の方を見て軽く口を尖らせて文句を言うかのように言った。


「……あのさぁ、安心したボクが言うのもアレだけど、あの方絶対怒るよ?」

「そりゃいいな。喧嘩別れだ。」


 軽く笑う今村に、ミニアンは付き合っていたという既成事実があってもこの程度で流される……と思い、何らかの形で付き合うことが出来たら確実に言質を取るか書面で残すことを強く決め直した。


「あの方、以前に仁様と付き合っていた過去が……」

「時効だろ。自然消滅してないとおかしな年月が経ってる。……まぁその昔に世話になった……いや、アレはあいつの所為で巻き込まれた……でも退屈だったし……ん?でも本だけでも結構楽しかった気が……」


 ちょっと世話になったという事実に対する自信がなくなったが今村は言い切った。


「まぁ、軽く世話になったような気もするからある程度付き合いはする。簡単に言えばアレだ。会社における社会的関係の付き合い的な?」

「……要するに優先順位はそこまで高くないの?」

「……そうだな。優先順位で言えば瑠璃の方が高いな。」


 その答えに瑠璃は顔を真っ赤にして俯き、言葉にもならない何かを一人で呟き始める。


「ぼ、僕は!?あの方より上かい?」

「……お前はそこまで高くないなぁ……大体お前はゆ……いや、何でもない。」

「……今何か言おうとしたよね?」


 ミニアンは怖い笑顔を浮かべて今村に詰め寄る。だが、それはセイランとユリンによって退かされた。


「わ、お兄様、私は……?」

「……ん~……微妙な位置だな……いや、でもこの前助けに来てくれたし……瑠璃の次ぐらいじゃね?うん。あれより高い。」


 セイランは無言で小さくガッツポーズをして席に戻って行った。そして最後に【清雅なる美】ことユリンが無言でキラキラした目を今村に向ける。


「……まぁミニアンより高いよ。」


 その言葉でミニアンが軽く半泣きになっていじける。


「何で僕だけ……やっぱりあいつの所為だよね……仁は厳しい……ねぇ、皆で【勇敢なる者】を殺しに行こうよ……」


 その言葉を聞いてユリンが軽く嘲るような顔をした。


「語るに落ちましたね【可憐なる美】様……仁様は具体名を出していないのに自らそう仰るとは……」

「やっぱり意識してるんだね……」


 半笑いの勝者の笑みを浮かべる瑠璃にミニアンがかちんと来たらしく、両手に強力な魔導陣を携えて立ち上がった。


「相手になろうじゃないか……予定より大分早いけど僕はこの場で正妻戦争を始めてもいいんだよ……?」

「今回はお姉様が悪いので私はこちら側に着かせてもらいますね。」

「……上等だよ。僕が一番仁のことを好きなんだぁぁぁああっ!」


 術式を起動させてその場から一瞬で攻撃に入ろうとするミニアンに対して今村はうるさいと思ったのでミニアンを蹴って上空に跳ね上げるとそれを抱えて着地し、席に座る。


「何だい!?」

「落ち着け。」

「何で蹴ったのかい!?そう言えば毎回毎回投げたり蹴ったり……そっちが好き勝手やるなら僕だってふみゃぁ……そ、そんな簡単に……ぃいぃ……ごみゃかされ……にゃいんだぞぉ……」

「はいはい。」


 ある程度骨抜きにしたところで今村は後処理をセイランたちに押し付けて元の世界に帰って行った。











「……ふむ。間に合いはしたな。」

「む、ご主人様……いえドクター!陣痛が始まりました!」

「麻酔薬打って寝させろ。産める大きさじゃなくなっただろ?」

「はい。出産直前時点での推定では胎児は3歳児程度の大きさになっていると思われます。」

「……それ大丈夫なん?」


 そんな感じで喋りながらも今村は全身に付着している目に見えないゴミや全ての菌やその他の生命体などを皆殺しにしてローブをごく薄いグリーンの術衣に変える。


「母体の状態は?」

「胎内の空間を増やしている為、苦しくはない模様です。ただ、ドクターを待っていたことからご想像はついていると思いますが……」

「胎生で、術式では取り出せない状態にある……胎児が外に出るのを拒否してるのか。転移は可能か?」

「かなり強力な術式です。転移などの空間の揺らぎ、また周囲の魔力に対してもかなり敏感ですのであまりお勧めはしません。」


 今村は軽く舌打ちをした。


「マズイな……生まれてもない子どもがそんな術式を使うとなると、イヴの方から盗ってると考えた方がいい。体力が持たなくなる……」

「はい。……!イヴ様が意識不明となったようです。」

「急ぐか。」


 今村とクワトロシスターズは急ぎ足になり、すぐに目的地に入る。


「イヴ様は昏睡状態です。痛覚はありませんが、自己再生魔術を異常値で掛けられている状態にあります。」

「分かった。空間の奥行きの補正を外すぞ。勝負は一瞬だ。」

「カウント始めます。3,2,1,0!」


 瞬間、イヴの腹部が異常に盛り上がったかと思うや否や、今村の神速の一太刀がその表面を切り裂き、その音が追い付く前に開いた状態で鉗子を用いてクワトロシスターズが抑えて今村が中にいる子を嫡出した。


「ようこそ。こちらの世界に。」

「…………こぺっ……」


 羊水のような液体を吐き出したイヴの子どもは息子で、彼は現状を把握する前に泣くこともなく気を失った。


「……状態の安定は問題ないな。」

「後は引きうけました。お疲れ様です。」


 血が出ることすら追いつかない瞬間のオペを終えて今村はすぐに手術室から出た。





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全盛期、相川だった頃を書く作品です
例外者の難行
例外者シリーズです
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