5.まさかの
「イヴ「お呼びになりました?」おぉう……まぁ、取り敢えず座って。」
今村はゲネシス・ムンドゥスに戻ると早速裏の確認の為にイヴを呼んで話を聞くことにした。
「……お前さ、前世の記憶とか……ある?」
瞬間、イヴは土下座した。
「も、申し訳ないです……あの時は、操られる隙を見せて……ひ、ひ……仁さんを刺してしまうなんて……」
「あ、そうじゃなくてさ。その前、俺と会う前に既にあったことがあるような記憶はない?」
今村に起こされてイヴは椅子に座らされると嫋やかな手を頬に当て、少し考える素振りを見せて頷いた。
「えぇ……何か、塔の中で、今村と名乗る方がいらして、そこから飛び降りたのをサイコキネシスで拾ったりした記憶が……それと、最期には想いも告げることが出来ずに死んでしまい、非常に後悔をして……」
「……ふむ。詳細は分かる?」
「微妙に、ですが……分かる範囲で良ければお話します。」
今村はしばらくイヴの話を聞くことにした。客観的な話し方だったが、ひとつ前のイヴと言う存在は苦労して来たようで、そんなイヴの生まれ変わりである目の前の彼女の扱いは酷い物だと判断した今村は懐を漁る。
「……あった。ほれ。」
「……何ですかこれ……?」
今村は香水の小瓶のようなモノを投げ渡した。イヴは透明な液体が入っているそれを見て首を傾げる。
「ラッキーポーション。俺でも量産出来ない結構珍しい物だから大事にね。使い方は飲む。効果は超ラッキーになる。」
「……どれくらい飲むと、どれくらい運が良くなるんですか?」
「ん~……尺度が難しいな……量は、その瓶半分飲まないと効果が薄いってのは言えるんだが……前に飲ませた奴はそれ飲んでから先代天美神12柱への告白成功させたな。」
今村の言葉を聞いて少し液体をじっと見た後にイヴはふたを開けてきっかり半分だけ飲んで今村を見た。
「あんだ?」
「…………じぃ……」
凄く見てくるイヴ。今村が訝しげに見返したその直後、イヴの腹部が不自然に盛り上がった。
「え?何?」
「ぅ……な、何か……」
「ちょっと動くなよ?今視るから……」
今村はイヴを横にして膝屈曲位の姿勢を取らせ、腹部の緊張を和らげるとイヴの容体を見て、思わず間抜けな息を漏らした。
「に、妊娠……?」
その言葉にイヴは思わず身を起こして反論した。
「ばっ……ありえません!浮気なんてしたことないです!確認してください!私は無実です!」
「いや、お前、これ……こ、あ?は?」
二人は揃ってもの凄い勢いで慌て始める。イヴはそんな今村を見て信じてくれてたのに、何で……と言う念が浮かんできて涙目になる。
対する今村は頭を抱えてその場にしゃがみ込んだが、しばらくして息を吐くと立ち上がった。
「何故、俺の子が……一応、生まれてくる子には……祝福を与えるけど……」
イヴは更に大混乱した。
「え、あ?ひ、仁さんの子……?は、初体験の記憶がない……それこそ、記録して永遠に残さないといけないのに……」
「いや、シてない。……つーかそんなもん残すな……」
非常に疲れた顔をして今村は椅子に深く腰掛けた。
「『解析魔眼』で検査した結果が出たが……ちょっと前にお前、……何か言うのもアレだが、俺の髪の毛喰っただろ?」
「あ、はい。美味しかったです。ほろ苦くて。」
「……そんな感想は聞いてない。」
今村は溜息をついた。
「……で、その髪の毛の構成要素は俺な訳だ。それがあり得ないことに、何故か生き残って体の中をどうやってか移動して、信じられないことに着床して急成長してるらしい。……意味わかんないだろ。」
「はい……」
「安心しろ。俺もだ。こんな変な機能は付いてない。」
今村は再び深い溜息をついた。それに対してイヴは色々よく分からないと言う顔をしたが取り敢えず頷く。
「超ラッキーですね。仁さんの子ども!うふふ……一番乗り……」
「お前はいっつも俺の止めを刺しに来るな……」
前世では物理的に、今世では間接的に今村の首を絞めてある意味で止めを刺しに掛かっている。しかしそれはそれとして、出産は一大事なので体を労わってやることにした。
「……取り敢えず、今の服は止めて少し腹部に……いや、全体的にゆとりのある服に変えた方がいいな。『ウェアーアップフレーム』」
今村はイヴの服をマタニティドレスに変えると誰を呼ぶか少し迷ってからイヴに尋ねた。
「身の回りの世話をする奴はどんな奴がいい?」
「え「よし。コピーした。」……あ、あの、あんまり気を遣わなくても……」
そんなことは無視して今村は身の回りの世話をする面々を4人呼び出して経緯を話す。全員が首を傾げて訳が分からない……という表情になったが一先ずこれからやることについて把握してイヴの方を見た。
「……男児ですね。」
「これは……成長型の神のようです。……出産予定身長は約……80㎝。」
「このままだと子宮破裂の恐れから完全に大きくなる前に子宮の全摘出が想定されますね。空間の保有を少し変えることをお勧めします。」
「イヴ様は闇の能力をお持ちですが、生まれる際に闇の能力を用いると神とは言え、相手は子どもですので悪影響が考えられます。我々の方で改造を施しますがよろしいですか?」
今村からは色々と言いたいことはあったがイヴは初めての出産と言うことで取り敢えず頷くだけだ。
「出産時における知能指数の予想は……一応、知識としては一般的な神々の知識は持たれるようです。しかし、情緒面や善悪の判断などは無知レベルだと想定されます。」
「それでは母体健康係を2名と胎児育成係、それから出産、育児準備係に分配した方がいいですね。」
「いえ、出産予定がかなり早いです。明日未明には生まれるでしょうから準備係が2名の方がよろしいかと。」
「明日、ですか……では私はなるべくバランスのいい食事を作って母乳のコンディションを整えに参ります。」
「明日って何だよ……」
今村はこの件に関しても色々言いたいことがあったが、生まれるものは仕方がないと割り切る。慌ただしくメンバーが動き始めていると今村の知神がわらわら集まり始めた。
「何で僕じゃないんだ……絶対予言の子は僕の子だと……」
「ボクが一番最初に好きになったのに~!」
「……でも、この方処女ですね……よかった。お兄様の初めては私が……」
「……取り敢えず、お前らが来ると世界が停止するから帰ってくれない?つーか来るの早いな……」
「祝福を授けました。ふふ。処女を生れてくる子どもに取られるという、残念な方に……これで永久の誓の術式は完成しませんよ……罰です罰。」
「【清雅なる美】よ……おい……」
取り敢えず世界の停止や魅了などで変な影響があるといけないので一同には帰らせる。しかしその直後にまた別の客が現れた。
ガラのあまりよくない、今村の悪友みたいな連中だ。全員が信じられないような顔をしてその顔には似合わないベビー用品を持ってやってきた。
「まさかお頭の子が……本当に、実在することになるとは……」
「しかも、別嬪……いやまぁお頭の相手は全員そうか……」
「母体のストレスになるといけないのでお帰り下さい。」
こちらは4人組によって追い返された。そして、ここからが今村にとって一番面倒な相手になる。




