2.アカシックレコード
「……ねぇ、さっき何してたの……?」
「ん?……お願い。」
禁書エリアに入った今村と【精練された美】瑠璃、そして【清雅なる美】は独特な香りが漂う中で探し物をしていた。
「……にしても、色々面白いな……時間があればここに入り浸って居たいんだがそうも言ってられないし……」
「ねぇ……気になるんだけど……んむぅ…………こ、こんなんじゃ、騙されないんだから……ん♡……さ、最後にもう一回で……だ、騙されてあげるよ……」
三回ほどキスをして誤魔化した今村は手に持っている現在の世界の形成についての話を見て、面白いが術に関係ないからいいか……と思い目を離して本棚に戻すと妙な頭痛を覚えた。
「これ……全部コピーするか……持ち出しは厳禁だし、誰かに読まれるのもマズイから暗号化して……」
自分の直観は当たらないと思うが、当たらないと思っている時に限って当たる物なので、今村はそれを特殊な術式を用いて写して別の物を見て行く。
「……この辺かな……あいつらが正気に返る前に持って行かなければ……まぁ節度として持ち逃げなんかはしないが……」
「ここに来てる時点で節度ってどうなんだろうね……」
「ま、まぁ……いいじゃないですか……こ、これとかどうです?」
批判気味な瑠璃に対して協力的な【清雅なる美】。彼女から手渡されたのは白魔法から白魔導、そして白神術に至るまでの生きた魔導書だった。
「……これ、コピーでも意識って写せるんだろうか……まぁ読めればいっか。ありがと。それと、生きてる魔導書に関しては『ドレインキューブ・セオイアル』掛けとかないとな……」
「はいっ!」
「む……ボクだって……」
褒められる【清雅なる美】を見て対抗意識を燃やす瑠璃。彼女の方も武術や武神術などを選ぶ目に熱がこもる。
今村は今村で入った痕跡を残さないようにこの場にある全ての物から全員分の記憶や存在などを『ドレインキューブ・セオイアル』で奪いながら黒魔導から邪神法まで引き抜いてどんどんコピーしていく。
(クックック……何て素晴らしい宝庫なんだろうか……あ~ここにしばらく住みたいなぁ……そろそろ、腑抜けになった奴らじゃないのが来そうだから名残惜しいがもう行かないとな……)
「瑠璃、ユリン、そろそろ逃げるぞ。各地の観察者が帰ってくる。『痕跡帰還』よし、証拠隠滅完了……」
「……待って、これ、結構いいから……」
「引き際が大事だ。逃げるぞ!」
今村は瑠璃を背負い、【清雅なる美】ユリンをお姫様抱っこで抱え上げて誰にも見つかることがないように脱出すると何事もなかったかのように封印を掛け直し、匂いを変えて外の書庫を見て回る。
「ふぅ……あ、お面を付けて……ってぇっ!何で素顔を晒し掛けてんだ……」
「あ、あ……失礼しました……いえ、顔が近くて……ドキドキしました……」
「あ!【魔神大帝】様!……まだ、特異禁書録には入られて……」
今村が瑠璃とユリンを降ろして不意に振り返ったところに以前、今村が精神世界に拉致された時にレグバを迎えに来た女性が急ぎ足でやって来た。その手には滅多打ちにされて血を焼き固められているレグバが吊るされている。
今村たちがそんな姿になっているレグバに目をやるとその女性は朗らかに笑ってレグバを持ち上げて今村たちの前に見せつけた。
「この度はこのポエマー局長がとんでもない事を言ってしまったので、その撤回に参りました。素直に応じて頂けない場合……身命を賭して、従業員一同が相手をさせていただきます。」
「……ありゃ、やっぱり駄目?」
今村は横目で【精練された美】と【清雅なる美】がお面を付けていることを確認して曖昧に笑いながらその女性に応じる。
「えぇ、局長の脱走を防いでくださった方に、このような手を取るのはあまり好ましくないので大人しく了承していただけませんか?」
「え~……只で?」
今村の笑いながらの、しかし目だけは全く笑ってない顔で言った言葉に応じて後ろの二人も臨戦態勢に入る。それを見て彼女は苦渋の決断をした。
「……特異禁書録、最下級の本を一冊のみなら、持ち出ししてもらうことを許可します。それ以上は、譲れません。」
「……ま、そんなところかな。俺、入れないんでしょ?じゃあ強化についての本を何か持って来てくれます?」
今村が軽くそう言うと女性は肩の荷を下ろしたかのように安堵の息を漏らし、優雅に一礼するとこの場から出て行く。その後ろ姿があまりにも油断しているので今村は普通に急襲を仕掛けたくなったが我慢した。
「……これで、お願いします。」
「はい。ではさよなら~」
やけにあっさり引き下がったな……と思いつつも単体で【勇敢なる者】とほぼ互角の勝負を繰り広げた【魔神大帝】、武術大世における活神拳の総元締めになった【精練された美】、そして世界最高峰の癒し手【清雅なる美】を相手に戦う危機を脱すことが出来、息をつく。
最悪、原神を呼んでも勝てなかったかもしれない戦いを免れたことが出来た安堵感からその女性はそれ以上のことを考えなかった。
「……仁、酷いね……まぁそこもいいんだけど……」
「仕方ないですよ。大体、勝手に決められたルールなんてもの、仁様には関係ありません。」
「……まぁ結構あるからこんなこそこそしてるんだけどね。」
アカシックレコードから出た今村たちは今村の別荘である世界の一つで強力な結界を張って持って来たコピー類の解読に勤しみ始める。
「……うへぇ……マジか。こいつら殆ど魔力類の一切通ってない、ガチの古代文字じゃねぇか……面倒だなぁ……」
「……それでも読めるのが格好いいよね……」
「辞書がないと読めねぇよ……何か異常なほど言語が分かれては消えている変な世界があったからそこで買って来た機械のお蔭で若干楽だが……」
今村はこの場に法氣を溢れさせると少し前に地球に行った時の機器を操り始めた。
「……魔力式に殆ど作り変えてるからなぁ……こういう原始的な感じは最近やってない……」
「この文字の系譜が分かれば私たちも協力できます。仁様、教えていただけませんか?」
「……多分、アラム文字。しかも古代アラム文字だな……古代文字の中では新しい方だが……消失文字以前のやつだから調べるのが結構面倒だな。発展した奴の所為で形が面倒だし……」
今村はそう言いながら改造してある機器の一台を手渡して首を回した。
「取り敢えず、直接貰ったやつは外に持ち歩いても問題ないからこれは持って行ける。ただ、この時点でずっと籠ってると怪しまれるかもしれないからこの本のことを実践しながらゲネシス・ムンドゥスで仕事してるわ。何か進展あったら教えてくれる?」
「うん。」
「頑張りますね。」
二人の言葉に今村は何となく笑った。
「じゃ、色々置いて行くし、かなりの頻度で見に来るから……邪魔だったら別室を創る「直接、来て?分かって言ってるよね?」……おう。」
「ご褒美など……あの、時々、ハグ……」
「まぁ、いいよ。」
こんなことで喜ぶ二人を見て今村は一瞬だけ何とも言えない顔をしたがそれを見せないようにしてゲネシス・ムンドゥスへと戻って行った。




