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例外者の異常な日常  作者: 枯木人
第二十七章~帰郷~
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24.目覚め

 今村がミニアンを宥めてある程度甘やかし、そろそろ調子に乗って来始めたなと思いつつも明確な危害を加えることは出来ないので突っ込みと称して軽く殺しにかかっている頃。


「ど、どうして……?私、何で、こんな醜い……」


 自宅で今村の帰りを待っていた今村の娘である百合は自らの体の変化に慄いていた。彼女は今村と【勇敢なる者】の戦闘時に今村の能力発動に呼応して自らの能力を無意識に解放してしまったのだ。


 その結果、今村の全神モードと少し異なる状態、黒髪と白髪が右と左で綺麗に分かれた長髪に、そして両眼の色も右が金、左が銀と色が分かれて皮膚には非常に細やかな龍鱗が浮かぶようになっていた。


 それはある意味では妖しい美しさを魅せているものであったが、人の殆どが基人型の者である周囲に囲まれて育った彼女にとってはただただ悍ましいものだった。


「わ、私は……化物の子……なの……?お父様の、子じゃ……」


 そして百合はそう考えた。尤も、彼女の父親はそれどころではない変化、例えば流体になったりするのだが彼女はそれを知らずに思考を進める。


「だ、だから、お父様はあまり、家に……」


 それは彼が放浪癖があるだけだ。しかし、一度悪い方向に想像した思考は急に方向転換できない。


「百合さん?何か凄い音が……」


 そんな時だった。彼女の部屋の前から育ての親である月美の声が聞こえ、自分の部屋に入ってくる。


(お母様にこんな姿は見せられない!)


 本能的に何故か飛べると言うことを理解した瑠璃は良く分からないまま窓から部屋を飛び出して家から出て行った。


 その凄まじいスピードで動く百合の後ろ姿だけを辛うじて見ることができた月美は頷いて呟く。


「あの子も飛べるようになったんですね……今日はお赤飯……は、この家の方々は誰も好きではないですね……まぁ兎に角ご馳走にしますか。」


 彼女はそう言って呑気に厨房へと移動して行った。












 呑気な育て親に対して自らに怯えている百合が向かった先は誰もいないとされる深い森の奥だった。


「……醜い……私なんて……」


 彼女はここで自殺するつもりだ。出来れば彼女の両親にはこんな姿を見せたくはなかったのでその森の深くまで移動していく。


 そうしていると彼女はこの世の者とは思えないような幻想的な人物、及び風景と出会うことになる。

 その森の奥深くでは今村とキバによって倒されたゲネシス・ムンドゥスの女神たちがマキアの下に集められていたのだ。


(な、何なのでしょうか……?あ!あそこにいらっしゃる方は白崎さんと、天明さん……?それに、クロノちゃんまで……)


 百合がその集会の中に知人を見つけて不思議に思いつつ気配を消してその集会を木の影から盗み見て、内容を聞き取りにかかると会話の内容が若干聞こえてきた。


「……にわかには信じられないわね……」

「信じないならどうでもいいです。正直、私は先輩と私がちゃんと先生と結ばれればいいので。……ただ、今回の借りは返してください。」

「……わかったわ。」


(……お父様と、何か関係が……?)


 マキアにより、この場にいる女神たちが現在記憶を失って全員が最愛の人である今村のことを思い出せない状態であること。

 そして、今村しかその状態を治すことが出来ないが彼は全力で抵抗してくること。


 最後に、全員が死力を尽くしても勝てない相手であることが説明されていた。


「それじゃ、どうするっていうのよ……勝てない上に、相手のことを思い出せないと言うのに……」


 白崎の言葉にマキアが三日月のように口の端を吊り上げて答えた。


「そこに居る人……そう。百合さんにちょっとだけ協力してもらいます。」


(バレてる!)


 嫌な予感がした百合が急いで逃げ出そうとしたところで隠れていた木が急に触手を伸ばして彼女を雁字搦めにする。


「フィトさん有難う御座います。」

「ん~ん~………………そこの~人って~何か~懐かし~匂いが~するから~……私のね~趣味だよ~」


 フィトの言葉にマキアはさもありなんと頷く。


「だって、その人私たちの大好きだった人の能力の副産物として生まれて来たんですから。……匂いも、能力も、ほぼほぼ近いんですよ。……なので。」


 マキアの言葉に百合は縛られたままで顔を俯け、表情暗く言った。


「私は……見ての通り、化物です。その、今村さんとは何の関係も……」

「大丈夫です。ずっと、あなたのことは見てましたから。」


 百合が最後まで何か言うよりも早くマキアはそれを遮って妙に爽やかな笑みでそう告げた。困惑する百合に対してマキアは続ける。


「あなたが大学に行っている間に少々……まぁ、手荒だとは思いますが、催眠を掛けさせていただき、検査させていただいてます。その結果、能力値に巨大な差があり、殆どの能力が欠如していますが、あなたの中に現存している能力の波長と先生の能力の波長は一緒でした。」

「…………え……?」


 身に覚えがない言葉に百合は驚いて顔を上げる。その時には百合が今まで見たことがないような妖艶な魅力を醸し出している美少女がその笑みを浮かべたまま眼前に迫っていた。


「まぁ、そんなことどうでもいいんですよ。……あなたがどう思っても、私がやることは一つなので……ちょっと、チクッとしますけど……一瞬のことなので……」


 そう言ってマキアは様々な試験管やフラスコ、そしてビーカーなどと薬品を準備してマッドサイエンティストが浮かべるような笑みを浮かべた。


「大丈夫です……えぇ。死にはしませんし、健康に被害も出ません……私たちに協力していただくだけです……」

「ひっ……た、助け……」


 能力はかなり強力な物を持ち合わせている百合だが、その運用の仕方の殆どを知らない。ましてや一度も戦闘をしたことのない百合は目の前の存在にただただ圧倒されるだけだ。


 殺されるかもしれない……そう思った百合だったが。マキアが取った行動は採血と長くそろえられた髪を一房切ることだった。


「いや……百合ちゃんって先生に過保護にされてるみたいなんでそんな酷いことはしませんよ……?先生に嫌われたくないですしぃっ!?やった!いきなり成功した!百合ちゃん愛してるよ!」


 何故か若干呆れながらマキアは実験をしていたが、試験管に百合の血液を入れた所でフィトが何かを入れ、シェンもついでに何か入れた所、薬品が凝固して液体の中に雫の様な何かが出来てマキアは跳ねて喜ぶ。


「じゃ、先輩どうぞ!」


 すぐに薬品をひっくり返してその固形物を祓に渡すマキア。祓は微妙な顔をしながらそれを受け取り


 涙した。


「……な、んで……あぁ……ああぁぁぁぁああぁぁぁあぁっ!」


 次いで慟哭する祓にただ驚いて何もできない百合、そしてそれをただ事ではないと見た白崎がマキアに詰め寄る。


「コロルに何をしたの?答えなさい!」

「えー……私、正直あなたは好きじゃないんで作りたくないんですけど……まぁ全員分造らないと太刀打ちできませんからね……でも作りたくないんで最後にしようと思ってたんですけど……しょうがない。」


 マキアは百合に何らかの薬を飲ませた後、祓に渡した固形物を複製し、その後すぐに白崎に薬を渡す。この場に悲痛な声が響き渡った。


 そして、それは薬が渡されるたびに増えて行くことになる。




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全盛期、相川だった頃を書く作品です
例外者の難行
例外者シリーズです
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