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例外者の異常な日常  作者: 枯木人
第二十七章~帰郷~
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23.甘い

「…………やり過ぎでは……」

「……ですが、結果は……」


 何やら五月蠅い中で今村は不機嫌になりつつ目を覚ました。そして次第に意識が覚醒するにあたって壊された機器のことを思い出してそれがあるはずの方向を勢いよく見る。


「……ある。よかった……?何か、変だが……」


 何となく違和感を覚えるが、機能に問題はなさそうだと判断して今村は状況を把握しにかかる。


(……何か、やたらと口の中が甘い……?後、倦怠感が……ついでに腰痛?)


 体中に妙な感覚があり、何ともなしに性欲が強い状態だ。そんな今村が目を覚ましたことに気付いた女性陣が寄って来るのを見て今村は納得する。


「……まぁ、これが……こいつらが揃ってれば……まぁ、然もありなんって感じだな。よぉ。」

「……えぇと、一先ずこれをお飲みください。」


 微妙に困ったような顔をしている【清雅なる美】から今村はこれまた甘そうな薬湯を受け取ると一気に呷る。


「……?何か、今変なのが……あ、それより体が治ってるな。【清雅なる美】の『白神法術』かな?ありがと。」


 今村の言葉に【清雅なる美】は無言でセイランの方を振り返った。彼女は何か満たされた顔をして瑠璃の説教を受けている。今村は少しだけ興味を持ったので聞き耳を立てながら【清雅なる美】に現状を尋ねる。


「……何?え?『ムラムラしました。反省はしてません。』……?え、俺……何もしてないよな……」

「……一応、一線は越えてないと思います。……多分。ただ、私の全力の神法でしか治せなかったはずの怪我が意識を取り戻したときには綺麗になっていたということは事実です……」


 今村の脳裏に世間一般的にはいい意味のフレーズ。しかし、彼にとっては何となく嫌なフレーズが思い浮かぶ。


「……『愛の奇跡』……?」

「……おそらく。」


 今村は考える。軽い通常の死程度であれば原神、その上、純粋なる初恋の愛も司っている【無垢なる美】のキスだけで何とかなる。

 ただ、今回の傷は原神が付けた崩壊につながる怪我であり、死ぬ程度では済まないはずだ。


「どこまで行った……?いや、どこまでさせられたんだ俺は……身に覚えがない所で話が進んでないだろうな……?つーか、体内に収納していたはずの男性器が何故体外に出ている……?ぜ、全身に……力が入らなかったから……だよな……?」


 恐ろしい予感がしたのでその解消のために今村は誰にも聞こえないように口の中で言葉を転がした。


「『孤独な大帝(ソリタリーエンペラー)』……」


 その言葉を呟いた瞬間、今村の縁が確認され、自らから出ている物に関しては誰とも繋がっていないことを確認すると安堵の息を漏らす。


 そのことにこの場にいる面々は気付いたが、何も言わなかった。


「さて、ご心配していただき恐悦至極。」

「普通にして?何か変だから。」

「あー心配かけたねー悪かったよーじゃーねー」


 瑠璃の言葉に一気にやる気をなくした挨拶をする今村はまだセイランの魅力によって固まっているるぅねを蹴り起こす。


「はっ!………………あるじ様ぁぁあぁあぁぁぁっ!うぇぇええぇん!」

「いやそう言うの良いから。それより培養液のケースの表面に何でハート形の桃色の何かが付いてんの?気持ち悪いんだけど。」

「えっ……る、るぅね知らないよ?」


 るぅねはセイランの方を見る。しかし、彼女の聖母を超越した何かのような全てを満たされた微笑みによってるぅねは再び気絶した。


「起きろ。」

「ふぁい!……あ、あぁるぅじさまぁぁあぁぁっ!生きててくれてありがとぉおぉおおおっ!」

「……だからその流れはもういいんだけど?」


 相手にするだけ面倒だということでい今村は冷静な状態であるのにもかかわらずに全力で幸せオーラをばら撒いているセイランの方を見た。


「……お前、だよな?……俺に、何した?」

「…………黙秘します。ふふ♪」


 今村はセイランの魅了の封印が弱まるほどの上機嫌の笑顔を前に文句を言えない。というよりも、問答無用で魅了されかかり、無理矢理顔を逸らした。


「……ひ、一先ず!仁は安静にした方がいいんだよね?」

「はい。……本当はもっと看病したいのですが……私たちがいると騒動の種になりますので……」

「それではまた。愛してます。お兄様♡」


 三者三様の状態でこの場から去るのを見送って今村は溜息をついて閉界していた世界を開き、るぅねに機器を持って帰らせる。


「あるじ様……無理しちゃダメだよ?」

「あぁ……いや、つーか出来ない……薬湯を飲んだ時に気付けなかったが……一切の戦闘行為が起きそうだと判断されると俺は強制的に眠りに就くし、戦闘の情報が色んな所に流れるように何か入れられてた。」


 今村は苦々しい顔をする。情報が流れる先まで調べた結果、例え原神が来ても勝てる面々が揃っていたが絶対に貸しなど作りたくない相手なのだ。


「……瑠璃とかはまだいいけど……リア充撲滅委員会のあいつらとか絶対呼びたくないよなぁ……」

「仁!ごめん!」


 今村がそう呟いているとミニアンが遅れながら登場し、それとほぼ同時に謝罪して来た。


「……あ、勝手に楔にされてるのか……まぁ今開けたところなんだが……キバとキマイラにはもう少し頑張って貰おう……閉界……」


 今村は【勇敢なる者】が帰って来たら適わんとばかりにミニアンを見るとその世界の一部を閉じた。それに対してミニアンは涙目で今村の全身を摩る。


「大丈夫かい?ボクの所為で……ごめんね……ごめんね……」

「いや……まぁ。何でもない。」


 今村は「いや、本当。……さっさとお前が痴話喧嘩を止めればその隙を狙って両方とも殺してやるのに……」という言葉を呑み込んだ。

 現在、戦闘行為が禁止されており体の状態もおかしいのだ。理性が弱っている状態でミニアンを怒らせると今度こそ一線を越えてしまう。


「……先に言っておくけど、【無垢なる美】に前に会った負の原神たちの連絡先を送っておいたのは、浮気じゃないからね?ボクと君の結婚式に君は絶対に誰も呼ぼうとしないから先に知っておくべきだと思っておいたのが偶然、役に立っただけで……」

「……どうでもいい……それに浮気は今の……おっと。」


 理性が弱っているせいで思っていることがホイホイ出そうだ。ミニアンは一瞬恐ろしい笑顔を浮かべたが、普通の表情に戻る。


「……いい加減、理解、して?」


 口を開けば失言をしそうなので今村は黙って首を縦に振る。するとミニアンは打って変わって再び申し訳なさそうな顔になった。


「こんなに怪我をして…………?【無垢なる美】……羨ましい……」

「……こんな状態になったのはお前の夫……っと?どうかした?」

「……っ…………ふ、……ふぅ…………っ……」


 今村の発言にミニアンは泣きそうな顔になって黙り、何とか息を吐き出して頭に手をやったり少し動いたりすることで気を紛らわせて絞り出すように告げる。


「本当に、どうして……本当に好きな人にだけ、伝わらないんだろうね……」

「そうだね。まぁはっきり言わないから……じゃないね。……もう俺今日ダメだわ。黙っておこう……」


 今村が消滅しかねない程の大怪我をして心に余裕のないミニアンは無言で泣きつつ、それを何とか抑えようとしている。それを見ても今村は追い打ちをかけそうになったので黙ることにした。


「…………帰る。」


 静寂の後、ミニアンはその滅世の美を体現した顔を酷い色に染めてそう言い、この世界を後にする。しかし、今村にそれは止められた。


「……お前、何しようとしてる?」

「何って…………仁には……君には関係ないだろう?どうせ、ボクのこと嫌いな君にはさ……」

「いや、色々困るんだけど。」


 自殺でもしそうな勢いのミニアンに今村は割と真剣な顔でそう言った。別に殺して封印して世界の礎にするのであれば問題はないが自殺されると問題になるのだ。


「……こうやって甘やかすからいけないとは分かってるんだけどさぁ……」

「何………………?」

「はい、おいで。」


 今村が手を差し出すとミニアンはぴくりと反応する。しかし、首を横に何度か振った。


「つ、そ、そうやって……」

「うるせぇメンヘラ……頭撫でて欲しけりゃ自分で来い。……それとも、やっぱり他に……」

「いないよ。」


 あ~何言ってんだろ俺……すっごい気持ち悪い……と思いつつも今村はしばらく面倒なミニアンのご機嫌取りをさせられる羽目になった。




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全盛期、相川だった頃を書く作品です
例外者の難行
例外者シリーズです
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