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例外者の異常な日常  作者: 枯木人
第二十七章~帰郷~
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20.宿敵と怨敵

「長かった……ようやく、貴様を殺せるのだな……」

「あ~……もう少ししたら勝手に戦いに行く予定なんで、今は止めてくれませんかねぇ……立て込んでるんで。」

「ふん……貴様はそうやって卑劣な手を使うのだろう?俺のように正々堂々と戦うこともせずに……」


 話ながらも一切の隙を見せない原神、【勇敢なる者】ユーシアに今村は苦笑して頷く。


「そりゃねぇ。だって、馬鹿じゃないんだし……」

「俺を愚弄するか……まぁいい。その減らず口も二度と叩けないのだからな!滅びるがいい悪しき者よ!」


 初撃。様子見は不要。一撃必殺とばかりに繰り出されたユーシアの世界を崩壊させる威力を秘めた振り降ろしの斬撃を今村は避けてカウンターの裏拳を叩きこんだ。


「そう来なくてはな!」


 だが、それは寸でのところで止められる。それは想定内だ。今村はそこから無言で「呪刀」を出してその手首だけ返して小規模の、しかし強烈な「呪死裂断」を繰り出す。


「フン……少しは、やるようになったらしいな……」


 正面から「呪死裂断」を受けたのにもかかわらず余裕の表情のユーシアを見て今村は軽く舌打ちをしたくなる。


 だが、そんな暇はない。


(ちっ……速いし強烈だし……10ミスで死だなこりゃ……結構強くなったが、まだまだ力量の差が大きい。まぁ前より大分埋まって来たけど。)


 猛攻の間を縫ってちまちま仕返しをしながら今村はそう考える。煽ると更に単調になってくれるのだが、今回は後手に回ってしまったため、そのような暇がなく、喋ることすらできない。


「どうした!今回は策がないのか手品師!」

「【無撃総乱舞】!」


 叫んだところに隙が出来たと見えた今村はノーモーションで最強の一撃を放った。これには危機感を覚えたらしいユーシアは大きく距離を取る。


「ふぅっ……一息つけた。」

「貴様……今の技は……」


 今村は答えない。その代わりに現在、どこまで封印されているのかを探りながら森羅万象破壊丸などの武器を探す。


(……不味いな……遠い。ここに呼ぶのに1秒は掛かる……)


 今村がそう判断する間にもユーシアは既に目の前に迫っている。正直、技名を聞く暇もなくただ、術式の初期構成から瞬間的に判断して処理していくだけだ。


 防戦一方。今村は色々と考えた結果、採りたくはないが採らざるを得ない策を思い付く。


「いい加減に……?何だこれは……本?」

「屑がぁあぁぁあぁぁっ!」


 突如怒声を上げた今村にユーシアは殴り飛ばされる。ダメージはほぼ見当たらないがユーシアは少し困惑したような表情を浮かべた。


「……貴様が投げたのだろう?」

「こうなるって……こうなると、分かっていたが……畜生……俺の体より大事な本だったが……だが、今回は……已むを得ないんだ……許してくれ……」


 暗黒の氣を纏いながら今村は無惨に引き裂かれた本の残骸に謝罪する。そんな今村を見てユーシアは本の残りを無言で燃やした。


「……ふむ。貴様の大事な物だと聞いて尚のことこの世から痕跡を残しては置けぬと思ってな……中々、いい気分だぞ?」

「外道め……!『陰王発剄乱昼白閃皇龍顎剣隕流死伯昇怨留激発』……この恨みは……絶対に晴らさせてもらうぞ……」


 暗黒の氣がユーシアの神々しく光る蒼白のオーラと鬩ぎ合いを始める。しかしそれでも尚、押し負けているのが現状だ。


「にしても……今まで人質もものともしなかった貴様がこれほどまでに激昂するとはなぁ……世界中で焚書を行うか……所詮、低俗な娯楽本。問題はないだろう。クックック……」

「……是が非でも、例え俺が死のうとも……やっぱりテメェだけは殺さねぇとダメだわ。『王獄の  』『死犠利鬼刀しぎりきがたな』『独裁領域ディクタチュール』『テンションモード』『殺神皇帝』『呪帝モード』そして『死いづる所より我が眼に宿れ『死出眼しいでめ・睨み壊し』」


 今村の視界に入っていた物が唯一つを除いて全て潰される。そんな中でただ一つの存在、ユーシアだけが余裕の笑みを浮かべながらその重圧を片手を上げることだけで制した。


「『正義の聖域(サンクチュアリ)』……どうしたゴミ屑……?それで、その程度で終わりか?」

「『死呪過多の獣』『侵略の誉れクラッカーズエンブレム』『破戒刀獄』『グラックル』『呪氣円刃』」


 今村はそこで一度切って強烈な掌底を放った。


「『ランガッカ』ぁっ!」

「……甘いなぁ……?」


 しかし、ユーシアには殆ど通じていなかった。今村の耳に嘲るような声が聞こえたと同時に今村の体に無数の剣戟が突き刺さる。


 そんな中で、今村は笑っていた。その表情を見た瞬間、ユーシアが警戒するが時すでに遅い。


「『反天滅絶』___」

「ぐぉっ……き、貴様ぁ……貴様ぁああぁぁぁああぁぁあっ!」


 遍く物を呑み込まんとする闇より深い暗黒。そして全てを浄化し、塗り潰そうとする純白。それらが勾玉状になり融合する中でユーシアは今回初めての手痛いダメージを負う。


「……ぐっ……あ……ちっ……短時間じゃ治せねぇなこれ……」


 剣戟を抜いて猛毒の血を吹き出しながら今村は邪悪に嗤う。一応、その傷は猛毒でありつつも薬物でもある自らの血液によって凝固し、出血は収まった。


(いってぇなコレ……しかも、これでもまだ戦えるなあいつは……こっちはかなり切札切ったってのに……)


 目の前で正の神、それも原神とは思えないほどの憎悪の念をこちらにふりまいて来るユーシアを見て今村は苦笑しながら攻撃を受ける。


「!チッ……」


 致命傷を躱すだけで反撃や防御をしなかった今村にユーシアは罠を警戒して飛び下がるが、今村はそのことにも気を取られずに最近完成させたばかりの術式を起動させた。


「チッ……これ滅茶苦茶面倒だな……『アルクグ・ギリシオヴァ・グラギリチェンダロク・ソワリキリア・サランダル』ここに我が名を以て終わりへと導く魔術を開放する!【魔導術・終焉神楽】ぁっ!」

「!魔導術か!ぬ、グォオオッ!」


 空気中に漂っている魔素、そしてその場その場によって二度と同じではない環境の変化などもすべて織り込んで編み出した魔導術。今村は血の滴る腕を上げてしっかりとユーシアを指し、それを動かす。


「チッ……」


 だが、それでもユーシアを仕留めるには届かなかった。術の効果が後半に差し掛かった時点でそれを判断した今村は自然崩壊する前に最低限の動きは出来るようにコンマ1秒にも満たない時間で薬品を大量に呷る。


「クッハ……おぇ……マズ……」

「焦らせおって……セイラン程ではなかったな……当然と言えば当然か……」


 そう言うと、ユーシアは今村の状態を見て僅かに嘲笑の笑みを浮かべながら尋ねた。


「そろそろ限界のようだな。……おっと、逃げられんぞ?そして、何の魔法かは知らんが……俺の目を欺けると思うな。」

「何かしないと殺すだろうが……」


 今村の反論にもユーシアは忍び笑いを漏らす。


「何をしようとも殺すがなぁ……さて、最期に尋ねるぞ。これに答えれば楽に殺してやる……ミニアンは、どこだ?」

「……はぁ……」


 ユーシアの言葉を聞いて今村は溜息をつく。


「……そういうことを聞くとさぁ、つくづく俺は他人の恋路を盛り上げる材料としてこんな酷い目に遭ってるって気付かされるんだよなぁ……マジ理不尽。」

「御託は良い。結論だけ言え。」

「あーもう、この状態で使ったら死ぬかなぁ……いや、死ぬな。折角上手い使い方を見つけられたと思ったのに……」


 答える気がないと見做したユーシアは今村に対して破滅的なエネルギーを秘めた術式を行使する。


 それを見て今村はどちらにせよ、死ぬだろうと判断し___


 覚悟を決めた。




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全盛期、相川だった頃を書く作品です
例外者の難行
例外者シリーズです
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