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例外者の異常な日常  作者: 枯木人
第二十七章~帰郷~
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15.様々な思惑

(…………ん……んん?)


 今村は意識を取り戻し、起きる前に一先ず目を開けずに状態を確認する。


(……状態は悪いが……死にはしないな。ふむ。さて、この近くにいる巨大な氣は瑠璃だな……どうするかね。)


 今、自分はベッドに横になっているらしい。そして瑠璃は椅子に腰かけてずっとこちらを見ている。


(困ったな……多分看病してたんだろうけど……起きたら五月蠅そうだ……黙って出て行きたいんだが……)


 まだいきなり気が付いて起きて痛っ……とでも言うパターンであれば無理はさせられないということを遠回しに察して大人しくしてくれるのだろうが、今村は完全に状況を把握してしまっている。ここから小芝居を打つ気にはなれない。


(……沈黙がなぁ……体内時計的に32時間程度の経過が見られるな……白魔法は48時間以内だと楽にできるからこの間に起きたいところだが……)


 気配を察するに瑠璃はこちらに意識を傾注させたまま瞬きもしていないようで食事や睡眠を取った様子もない。そして時々感情が乱れて泣きそうになっているのが窺える。


(……流石に、世話になったみたいだし起き抜けに昏倒させて立ち去るのは結構アレだし……穏便に事を済ませて全て元通りにした後に礼としてまぁ、ラピスラズリの特位ものの指輪でも置いて帰りたいな……)


 別に治療がなくても放っておけば36時間で起きていただろうし、悪意に対してであれば勝手に起きるという特性はあったが、恩は恩として受け取っておくとして、今村は機を窺う。


 窺う。


 ___窺う。





 2時間が経過した。


(長い!ずっと集中したままかこいつ!)


「ぅえ……起きないよぉ……この世界、周囲とズレが酷い……早くお医者さん来てくれないと、仁がぁ……」


(泣いていても集中してやがるなこいつ……あ~まぁ、仕方ない……)


 めそめそ泣きながらこちらを見ている瑠璃には分からないように今村は念話を用いてゲネシス・ムンドゥスと連絡を取った。


『うぇ……いみゃみゅらしぁぁ……みゃぁだ、帰ってこにゃいにゃ……?』


 こっちも泣いていた。今村は一先ずこちらには応対する。


(……まぁ諸事情があってな。迎えに来て。)

『すぐ行くにゃ!どこに行けばいいのにゃ!?』


 今村はこの世界のコードを電話の相手、マイアに教える。そしてそれに付け加えた。


(今村仁を殺しに来たぞ!って叫びながら来て。んで、多分この世の物とは思えない美少女がお前を殺しに来るから顔を見ないように逃げ惑え。)

『よくわかんにゃいけど、わかったにゃ!って、え?みゃーにゃんで殺されかかるのにゃ?』

(まぁ色々あるんだよ。全力で逃げろ。3分逃げたらミッションコンプリートだ。俺もゲネシス・ムンドゥスに帰る。いいか?顔を見たら固まるぞ。顔は見ないようにしろ。)

『……みゃーは今村さん殺さにゃいにゃ……冗談でも言いたくにゃい……』


 少し遅れたマイアの言葉に今村は沈黙を以て返す。しばしの間の後に仕方なくマイアが折れた。


『……わかったにゃ。……着いたにゃ。』

(早っ!……え、お前マジかよ……うわー……マジだよ……)

「みゃーは今村さん殺すにゃー!」


 魔力の波動に乗った音声が届き、瑠璃が立ち上がっておろおろしながら今村を見る。今村は寝たままマイアの能力が異常に上がっているのを感じて軽く落ち込んだ。


 マイアの能力の上昇は自らの力が上がったことによる加護能力の上昇ということだが、今村は全く自覚していないままズルいなぁ……と思いながら瑠璃の動向を窺う。


「……何か変なのが……これ多分、敵だよね……?うぅ……看病しないと……でも、敵が来たら困るし……でもその間に仁いなくなる気がするし……」


(当たり。)


 勿論無言で寝たままだ。瑠璃はすぐさま何か書き始めた。


「絶対、動かないでね……っと……これだけだと何か弱いなぁ……そもそも読んでくれるかな……ある程度近付いたところで距離を最短にしないと……でもあんまり時間ないしなぁ……」


 そこで瑠璃は相手が遠距離での攻撃手段を持っていることに気付いて軽く眉を顰める。


「魔法……いや、外法まで使うの……あぁもう!すぐ帰って来るから!」


 瑠璃は今村にキスをして飛んで行った。しばらくして、今村は目を開けて起き上がる。


「……『プリンスキス』忘れてた……まぁ、マイアには頑張って貰おう。最悪死んでも生き返らせればいいし……」


 それはそれとして今村はその場から神速で移動しながら白魔法と呪法に法術、仙法、そして神技を混合して一瞬で組み上げる。


「気付いたな。急ぐぞ……」


 壊してしまった建物、乱してしまった世界の法則や死人など全てを元通りにしつつ、その際に死人たちが記憶していた自らの痕跡を完全に消し去る。


「うむ。大体オッケー。これで俺に故郷と呼べるものもなくなった。……でも瑠璃はさておき、微妙にアヤメから消せてないなぁ……これ放っておくと愛氣になりかねないからもっと念入りに消したいところなんだが……雑にやるとあいつの人生が壊れるし……時間ないから仕方ない。諦めよう。」


 瑠璃がマイアを無視して凄まじい速さでこちらに向かっているのを感知して今村はこれ以上の介入を諦めた。


「速い速い……これ『プリンスキス』とかいうゴミ魔術は消した方がいいよ。バランスおかしいって。代償ないのに……あー……そういや……いやでもこれだけ強くなられたら真面目に頑張ってる奴らが損する。」


 プリンスキスの効果は相手に対する愛情に比例するものであることを思い出して今村は微妙な顔をした。存在が疑われている様なものを平気で溢れさせている様な変態だから出来たことなのだ。おかしいのは術ではなく彼女たちだ。


「……まぁいいけど。ちゃんと消すし……」


 マイアが何か少ないボキャブラリーで頑張って瑠璃を挑発しているのを術で把握したところで今村は彼女と森羅万象破壊丸を術式で瞬時に掴んで一緒にゲネシス・ムンドゥスへと帰還した。
















 【運命神の館】。世界の運命、そして通る道を定める場所。


 そこに原神が2柱【可憐なる美】【無垢なる美】はいた。彼女たちは屋敷のテラスでその館の主と茶会を催している。


 少しの待機時間の後、2柱の前に【運命神】が訪れる。


「……そろそろ来る頃だと。」

「ねぇ、君さ……ボクに言ってないことない?」


 開口一番。【可憐なる者】……ミニアンは席にすら着いていない【運命神】にそう告げた。彼女はまずはその豪奢な席に着いて、涼やかな美貌を湛えたこれ以上ない程の美しさで微笑む。


「えぇ。」

「お兄様のことで、ですよ?」

「分かっていますよ?」


 【無垢なる美】、セイランの追及にも艶やかに笑って魅せる【運命神】はズレてもいない眼鏡を掛け直すと瑞々しい花唇を開く。


「……隠しても無駄だから言うけど。お察しの通り、私はあなた方の想い人に思慕させてもらってるわ。」

「……だったら何故言わないんだい?別に、ボクらは独占するわけじゃ……」


 ミニアンの言葉に【運命神】は朗らかに笑う。そこに悪意などは見当たらない純粋な笑顔だ。


「私は、独占したいですもの。あの方を伴侶に、ずっと二人きりでこの世界にいるんです。……勿論、私は秩序の長として処女神であることは辞められませんからプラトニックな関係になりますが……」

「……独占?させるわけないだろう?」

「えぇ。でしょうね。」


 ミニアンの鋭くなった目に対してお茶会の意味を成していない存在だった紅茶を飲んで一息入れてから【運命神】は続ける。


「でも、彼がそれを望めば?」

「……それは、その……」

「つまり、そういうことです。」


 ミニアンが口籠るのを微笑ましい物を見る目で見て【運命神】は優しい声音で告げた。


「友神でも、これは譲れません。」

「……あなたはお兄様を甘く見ています。その『確率視』では測れませんよ。特にこれからは……」


 断言した【運命神】にミニアンに代わってこれまた断言するセイラン。それに【運命神】はその美しい頬に手を当てて困ったような顔をして同意する。


「まぁ、そうね……少なくともあの裏切り者との邂逅の際に【勇敢なる者】様に消されかかったのは危なかったわ……あの子たちがいなければ私の介入は全世界にバレてしまっていただろうし……」

「……君の創った運命のお蔭でここまで来れたのは分かる。【雷竜時空神】様が唯一の道って言うくらい細い道だからね……」


 ミニアンはそこで切って一度溜め、続けた。


「だからって、ボクらのご褒美カードの運命を捻じ曲げ「それはやってないわ。彼の運よ。」……」


 微妙な沈黙が流れた後にミニアンは少し機嫌を悪くした。


「……君が邪魔をするのを止めたらボク、仁の子を抱けると思ったのに……」

「邪魔してないわよ……少なくとも、そのカードには……」

「やっぱりその他にしてるんじゃないか!」


 目を逸らした【運命神】にミニアンとセイランは周囲に存在が知られるまでの限られた滞在時間の中で全力で説得を続けた。




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全盛期、相川だった頃を書く作品です
例外者の難行
例外者シリーズです
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