表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
例外者の異常な日常  作者: 枯木人
第二十七章~帰郷~
541/644

12.武術大世 戦闘開始

「……何やってんだろ俺……まぁいっか。」


 酔いが醒めた今村は天空に現れた軍艦、森羅万象破壊丸の上で溜息をついていた。


 因みに同行して来ている遊馬少年は五月蠅いので昏睡させた。


 しかし、ずっと頑張って鍛えていた分が寝たきりになって衰えると可哀想なので術を掛けて無意識状態で鍛え続けている。


 そして瑠璃は酔った勢いでディープキスを本気でやってしまい、無言で顔を合わせると真っ赤になって逃げ出すようになったので現在はあまり話していない。


「……まぁキマイラが完成するんだよなぁ……それまでに来て欲しいかな……」


 そんなことを呟きながら今村は読書を開始する。今読んでいる本は『恋は人を盲目に、そして結婚は人の視力を戻す。』という見出しのついた本だ。表紙には¥と夫が同じ大きさで上下左右に線対称で書いてある。


「金か……やっぱ金だな。置いて行けば大体解決する……」

「うぅ……違うからね……?」


 しばらく読んで笑っていると瑠璃が戻って来て今村の隣に座って顔を少し俯けながらそう言ってきた。


「お、落ち着いたか?」

「……うん。色々考えることはあったけど……キスって凄いね……」


 今村の言葉に応じた後、瑠璃は顔を真っ赤にして手で覆った。


「……色々考えることねぇ……」


 今村は最後の言葉には応じないことにしてそう呟いて本を閉じる。その呟きに瑠璃は顔を覆ったまま少し悲しげな声音で言う。


「……どれだけ、ボクの知らないところで女の人達とキスしたらこんなに上手になるんだろう、って……」

「数えてない。……あっ!ススキノシワラで散々なことして身に着けた。」

「……あの全世界の遊郭で……本当?」


 瑠璃は疑念の声を上げる。今村は職業に貴賤はないと思ってはいるが、瑠璃の個人感として商売女、娼婦は到底受け入れられる物ではなく、愛想を尽かすだろうと笑いながらそう告げた。


「……はぁ……本当なんだね……言ってくれたらボクが何でもシテあげるのに……今度からは言ってね。」

「……そう来たか。」

「まぁ知ってたし……【可憐なる美】様から聞いてたから。本当に仁の口から言われるとまた何か……こう、あるけど……うん。まぁ仕方ないよ。」


 瑠璃は何かを納得させるかのように頷いて今村を見た。


「何かあったらボクに言ってね?ボクに出来ることなら変なことじゃなければ大体するから。」

「……ん~……あー……何か微妙に哀しい?」

「悲しい?」


 今村の言葉に瑠璃は首を傾げる。だが、今村はそれに曖昧に笑うだけだ。


「まぁ気にするな。気のせいだから。……俺の大概の感情は能力の為に食い潰されてるはずだし……」


(だから、この気分も、存在しないはず……相手に応えることが出来そうもないから可哀想なんて、殆どの感情を能力の餌として使っている俺にはあり得ないことだ。ちょっとそういう本を読み過ぎたな……)


 そんなことを今村が考えて苦笑していると隣にいた瑠璃が震える声でやっとの思いで口を開いた。


「何、それ…………ボク……聞いてないよ……?」

「……?あぁ、感情がどうのこうのってやつか……まぁ、誰にも言ってないし、ごく最近始まったことだしなぁ……」


 瑠璃はその言葉に猛反発して来た。


「ダメだよ!感情がなくなったら生きる力が弱まっちゃう!」

「……元からそんなに強くないしなぁ……」

「だからだよ!そんなに強くならなくても、ボクとか……皆で一緒に居れば原神たちだって……」


 瑠璃はそこで口を閉ざした。今村の目から光が失せていたからだ。


「……俺の人生の、邪魔をする気なのか?」

「違う!あぁ、もう……どうして……っ!」


 こんなに近くにいるのに精神がとてつもなく遠い。死生観も人生観も価値観も遠過ぎる。


「ボクはただ……仁と一緒に居て、一緒に笑えたら……」

「おっと、その話はそこまでな。そんなことよりもっともぉっと面白いことが始まるわ……クックック……俺を殺すためだけによぉもまぁ面白いことやってくれとんなぁ……あ、ほら、感情はあるよ。こんな感じで。しかも笑ってる。」


 非常に邪悪な笑みを浮かべてモニター越しに地上を見下ろしている今村に瑠璃は悲しげに首を振った。

 分かってしまうのだ。今村の感情は、もう喜怒哀楽が揃っていないこと。そして笑みも正常な物ではないことが。


「いやぁ~……何気に快挙じゃね?億じゃ利かない歳月の間対立し続けていた殺神拳と活神拳が共闘してるぜ。俺を、この世界の敵を殺すために……いや、抹消するためにか。面白すぎるなぁ……一大イベントだ。クックック……」

「……仁が世界の敵でもボクは、ボクだけは絶対に味方だから。それだけは忘れないで……ボクも、出るよ。」


 瑠璃は今村の目を見てそう断言した。それに対する今村の答えは拳だ。


「かはっ……!」

「寝てろ。流石にこれを相手にしたらお前でも死ぬ。」


 返答は、ない。一撃で完全に決めたからだ。昏倒した瑠璃をベッドの一つに横たえた後に今村は殊更酷薄な笑みを浮かべて呟く。


「さぁ、この程度で死ぬならそれまでだ……原神どもをぶっ殺すにはこれくらいしないとなぁ……頑張ろうか俺……荒療治だが……蠱毒の術を用いて『白礼刀法』の解除を、極めてやろうじゃないか……コツは少しつかめて来てるんだよなぁ……今なら奥義使っても死なないだろうし……ま、頑張ろう。」


 その為に今村はまず銃火器、そして呪具の類や実験道具、その他全ての物を艦内に降ろして森羅万象破壊丸の乗組員に預け……ようとして止めた。


「……流石にこれは危険すぎるか……あいつらに持たせるにはヤバい。これの危険性を分かって簡単に呼べるのはるぅねくらいしかいないが……でもあいつはアホだしなぁ……」


 今村は困った。これらの物を持ち歩くのは別に苦ではないが、全力で戦うにあたっては邪魔になる。そして仮に負けた時には全て人目に付かないように消し飛ばさなければならない。


「仕方ない……非常事態だし、【言霊の姫】の眠ってる地に飛ばすか……あそこなら誰もアクセスできんだろ……」


 軽く階層世界一つ分程度を破壊し尽くす呪具類を誰も手の出せない場所へと転送すると今村は笑って眠っている瑠璃を見る。


「世の中に、絶対はないから。まぁ俺が消えた時にはちょっとした術が発動するから安心して寝てな。じゃあ往って来る。」


 そう言い残して今村は森羅万象破壊丸の外に出て殺神拳が用意した飛行物体に乗って艦に乗り込んで来た面々を見渡す。


「ようこそ、この世界最強の方々よ。私が、世界秩序の敵だ。あなた方は安心してこの戦闘に参加してもらって構わない。全員が俺に負けた時には綺麗に記憶を盗らせてもらった後、全て復元して差し上げよう。」


 今村はこの場にやって来た面々を見て歪んだ笑みを浮かべながらそう言った。その様子を見て活神拳の元同門生が口を開く。


「相川ぁ……いや、今は今村だとか言ってたな。降伏しろ。そしたら命までは取らねぇ。原神様たちにも掛け合って、何とかしてもらう。嫌だとか「嫌。」……そうかい!じゃあ、もう……拳で語るしかねぇな!」

「フフフフフフ……あんたたちが何を言っていても、元より私たち殺神拳は殺す気だったけどね……巻き込まれないように気を付けな!」


 活、殺、両方が突撃して来た中で今村は笑いながら手を開いた。


「さぁ、始めようか!」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
全盛期、相川だった頃を書く作品です
例外者の難行
例外者シリーズです
よろしければお願いします
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ