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例外者の異常な日常  作者: 枯木人
第二十七章~帰郷~
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10.そうじゃない……

「……そう言えば。」


 瑠璃が一晩中何かしているせいでベッドの寝具が足りない今村は床に就いてふと思うことがあった。


(瑠璃って自分の料理ですら何ともなかったのにあの媚薬であそこまで効果があるって凄まじいよな……ちょっとあの精力剤視てみるか……でも眠いし、明日にするかね……)


 そう思ったが止めた。


 今村は起き上がると瑠璃が置いて行ったコップを視てその薬を検知し、何とも言えない笑みを浮かべておどろおどろしく呟く。


「るぅねぇ……あいつ、薬を流してるな……いや、創った後に忘れてる可能性の方が高いか……」


 栽培方法が今村しか確立していない薬草がふんだんに使われていた。その薬草は第2世界の死んだ神すら75%の確率で蘇らせることができる非常に希少な霊草のため、普通に流通している中でこんなくだらないことに使いはしない。


「……いや、考えられるのは幾つもルートがあるな……可哀想な人がいるとか言われたらあの可哀想な頭をした馬鹿はコロッと騙されて自分の小遣いの範囲でこの程度の薬湯なら作るし……」


 取り敢えず本人に訊いてみることにして今村はワープホールを形成して自世界へと飛んだ。













「あ~る~じ~さふぎゃん!」

「……何で俺が来たと同時に飛び付けるんですかねぇ……基本的に同じ場所に飛びはするが、お前ら仕事は?」


 自世界に飛んで着陸した瞬間隣から走って来たるぅねが飛び込んで来たので今村は彼女の愛らしい顔を蹴り下ろし、そのまま頭を踏みながら質問する。


「終わってるよ!」

「そうか。……後、何度も言うがお前さっきの勢いで飛びついたら俺が怪我するかもしれないことぐらいわからないか?」

「…………………………はっ!ごめんなさい……」

「そんなに考える必要あったか?……まぁ別にお前には最初から期待してないからいいんだが……」


 何でこんなにアホなんだろうと思いながら今村はるぅねから足を退ける。すると遅れてシュティがやって来た。


「……あに様…………久し、振り……」

「……はぁ。別にいいけど……よぉ。元気?」


 今村は地も繋がっていないアヤメにもにぃになどと呼ばれたが、自分より年上の【有神】にまで兄呼ばわりされるのか……と思うも気にしないことにして声を掛けた。すると、彼女は無表情ながら雰囲気だけ嬉しそうにする。


「う、ん……」

「そりゃよかった。」


 それだけ言って今村は泥を払い落したるぅねの方を見て尋ねる。


「お前、薬をどっかにばら撒いてないか?」

「うん!ちゃんと畑に撒いてるよ!褒めて!」


 今村は溜息をついた。素で言っており、悪気はなく本気で褒めてほしそうに擦り寄って来るのだ。なので言い方を変える。


「……あー誰かに売ったりしてないか?」

「うん!ちゃんとあるじ様に言われた通りに売ってるよ!褒めて!」

「……知らない奴に、売ってないかって訊いているんだが。」

「るぅねあるじ様とシュティちゃん以外の人のことあんまり覚えてない……」


 訊いても無駄だった。面倒なので今村は術式を使って彼女の記憶を読み解くことにする。


「……うわぁ……すっくな……しかも俺しかないし……あ、シュティが階段の前でこけてパンツ丸出しになったところとかどうでもいいところはある……いや、というよりシュティって結構間抜けなのか……?」

「え……何で、私……?」


 るぅねの記憶は今村と行動したこと、それか最近のシュティが何か面白い失敗をした時だけ残っていた。


「あ、それるぅねも覚えてる!グレーのパンツだったよ!あ、シュティちゃん何で怒ってるの?……わかった!あるじ様!るぅね言い直すね!『あぽーつ』!この地味なパンテ」


 シュティが無言で視えない何かを用いてシュティの下着を手に持って広げて今村に見せたるぅねを叩き潰した。


「…………うぅ……ばかぁ……っ……」

「いや、結構洒落になってないんだが……」


 軽く目を潤ませているシュティだが、るぅねは結構な被害を被っていた。今村は小さなクレーターの中で壊れたるぅねをその淵から眺める。しかし、仮にも彼女は今村の傑作であり、すぐに修復して立ち上がった。


「……ちょっと痛かった。」


 怪我は治っているようだが涙目だった。そんなるぅねにシュティはジト目で告げる。


「るぅねちゃんが悪い……」

「いや、お前やり過ぎだろ……」


 こんなやり取りをしているのか……と軽く呆れた今村はこんなことがあっても既にもう忘れ始めているるぅねのことを逆に凄いと思い始めた。


「……結局分からなかったが……シュティ強いなお前……後で殺し合いしようぜ。何、本当に殺したりはしないが……」

「え……私…………兄様……攻撃……したくない……後、疲れる……」


 そんなことを言って来るシュティに今村は目を使って状態を見るが確かに彼女の状態はまだ全快値の3分の2と言ったところだった。


「ほぉ……凄いなぁ……後が楽しみだ……」

「……兄様……私、兄様を攻撃したくないよ……?戦わないって……殺すなら殺してもいいけど……」

「……ちっ。なら仕方ない……」


 敵でもない無抵抗の相手を一方的に嬲るのは好きではない今村は舌打ちして戦うことを諦める……前に、ちょっと言ってみた。


「……でも、お前……俺を殺せばいい地位と色んな保証が原神から貰えるぞ?あの滅世の美男子から愛される存在になれるし、欲しい物は何でも手に入る。」


 今村の言葉を受けてシュティは無表情から悲しげな顔になった。


「…………そこに……そんな世界に……私の欲しい物なんて、何にもないよ……兄様の、ばかぁ……」

「……まぁそうだよなぁ……【有神】だし、欲しければ原神に言うまでもなく勝手に創るよなぁ……でも俺を殺せ「兄様のばかぁっ!」」


 今村はシュティが叫んだことに面食らう。そして少し下がったところで今村とシュティの間にるぅねが割って入った。


「ん?ん?何か、よくわかんないけど……シュティちゃんがあるじ様を殺そうとしてるの?」

「違う……!バカ……ばかぁ……」

「……何で泣いてんのこいつ?更年期?」

「目にゴミが入ったんじゃないの?でもシュティちゃんって超回復術がずっと掛かってるからなぁ……それでも痛いなら猛毒……あ、そういえばるぅねのお家にある『サルファーZ毒惰眠』開けっ放しだ。それが目に入ったとかじゃない?」

「……いや、蓋閉じろよ危ねぇ……」


 るぅねの仮説が事実であれば泣いているどころの騒ぎではない。しかし、シュティは首を横に振った。


「違う……………私の血は……あらゆる状態を……最適化するから……効かない……」

「あ、ホント?よかったぁ……」

「いや、そういう問題じゃねぇ……開いてるなら閉めろよるぅね……」

「はーい!」


 るぅねは土煙を上げて走って行った。


「……さて、まぁいっか。何か辛い事でもあったなら頑張りすぎんなよ?ここで適当に養生して行きな。」

「……………………う、ん……」


 シュティは涙を拭って頭の中でグチャグチャになっている言いたいことを言おうと口を開く。しかし、その時既に今村はいなくなっていた。




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全盛期、相川だった頃を書く作品です
例外者の難行
例外者シリーズです
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