9.秘密基地にて
「『散弾拳』!」
「おっ。よっはっと……ぉ?……お~……瑠璃、お前凄いな……全部急所から逸れた軌道だったのに掠った。」
「やった!じゃあ、ちゅうだよ!」
地下研究所に潜った今村と瑠璃は基本的に組手や合成体の研究などを行いながら日々を過ごしていた。
今日は、今村の回避訓練で瑠璃の攻撃を全て避けると言うものだった。その際に真似事でも怪我をさせるのは嫌だと言う瑠璃に掠ったらキスをするという約束で寸止めなしの組手をしていたのだ。
「じゃ、じゃあいくね……」
「はい終わり。」
今村から動いて瑠璃に軽く口付けを済ませると今村は戦闘部屋から研究部屋の培養液の方へと移動した。
「……んー……短いけど……仁からしてもらったから嬉しい……けど……フレンチキスしたかったなぁ……」
「猛毒だからな。アホはそれでも気にしないが……」
「うん。気にしない。」
徐々に人型を取り始めている培養液の中にある組織体を前に今村は頷き、瑠璃はそんなことを全く気にせずにソファに腰かける。
「あっ。ねー仁ぃ……ボクずっと仁の事見てたからお茶の淹れ方わかったよ。台所入っていい?」
「……台所……んーまぁいいけど……ちょっと待ってろ。壊れたら困るやつは回収するから……あ、でもあんまり物を壊すなよ?」
「そんなに壊さないよぉ……」
多少壊すことは壊すのか……と思いつつ今村は培養液の中の存在を見て邪悪に嗤う。
(白狼族のユース、それに【無尽】にそいつが何故か持ってた【移ろう者】の組織と【全】の組織にゾフィールとか言う奴の腐敗能力と【代理者】とか言う馬鹿だが普通に強い屑、そして最後にドイスの変異細胞、後はそれらの細胞が死なないように適当に裏切り弟子どもの組織をまぶして出来上がり……)
今村は忍び笑いをして空気に毒素が混じり始めていることに気が付いた。
「瑠璃!お前何してんの!?」
「あっ……えへへ。」
「……何隠した?」
瑠璃の方を見ると真剣に何かの説明書らしきものを読んでいたので近付いてそれを取り上げようとする。だが、避けられた。
「瑠璃?……ふむ。まぁいいけど……その程度の毒じゃ俺は死なんぞ?」
「毒じゃないよ!ちょ、ちょっと……えへ、怒らないでね?」
変に疑われることをすぐに察した瑠璃は今村に紙切れを見せた。今村はそれを読んで笑顔で引き裂いた。
「誰が機能不全だ?あ゛ぁ?」
超強力な精力剤の説明書だった。瑠璃はもじもじしながら答える。
「だ、だって……ずっと一緒に居るけど、朝もおっきくなってないし……ほら、流石に神化してても、ボクと一緒でもさ……おっきくならないのはおかしいし、原神様たちに聞いたらあの方たちとのお風呂でも……あっ、でも、【無垢なる美】様「全身全身統制が常にかかってんだよ!どっかの誰かが集団で一切価値のない俺の貞操狙って来るからな!」……価値無いなら頂戴よ……」
早めに釈明する今村だが、瑠璃の疑いの目は晴れない。
「……【可憐なる美】様が言ってたけど、仁って本当はロリコンじゃないかって、ボク、年増……?」
「…………あれは、違うだろ。ロリコンとかそういう問題じゃない。違っても惹き摺り込むから……」
「ボク、今17歳の体なんだけど……年増なのかなぁ……ねぇ、仁って12歳までがストライク?」
「ぶちのめすぞテメェ……あ~言いたくないが、19が基本的に……言ってて気持ち悪くなった。」
何故この場で自分の性癖を暴露しなければならないのかよく分からなかった今村は発言したその数瞬後に後悔する。対する瑠璃は体を光らせて成長した。
「19歳の体だよ!……あんまり変わってないかな……多分、おっぱいがちょっと大きくなった?」
「……瑠璃、今のは本当に黙ってろよ?前に俺がストレートロングが好きって言ったらある学園からそれ以外の髪型が消えた時期があったくらい本当に変な影響が出る……」
瑠璃は頷くが、黙っていても自分の体が成長したということは今村の好みがこの辺だと判明したと判断する人が大勢いることは伝えなかった。
「で、問題だけど……おっきくなってる?」
「……しっつこいなぁ……」
「だって、気になる……」
瑠璃も頬を染めて恥ずかしがっているが、内容は全く以て彼女が保有しているイメージである清純な乙女には似つかわしくないことだ。
そして今村も面倒になったので溜息をつく。
「もう面倒だし……あんまりまじまじ見んなよ?全身統制解除。」
「!写真撮っていい!?」
「死ね。」
ローブの上から分かる程度には盛り上がった局所を見てテンションを上げる瑠璃に今村は真顔でそう告げた。
「うわ~……これ、ちゃんと入るのかなぁ……?おっきくない?」
「……一応、普通より若干大きめに設定はされてるが……使う予定はない。」
尊厳の問題だったのでそこはちょっとランダムではなく前世の状態を保持させてもらっている今村は全身統制を戻した。
「ドキドキした……あ、ボクの見る?今ちょっと大変なことになってるよ?」
「……お前そんなんじゃなかったのに……つーか無理し過ぎじゃね?顔が本気で真っ赤になってきてるが……」
その一言で瑠璃の挙動が止まった。そして項垂れる。
「やっぱり、バレる……?」
「そりゃあなぁ……最初の方はまぁそんなこともあるかもしれないで済まされるけど……ここまで変態みたいなことを言われると……」
今村にそう言われて瑠璃は頷く。
「恥ずかしいよね……原神様とかこみゅ……何でもない。相談した人たちにはこれ位じゃ足りないって言われたけど……ボクには……」
今村は「こみゅ」の部分が非常に気になったが一先ず原神に合わせようとしている瑠璃を諭すように口を開いた。
「……いや、アレに合わせたら駄目になるぞ……つーかあんなのが増えたら精神が病むのでマジで勘弁してください。」
「……うん。もう無理はしないけど……ぅうぅうああぁぁっ!思い出したら恥ずかしくなって来たよぉ!どうしよ!」
落ち着くために瑠璃は目の前にあったお茶を飲む。今村が止める間もない早業だった。
「おま、馬鹿……それお前が、さっき精力剤入れた……」
「うにゃぁあぁぁっ!だ、だめぇ……見ないで!と、隣の部屋に行ってくるから!あ、これ、ホント、さっき見たから……あたみゃのなかがぁっ!仁、絶対に扉を開けたら駄目だよ!?確実に本気で絶対に襲うから!後、寝具借りるね!ごめんね!多分今日はこれ……ぁふ……ご、ごめんねぇー!」
瑠璃はそう言い残して涙目でベッドの毛布と枕を持って戦闘部屋に消えて行った。
「……あ~……よし。何も起きてなかったことにしよう。」
今村は頭を掻きながら今までのやり取りをなかったことにして培養液の方に向かって完成体に近付けることと同時に失敗した時の為に組織の別培養を進めた。




