6.道場に戻る
「……ふぅ。出来たなぁ……これで俺は寝てても魔力がどんどん増えて行くし魔素がない世界でも魔法が使える……あ~最近独り言が増えたなぁ……楽しいね。」
遊馬少年の恋愛プランと今村自身の肉体改造、そして鍛え直しの内最初に出来上がったのは魔力による肉体改造だった。
「……ん~でも、魔導術は『魔禍落崩帝』の最終状態じゃないと使えないか……まぁその辺は流石にしょうがない。」
今村は大きく伸びをして肩周りをほぐす。そして他二つの資料を見た。
「『数え殺し』は順序追わなくても最終技の『無撃総乱舞』を使えるようになったし……息抜きに遊ぶか……」
そして今村は遊馬少年で遊びに5日ぶりに外に出た。
「……っあ~…………ふぅっ……夜か……うん。いい感じだ。いい感じに寒いな……さて、行くか…………?あれ?どっちだっけ……やっぱ戻ろうかな……」
外に出た時点で目的の一部を達成してしまった気分になった今村はもう戻ろうかと思い始める。
「ちっ……面倒だな……やっぱ瑠璃とかと一緒に行動しておけば楽だったか……」
「……………………それが第一声?」
「うわっ!」
今村でも感知できない速度と気配遮断能力で音もなく現れた瑠璃に今村は思わずその場で戦闘態勢に入った。
「……何だ瑠璃か……びっくりした……」
「…………傷付いてるんだけど。」
「あっそ。」
「…………はぁ……ボクはさぁ……まだ慣れてるけど……アヤメはすっごい悲しんでるからね……謝らないんだろうけど……」
呆れるだけで怒らない瑠璃を見て今村は溜息をついて「恋愛視」を発動する。
(……ちっ……振り切れてるか……こういうのはあんまり好きじゃないんだが……そろそろ死ぬにあたってやっぱりやらないとダメだよなぁ……)
そんなことを考えている今村に対して瑠璃の方も目を覗き込んで溜息をついて言った。
「……はぁ……また何か碌でもないこと考えてるね?どうせボクに仁を嫌わせようってするんだろうけど。」
図星だ。そして悲しそうな顔をして瑠璃は続ける。
「……今度は何かもう一歩深いかな?だって、目がまだ変わってないもんね……今度は、何をする気なの?」
「……お前が俺のことを嫌いにならないなら、俺がお前のことを嫌いだとするだけだ。」
悲しそうな顔から更に発展して悲痛な顔になった瑠璃は花唇を震えさせながら言った。
「……一つだけ、約束してくれるなら……ボクも、諦めるよ。」
「何?さぁ、早く言え。大体のことは何とかしよう。」
デリカシーの欠片も見当たらない今村に儚く笑いながら瑠璃は言った。
「絶対に、死なないで?【可憐なる美】様たちとよくお話ししたんだ……あの方々なら、ボクは……うん。仁の楽しい未来があるは、ず……だから、ぐすっ……」
「……ん~それ以外にない?他ならまだ……理想の旦那を創れとか……」
泣きながらそうお願いしてくる瑠璃に今村は何とも言えない顔でそう返すが瑠璃は首を横に振った。
「ボクは君以外を好きになることはない。本当に、君には幸せになって欲しいんだよ……何がいいのかわかんないけど、消えちゃったら終わりなんだから……もう、何言ってるのか分かんないけど……「見つけたぞぉおぉおぉぉおっ!」」
瑠璃の言葉を遮るようにして2Mを超す全身を屈強な筋肉に覆われた白髪に白髭を蓄えた老人が走って来た。
「……えーと、瑠璃さんよぉ。遊神さんってオリハルコンの箱の中に埋めて海に沈めたって……」
「ふん!気合で翌朝には帰って来たわ!それより儂の娘を泣かせたのは貴様だなこの屑が!」
泣いている瑠璃に羽織っていたマントをかぶせてその老人は今村と対峙する。今村は半笑いでその老人の拳を受け……ようとして避けた。
「ちぃっ!死ねばよかったのに!」
老人が放った拳の軌跡は全て塵と化し、活神拳の長であるはずの彼が端から殺しに来ていることを受けて今村は苦笑する。
「あーまだ死ねないから……もう少し待ってよ。勝手にくた……びれるから!」
その途中で体に原神の2柱と繋がっているペナルティの術が作動しかかっているのを感知して今村は言い直した。
「何を言ってるのか全く分からんわぁっ!死ねぇっ!害悪が!」
「いや、仰る通りなんですけどねぇ……」
触れたら即死レベルの大技を繰り出してくる遊神に対して今村は全て避けながら同意する。正直自分と同じような奴が、例えば百合のような娘の一人と付き合おうとするなら一応考え直すように言うだろう。
それはさておき今大事な話をしていたのに遮られた瑠璃の方は老人の暴挙を止めに入る。
「ちょ、パパ!あぁもう……今大事な話をしてたのに!」
「そうかそうか。瑠璃はパパのことが大好きか。」
「仁とボクの邪魔をするから嫌いだよ!仁、取り敢えずパパを黙らせよう!出来れば永遠に!」
「……お前……自分で言うのもアレだが……俺を大事にする気持ちは全部父親さんに向けてやるべきなんじゃ……「お前に義父呼ばわりされる筋合いはないわぁあぁあああぁぁあっ!」……あぁもう面倒くせぇ……」
湿っぽい空気を一気にぶち壊して騒ぎ始める遊神に今村は溜息をついて攻勢に出た。
「魔法も魔導も使うけど死なないようにお願いしますよ。『羅刹剄』」
「【遊神星虹流百花蕾】」
大技を放った所で遊神が今村と瑠璃から距離をとった。冷たい風が身を切るようにして吹き荒ぶ。そんな中で今村と瑠璃は遊神と相対し、じっと構えて機を窺う。
そうすること幾ばくか。焦れてきた今村は手加減の分からない最新の技を繰り出すことに決める。
「あーじゃ、仕掛けるから、全力で防御して。はい。『壱禍倒千』『弐禍倒万』『惨禍死億』『死禍骸兆』「その技は知っておる!」……と、思うだろ?『無撃総乱舞』!」
「なっ……」
今村は「数え殺し」と名付けた順を追って氣や剄を解放していく体術を魔力で一気に解放して彼の体術の最終奥義に呪術を織り込み、老人に捻じ込んだ。
「ぐ、ぅ……見事……」
「はっは。綺麗に決まった。って、瑠璃!」
「フフフフフフ……これでやっとボクの邪魔が居なくなる……これであの方たちと条件は同じだからもう、諦めないよ…………あ、ごめんねパパ……今まで育ててくれてありがとう……瑠璃はこれから幸せになります!」
「待てやこら!」
目から光が失せて止めを刺そうとしている瑠璃を羽交い絞めにして今村は瑠璃を宥める。
「何で!?」
「何でって、お前そんなこと訊くの!?お前一応『活神拳』の所属だよ!?」
「仁に付いて行くから違うよ!ボクは『無拳派』!」
「お前さっき……」
「さっきはさっき、今は今!大体、仁ボクの言うこと聞いてくれないし!我儘だからボクも好き勝手やるもん!パパを殺させないならボクのこと嫌わないでよ!ボク君に嫌われたら世界破壊して回ってやるー!」
今村は何が彼女をこんな状態にしてしまったのか……と思いつつも止める方が面倒なので適当に流して嫌わないことを約束した。
「……はぁ。まぁいいや……取り敢えずさぁ、道場にこれ持って行くか……」
「何か仁がパパを担いで道場に運ぶって……初めて会った時のことを思い出すね……あの時はまだ小さかったなぁ~」
この後、瑠璃が道場に着くまで過去の話を自分の心情を交えてずっと話してくるのを今村は背筋が痒くなる想いで聞きながら道場へと移動して、取り敢えず到着次第、そこに居る名人の面々を気絶させた。




