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例外者の異常な日常  作者: 枯木人
第二十七章~帰郷~
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5.ノスタルジー

「……さて、面白い物も見つけたことだし……俺の家ってどこにあったっけ……?もう覚えてないな……」

「泊まって……」


 今村はこの世界の滞在を決めた所で自宅の場所を思い出すことにした。だがそれを耳聡く聞きつけたアヤメが服の裾を少しだけ引いて道場への宿泊をおねだりしてくる。


「嫌だ。……さて、あっちの方だった気がする……若い頃だったから罠とか術式とかあんまり付けてないんだよなぁ……気配が分かり辛い……」

「あ、こっちだよ?それじゃ凛。もしかしたらボクしばらく帰って来ないかもしれないから後よろしくね?」


 掃除とかきちんとしてたからすぐに住めるよと笑顔で今村に語りかける瑠璃に姪の凛は非常に困った。


「あの……おじい様に何て言えば……」

「ん?ん~まぁ……一人歩きだと流石に怒られるかな……ちょっとアヤメとお出掛けしてるって言っておいて?」

「アヤメ、にぃにの家、行く!」


(……まぁ別にいいけど、こいつら俺の家に泊まる気満々だな……別に俺の安眠を妨害しなけりゃどうでもいいが……)


 幼児帰りをしている印象を受けるアヤメのことも気にせずに今村はさっさと瑠璃に自宅への案内をしてもらいたいなぁ……などと考えながら体の内部改造を再開する。


(……魔導部門に関しては既に92%ほど出来上がってるな。現在状態でも使用は出来るが……うん。どうせなら行ける所まで行ってからの方が楽しい。)


 ごちゃごちゃと話し合いを続けている瑠璃とアヤメ、それに凛の話し合いの最中にそんなことを考えていると遊馬少年がいつの間にか今村の方へとやって来ていた。


「……えっと、すみません。もの凄く気になるんですが正直な所、瑠璃さんと相川師匠とはどんな関係なんですか……?」

「知り合い。……あ、一応瑠璃とは友人で、アヤメは……何だろ?元保護者?」


 どう見ても同年代にしか見えない今村のその言葉を受けて遊馬少年はもめているアヤメの方を見る。


「……相川師匠の方が年上に見えるんですけど……と言うより、今村さん、あなた今幾つなんですか?」

「……随分難しいこと聞くなお前……時間の流れが世界ごとにまちまちで死んでた時期もあるし……絶対時間において俺が発生した状態からの精神の……あ、そう言えば精神体も冬眠してた時期があるな……」


 色々考えた結果、知らないということで落ち着かせた。だが、相手は落ち着かないようだ。


「知らないって……まぁ、名人の人達ならあり得るか……って、そう考えてる自分の常識も大分この世界に犯されてるっ!」

「……お前、頭大丈夫か?まぁいいけど……」


 変な奴の方が面白いので今村はそれでいいことにする。そうこうしていると凛の方が瑠璃とアヤメに押されて折れたようだ。


「あぁ……もう。おじい様に怒られますよ……?」

「いいよ別に。お待たせ仁!」

「何かダメなら俺別に家探しながら適当な所で野宿するけど……」


 今村は折れただけで納得はしていない様子の凛を見てそう提案する。すると凛の目が輝いた気がした。


「!今村さん、ならここに泊まるのは……」

「それは嫌だ。」


 そしてすぐに沈められる。


「うぅ……余所の家に黙って泊まってもし、何かあったら…………今村さん、手は出したらっ!」

「出していいよ!色々出して!」


 せめて忠告をと凛が口出しをしようとするが瑠璃がそれを物理的に黙らせる。そして今村は瑠璃が下ネタを言うとは珍しいな……と思いながらどうでもいいが一応凛に言っておく。


「暴力的な意味で手とか足を出すかもしれんが他はない。」

「…………凛が余計なこと言うから……」


 理不尽にアヤメが怒るが今村は溜息をついて彼女を担ぎ、門の外へと跳び上がる。瑠璃もそれに続いた。


「さて、家はどっちだ?」

「付いて来て!」


 そして宙に舞いあがった後に瑠璃が先行し、今村はアヤメをその方向に放り投げて全力で逆方向へと跳ねて行った。


「ま、こんな感じだろ。追って来てるっぽいが……ま、無理だね。」


 途中で道に降りて今村はジグザグに、そして緩急を付けながらあまり上部には飛ばずに移動する。そして瑠璃の氣が完全に止まって適当に移動し始めた所でようやく息をついた。


(……家は忘れたが秘密基地は覚えてるよ。まぁ、研究所だから住み心地はあんまり良くないが……昔は職住別離にしてたからなぁ……今は基本的に面倒だから一緒にしてるけど……)


 そんなことを振り返りながら今村はこの世界のシンボル的な建物の近くに行ってその下部に対して衝撃を漏らさないように一撃入れた。


 すると、一部の土地が浮き上がり、そこから空気が流れ出る。


「……うわぁ……今見ると恥ずかしいな……ギミックが稚拙だ。若かったなぁ……まぁ住めるから別にいいけど……」


 そんな感想を抱きながら今村は地下へと移動していく。その途中にある罠についてはほぼ完全に忘れていたが問題なく対処できた。


「温いなぁ……もっときっつきつの罠じゃないと……後で作り直そうかな……?」


 虫や小動物避けの微弱な殺光線を潜って到達したところでようやく今村の秘密基地に辿り着き、今村はまず備品のチェックから入る。


「お、食料とか飲料水は大丈夫か……まぁこの世界じゃ20年程度も経ってないしそんなもんか。」


 この世界に置いて行った3つの時計の内、充電を止めたコード式充電の物と自動更新の物を見比べてそんな感想を抱きながら今村は埃っぽいソファを一瞬で綺麗にした後、そこに腰かける。


「あー……懐かしいけど、このころはまだ既製品だったな……このソファも昔は良いモノだと思ってたんだが……今の俺からすれば簡単に作れるな……」


 懐古しながら少しノスタルジーに浸っていると今村は不意に死にたくなって来た。


「……そろそろやることもなくなって来たなぁ……やり残したのは、まだ本を読み終わってないことと……後はまぁ、原神を殺すことかね……前に考えてた分だと他にも色々あったけど……どうでもいっかなぁ……」


 今村は金属で覆われた天井を見上げると大きく息をついた。


「……まぁ、どうでもいいって言っても目の前で何かあれば動くけど……今回みたいに面白そうな恋愛事とか……あの少年、瑠璃も口説き落とさねぇかなぁ……そうしたら面白いんだけどっと……ま、取り敢えず改造を済ませながら適当に鍛え直しつつ恋愛成就を目指すか。それと、目的も達成しないとな……」


 そう言って立ち上がると今村は過去に使っていた机に向かい、そして上に乗っている若干古ぼけた紙束を見て何とも言えない笑みを浮かべた。


「……うわぁ……こんな技……完全に拗らせてたんだなぁ……まぁ今の俺なら出来る辺り何とも言えんが……」


 紙束には考えられるが実現は不可能そうな技がたくさんあり、その内、比較的簡単なものはすでに実現していたが難しい物は出来るわけがないとバツ印でその上を消していた。


 だが、今の今村の視点で見れば殆どの技が再現可能だった。それを鑑みながら呟く。


「……この辺、出来るようになったら原神とも戦えるかね?まぁあんなのとまともに戦うなんて不可能か……?不意打ち上等で暗殺したいな。」


 今村はそこで首を傾げながら笑った。


「でもまぁ、どっちにしろ楽しんで行こうか……さぁ、始めよう。」


 時計以外に時間の流れを伺うことが出来ない地下で今村は構想を現実に、そして息抜きに遊馬少年の恋愛成就のプランについて考えた。




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全盛期、相川だった頃を書く作品です
例外者の難行
例外者シリーズです
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