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例外者の異常な日常  作者: 枯木人
第二十七章~帰郷~
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1.百合さん成長

「おと~さま~!」


 今村が持っている魔宮の一つに入ると黒髪黒目をした利発そうで可愛らしい少女がそう言って今村の胸に飛び込んできた。


 今村は気付いていないし、知らないが、その姿はどこか「εモード」の今村の姿の面影がある。


「おぉ、百合……大きくなったなお前……元気にしてたか?」

「はい!」


 そんな少女を受け止めつつ今村は彼女を抱え上げてそう言った。この世界では5年ほどの歳月が流れたはずだが目の前の少女は10歳近いような印象を受けたからだ。

 そんな何とも言えない顔をした彼の後ろには白いフェネックのような動物と子どもの黒豹が付いている。


 白いフェネックはレイチェル。黒豹はマイアだ。レイチェルは犬なのだが今村の強い意向で却下されたため、フェネックみたいになっている。

 百合はそんな二人のことを微妙に普通の動物ではないと感じつつも正体を見破れず、彼女の父親であれば何を連れていても不思議ではないとして意識から追い出し、今村に甘える。


「マスターお帰りなさいませ。」


 玄関先でそうしていると月美が家の中から出て来て優雅に一礼した。今村はその姿から巧妙に隠し通された何らかの魔術の残り香を感じ取るが現在は何事もなさそうなので気にしないことにする。


「よぉ。元気?」

「……はい。」

「百合に餅踏みと米背負い、それと神技授与と選択這はきちんとさせた?」

「一応……ですが。」


 月美の言い方に微妙な印象を受けた今村は細かい話を聞いてみる。そして苦笑いした。


「全部魔術で……そう。」

「はい。流石マスターのお子様だと……」

「まぁ一生食とか生活に困ることはなさそうだな……えっと?今日は……あぁ明日が百合の誕生日になるのか。ギリギリだな。」


 そう言って今村は百合を地面に降ろすと明日の準備を始めることにする。ただ百合は離れたくないようだ。


「百合、ちょっと月美の所に行ってくれないか?今からお前の着物と簪、それに帯やら何やらかんやら作るんだが……」

「……ゆり、良い子にしてました……」


 不満気な百合を見て今村は仕方ないので部屋に連れて行くことにした。そのついでに月美にはマイアとレイチェルの食事と部屋を頼んでおく。


「……わかりました。」

「じゃ、よろしく。百合、付いて来るのは構わんが……邪魔するなよ?」

「はい。」


 今村の後を付いて行く百合。二人が見えなくなったところでようやくマイアとレイチェルはニンゲンのモードに変わる。


「……ぷはぁ……あ~疲れたにゃ……」

「……あ、どうも……お部屋を案内してもらえれば……後はやります……」


 そんな二人を前に月美は無言でしばらく見た後に溜息をつきたくなる。


(……自分からあの面々を振っておいて……すぐに新しい女の人を……まぁ、本人にその気はないんでしょうけど……)


 そんな内心はすぐに呪具のナニカによって食い潰されて月美は何も感じることなく二人の案内を行う。














「さて、織物は久々だな……」

「え……」


 百合は今村に付いて行って驚いた。今村は着物を織物から始めるようなのだ。


「あるじ様!がんばって!」

「うるせぇ。お前は百合と遊ぶことに集中しろ。『魔力糸』。」

「はーい!百合ちゃん何して遊ぼっか?」


 精神年齢が近い事と材料を持って来させるという理由からこの場にるぅねが呼ばれており、百合が暇にならないようにするために部屋に様々な道具を持ちこんでいる。


「えっと……難しい物は……」

「だいじょーぶ!ここにあるのはるぅねでもできるよ!」


 そんなやり取りを聞きながら今村は経糸に独自ブレンドの手触りの良い糸を、そして緯糸に自らの膨大な魔力糸を用いて機を動かし始める。


(しかし……るぅねでも出来るって凄まじい説得力だな……)


「えぇと、これは一体なんですか……?」

「知らない!」

「……どうやって遊ぶんですか?」

「見当もつかないねー?」


 るぅねと百合のやり取りを聞きながら今村は機を織る手を止めて突っ込みを入れたくなった。だが、それを堪えて足踏織機を動かす。それは既に1メートル四方程度の大きさになっていた。


「えぇと……これは、カードですか?」

「ううん。それは召喚札だよ?ちっちゃい魔物を戦わせるんだった……はずだよ?多分……」

「え、と、取り敢えず、呼んでみましょう……」


 今村は呼ばれたモノの気配を感じて動きを止めた。


「我を呼んだのは貴様らか……不敬な……生まれてきたことを後悔させるような無様なしにざばぁっ!」

「……何上級悪魔を呼んでるんだよ……」


 織物に使っていた魔力糸を派生させて召喚された悪魔を縛り上げて吊るす今村は呆れ顔でるぅねと百合を見た。


「ご、ごめんなさい。」

「てへっ?」

「百合はまぁ仕方ない。だがるぅね、テメーはダメだ。」


 てへっ♪と言う顔のままの彼女を今村は縛り上げると悪魔の隣に吊るした。そして溜息をついて機から席を立つ。


「ホントは全部きちんと織ってやりたいんだが……ま、ちょっと採寸がてら遊んでやるか……」


 今村のその言葉に悪魔を召喚してしまい、怒られるかと思っていた百合は顔を一気に明るくさせた。


「ホントですか!?じゃ、じゃあゆりお父様におうまさんして欲しいです……」

「よし、じゃあ天馬を呼ぶか。」

「ち、ちが……」


 そう言うことじゃないと百合が訂正すると今村は若干首を傾げて召喚陣を既に描いていた指先を止める。


「?あんまり大きいのは嫌か?じゃあ仔馬を……」

「か、肩車がいいです!」

「……別にいいが……変な奴だな。危ないぞ?ちゃんと受け身は取れるのか?」

「ふ、普通に肩車なんです!」


 今村は少しの間の後に手を打った。


「あぁ、アレか。いや……お前のお祝いの後に俺戦武大世に行かないといけないから色々間違えた……あり得んな。これは……るぅねくらいの間違いだ……」

「戦武大世……お父様、またどこか行くんですか……?」


 百合は寂しそうな顔で今村を見上げた。そんな百合をローブで肩車する状態まで丁重に持ち上げた後、今村はそれに同意した。


「ちょっと、帰郷しないといけない。滅茶苦茶怠い仕事があってなぁ……行ったら面倒なことになるし、行きたくないんだが……」

「そう、ですか……で、でも、ゆりちゃんと頑張るから、大丈夫ですよ?お家のこと、心配しないで、行って来てください。」


 今村は動きを止めて軽い感動を覚えた。


(いやぁ……ビックリするくらいいい子になってる……やっぱり俺がいない方が良い子に育つんだろうなぁ……)


 かつての子どもたちの多くは今村にべったりで多少おかしいのではないかと思える成長を遂げてしまったが、この子は離れても大丈夫なようだ。


「まぁ、その代わりいなくなるまではいっぱい遊ぼうか。」

「わぁ……はい!」


 百合の元気のいい返事に今村は一先ず軽く世界の果てから果てまで散歩に出かけることに決めた。


(……お父様……お仕事が忙しいんですね……ゆりがお父様のお仕事を代わることができれば……もっと一緒に居られるのに……ゆり、もっと頑張らないと……)


 そんな今村の頭の後ろで百合は先程までの子どもらしいきらきらとした無邪気な目ではなく、今村がいつも見せる混沌の目をしていた……




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全盛期、相川だった頃を書く作品です
例外者の難行
例外者シリーズです
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