28.ユルティム
「ちょっと困るんだけどねぇ……どこの馬の骨とも知らない下級神が……ウチのマキちゃんに何渡してくれてんの?それと、あんた……俺の世界をどうしようってんだい?事と次第によっちゃ殺すぞ?」
今村が空中で笑いながら極々小さな正36面体を生み出してエクセラール中の余剰魔力を吸っているとそれを嗅ぎつけたこの世界の神に目を付けられ、目の前に降臨された。
「エクセラールを別に壊しやしないよ。ユルティムくん。……まぁ正直、正の神々の中でも原神寄りの君が作る世界だしぶっ壊してもいいんだけど……ま、この世界の神様は凄い方だし、この世界に住んでる奴らも宗教ゾンビじゃないからそんなことはしない。」
「……今訊いているのはそれだけじゃないだろ?俺のマキをどうすんだって訊いてるんだよゴミ。」
ユルティムと呼ばれたこの世界の神は今村に対して魔法を行使しながら冷たい声でそう言ってきた。今村はその術式を鼻で笑って崩壊させた後にマキことマギウスの方を見る。
「ふん……名はありそうだな下級神。」
一瞬で崩壊させたことに好戦的な笑みを浮かべるユルティム。それに対して今村は彼のことなど非常に興味なさそうだ。
「名前くらいあるだろ。んで、マキ……まぁあいつなら好きにしていいけど?俺の迷惑にならない自由恋愛ならだがな……あ、でもその時はアレだ。まずは君の上司さんにきちんと報告してから【勇敢なる者】にも一言入れときな。」
今村の何気ない一言にユルティムの警戒心が高まる。そんな彼のことなど気にせずに今村は続けた。
「あいつ、俺のこと大っ嫌いだから。」
「貴様……まさか、【冥魔邪し……いや、【冥魔邪妖霊神王】か……?」
「俺その名前仰々しくてあんまり好きじゃないんだけど。ま~そうかな~」
瞬間、空間が爆ぜてユルティムは深淵を思わせるような青黒色を基調とした多種多様な色で術式が刺繍されているローブに身を包まれていた。
「テメェが、そうか……取り敢えず殺させてもらうわ。お前を殺したらあいつの後宮にいる女一人貰えるんだよ。」
今村はユルティムが身に纏うローブを見て剣呑な顔になり、目を細めた。
「……へぇ……止めといた方がいいと思うけどなぁ……」
「はぁ?……あぁ、そうだな。そこの犬っころと猫をお前の目の前で犯した方が楽しいか。殺すのはそれからにしよう。」
厭らしい笑みを浮かべるユルティムを今村は更に目を細めて見る。その瞬間に今村は右手を氷刃に、左手を獄炎に、右足を鈍色の魔鋼に、左足を妖しく光る金剛石に貫かれた後、頭を木槍で貫かれた。
「【五行陣・終焉神楽】」
目を閉じて薄っすらと笑いながらそう告げるユルティム。その姿は氷で創られた剣のような美しさを放っていた。
「……まぁ、決めてるところ悪いけど……貫通してるように見えるこれらの魔法は全部『マジックハック』してあるんだよね……ついでだし返すわ。『マジッククラック』。」
そんな彼に対して今村は冷めていた。
凍てつくわけでもなくどこまでも冷めた目で彼を見て彼の術をそのまま返し、右手を氷結させて粉々に砕き、左手を漆黒の炎で炭化させて粉々にし、右足を金属によって食い千切らせて左足を土くれへと変貌させ、口の中に巨大な丸太を捻じ込んでそこで止める。
「はぁ。一応喋れなくしておいたけど……あぁ、何か苦しんでるところ悪いけど一つ言っておくから。今何かの魔法とか使おうとしたらお前の魔力は全部俺に流れて消える。」
そう言い終わる頃には魔力が切れ始めたらしく宙を舞う魔力すらなくなり始めて地面に落下し始める。
「……助けるの面倒だなぁ……でもエクセラールを潰したとなれば色々面倒なことになるんだよね……」
何か神の癖に神様とは思えないような自覚が足りない奴だったので今村は適当に処理してどうするか考えつつ空から周囲を見渡す。
「あぁ……何か外枠とか言うところがあったな。あそこの一番寒い所に俺の術式を付与して放り投げればいっか……」
そう言いつつ今村はユルティムの土くれと化した足を掴んでユルティムを引き摺りながら高速で移動する。
「何でだろうなぁ……先代のエクセラールの神様はまさに神様って呼ぶにふさわしい凄い方だったのに……いつの間にこんな低能が……こんなのマジでテンション下がるわ……あ~エクセラールの神様~このローブ要らないなら俺貰いますけどいいんですかね~?」
返事はないかと思いきや、ローブの文様の1つから返事と思わしきメッセージが帰って来た。
「……引退したんだ。ふーん……ローブにある文様がこの世界の維持に必要ならこの本体は取ってもいいんですかね?」
返事はYesだった。これによって今村のテンションが上がる。
「お~!凄い許可貰った!こんなゴミが今のエクセラールの主神とかマジでテンション下がるところだったけど、蒼炎のローブが貰えるとかマジ幸運だわ!後で俺のローブと合成しよ。」
テンションが上がった今村はすぐにローブが欲しいので歩いて行くのを止めて「ワープホール」で精霊が封印されていた場所へと飛んだ。
「ひぃっ!ば、化物っ!」
精霊が封印されていた地点。そこには既に先客がいた。
「お、よぉ。セイ。」
「化物!化物!」
突如として現れた今村に驚いてその場から崩れ落ち、逃げられない状態で手を使って必死に逃げようとするのは元契約精霊のセイだ。彼女は今村がローブで引き摺っている肉塊を見て万物が凍りつく地で涙目になる。
「ぁ、ぁっちに、行ってください……」
「……ま、どうでもいいけど。」
今村は彼女がここに来ても平気なのが不思議だったが気にしないことにしてユルティムをこの辺りで一番寒い場所に封印することにする。
「どこがいいかな~?『千変特化異化探知』~……こっちだな。」
「そ、そこの精霊……俺を、助けろ……俺は、エクセラールの主神、ユルティムだ。貴様はこの世界のために生まれてきた存在……俺が死ねば、この世界は終わるぞ……今すぐ、助けろ……」
「情けないこと言ってんじゃねぇよ……「化物め!その方から手を放せ!」……お?何だ?」
先程の威勢はどこに行ったのか見た目幼い美少女に泣きつくユルティムに今村が半笑いで突っ込みを入れるとその手に衝撃が走ってユルティムが今村の手から離れた。
そして、ローブだけはしっかりと持っている今村と、ユルティムを抱きかかえてセイは対峙する。
「ゆ、ユルティム様。僭越ながら、私とすぐに契約を!現在あの者から得た魔力が大量にありますので回復できます!」
「ぐっ……悪いな……」
「……何か茶番してるところ悪いんだけどさ。もう封印終わってるから。『黑之氷雪籠』……」
此処から反撃開始と言う雰囲気を出していた両名を氷の世界に閉じ込めて今村は白い溜息をつく。
「……まぁ、こいつが入って丁度良かったかもな……こいつの魔力をユルティムの魔力炉にして氷上に魔法陣と魔導陣を描いてユルティムの魔力でそれが永久に続けられるように……」
そして今村は時間がずれているということを忘れてその外枠の世界で世界維持と発展、そして衰退のための術式を綴り続けた。




