21.聖女登場
今村はセイと契約し、そのままその日は眠ってから翌日、精霊魔法のお試しの為に町の外へと出て行った。
「……さて、精霊魔法の威力を試すが……いいか?」
「あ、うん。……でも、これまだ本気じゃないんだからねっ!?ただのハグでそこまで行けるわけないから!勘違いしないでよねっ!」
「まぁどうでもいいけど……引っ張られないように気を付けろよ?」
何か人が聞けばツンデレと勘違いしそうな台詞を吐くセイに今村は一応忠告してから精霊魔法を行使した。
「『炎斬死』」
「えっ……」
今村の行使した魔法にそれの大本になった少女が驚愕の声を上げて固まった。今村が放った炎の斬撃は地を抉り、灼熱のマグマを生み出しながら彼方へと消えて行ったのだ。
「え、嘘……まだ、初級なのに……」
「次行くから。『氷斬一劃』」
今村が放つ冷気を伴った斬撃。それは斬撃の付近だけでなく周囲も一気に凍りつかせるという影響を伴って炎の斬撃を追うようにして消えて行く。
「ひょ、『氷斬』じゃない……これもう違……」
「これ、行けるかな?いや……流石に自重するか……とでも思ったか?するわけねぇだろ。『風切刎音』」
「誰と喋ってるのか分からないけど自重した方がいいよ!?」
今度の斬撃でセイが震えるほどの冷気がすべて吹き飛んだが、それだけでは済まずにこの付近のほとんど全ての物が吹き飛んでいる。とうとう契約を結んだ精霊の方から自重を促すようになって来た。
「……これでもかな~り自重してるけどな。」
「嘘だっっっっ!!!」
「……仕方ない。本気を……」
「ごめんなさい!自重してます!」
今村の組み始めた術式の規模を見て精霊はすぐに謝った。それと同時にこの人マジヤバいと理解する。
「じゃあ次行くか。『土断刃』……の別バージョン。」
目の前に出来ていた巨大な穴が綺麗に埋まり、風が届かずにここは地獄かと思えるほど炎や氷などが散乱していた場所が全て埋め立てられる。
「……これもう斬の能力じゃない……」
「まぁ、魔法だし。仕方ない。」
納得できないことばかりだったが、セイは実際に見てしまったのでどうしようもないと言う風に大きく息をついた。
「これくらいあれば流石に入学は出来るだろ。うん。」
「入学……?どんな学校に入るのか分かんないけど……学校壊れちゃうよ……」
「大丈夫だろ。何せ魔法の国だし。」
セイは今村の言葉に何とも言えない顔をするだけだった。
中央学校に戻った今村は事務室に行って首を傾げられた。
「そちらは2年前の願書ですから、今年度の事務手続きをお願いします。」
「え?……何か……あぁ、そういうことかな?分かりました~」
今村と事務員のやり取りを不思議に思ったセイは今村の横で訝しげな顔をするが、今村が何も言わないので黙っておく。そんな二人のやり取りを見ていると事務員はセイの方にも顔を向けた。
「で、そこのお嬢ちゃんは何の用かな?」
「この人……今村の精霊です。」
「ハハハ。面白い冗談だね~君も『机上の空論・精霊魔法の終焉』を読んだのかな?」
セイは自己紹介をしただけなのに一笑に付され、拳に力が入る。そんなセイの姿を見て事務員は色々と気付いたようで更に笑い出す。
「良く見れば、その羽……妖精族の自前にしては変だね。精霊のコスプレのつもりかな?」
「わ、私は……精霊だもん……」
「契約精霊ですけど、何か?何なら検知してもらっても構いませんが。」
今村とセイの言葉に冗談だと思っている男が笑いながら目に何らかの魔術を掛けて時間経過とともに表情が消え、そして目に掛かっている術式が複雑化していく。
「嘘……だろ……?」
「どうかなさいましたか?ラギュールさん……」
「せ、精霊が……」
「……仕事のし過ぎですかね?休暇の申請を……」
慌ただしくなる事務室。存在を疑われ、実際に見られてもなお信じてもらえないセイは震えながら涙目になった。今村はそんなセイのことを凄まじく適当に慰める。
「ドンマイ。」
「……気にするわよ……」
「馬鹿な……まだ幽霊の方があり得る……残留思念に魔力が結びついて……いやそんなことより……せ、精霊なんていないさ……精霊なんて嘘さ、寝ぼけた人が見間違えたのさ……あっ!つまり、これって僕が寝ぼけただけなんだ~アハハ~」
「ラギュールさんがご乱心だぞ!」
「ここのところ徹夜が続いてたから……」
「手続きいいですか?」
何か歌い始めた事務員の人のことを無視して今村は必要事項全てを書き終えた書類を提出し、それをご乱心している事務員の対処をしていない女性に鼻で笑われる。
「得意魔法が精霊魔法~?あのねぇ、冗談を言うにしてももっとリアリティがないと……」
「ひぐっ……冗談じゃないわよぉ……私、精霊なんだから……」
「……はいはい。可愛い彼女の我儘に付き合ってるのは分かったから。あの人を見たらわかるでしょう?今、忙しいのよ……」
セイを見て呆れたように今村を諭し、そして夢にまで仕事の癖に出て来るなと書類に対して暴れ始めている先程の事務員を抑えている場を指してそう言うと女性は窓口を閉めようとする。
「……そんなに信じられないモノなんか……甘く見てたわ。」
「うぇぇえぇぇん……私、いるもん……精霊だもん……」
「【魔神大帝】様。何かお困りですか?」
「え?聖女様……聖女様を発見したぞぉおおっビバ!夢!仕事が終わるぞ!」
「あぁ……成程。これってもしかして私の夢なのかしら……?聖女様が帰って来て仕事は一段落。ラギュールさんは錯乱してるから同僚には上手いこと言ってお持ち帰りできるコース……」
場が混沌としてきた中で、取り敢えず今村は号泣し始めたセイを慰めつつ自分のことを知っているらしい誰かに対して警戒する。
それは全体的にコンパクトな印象を受ける可愛らしい少女だった。
未成熟で今から発達しそうな小ぶりの胸。肉付きは薄いもののしっかりとくびれている腰。小さめなヒップ。あどけない顔でプラチナ色のロングヘアーが最高に映えているそんな少女がいかにも魔法少女!と言わんばかりのフリルのふんだんにあしらわれたドレスを着て今村の目の前で跪いて命令を待っている。
「……どちらさん?」
「【魔】です。【魔神大帝】……この姿では少しお分かりになられないかもしれませんが……マギウスです。」
「……あんたがウチの息子……?え?マギウスは中性だが一応男なんだけど……確かに似てると言えば似てるが……少なくとも、胸はなかったと……」
今村は半笑いになっている。後ろではフェルミールさんもご乱心だぞ!などと騒ぎが繰り広げられており、セイは新しい事務員の応対にまた泣いていた。
「ちょっと諸事情がありまして、現在このような無様な目に……」
「……仮に、あんたがマギウスだったとしたら、一先ず四天王モードを止めてみたらどう「お師匠様ぁっ!」……確かにこのノリはそれに近い気が……」
跪いていた状態からロケットのように今村の腹部に突撃して来た魔法少女はそのまま頭をぐりぐりし始めた。そんな彼女になすがままにされる今村は溜息をついて電話を掛けることにした。




