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例外者の異常な日常  作者: 枯木人
第二十六章~魔法大世へ~
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17.さくさく進行

 朝が来てレイチェルとマイアはもぬけの殻となっているベッド、そして幾ばくかの金が入った袋の下にある紙を見て呆然としていた。


「行かにゃいって、言ったのに酷いにゃ……」


 レイチェルは無言で「お元気で」とだけ書かれた紙を握り潰して震える。今村の寝ていたベッドは冷たくなっており、既に望みはないが二人は外を暗い表情で探すことにした。






「……お、よぉ。」

「にゃっ!びっくりさせにゃいでほしいにゃ!」

「…………いた……安心。」


 だが、予想に反して宿を出てすぐ今村は見つかった。まだ準備段階で出発していなかったのかと大きな安堵の息をつくマイアとレイチェルに対して今村は不満気な顔をしている。


「どうしたにゃ……?」

「……朝一で出て行ったのに真逆の方向に行ってたみたいだから引き返してきたんだよ……怠い。寝る。」

「行っちゃ、やだ……」


 今村は二人の予想と異なりやはり朝一で出掛けていたらしい。ただ、壮大な迷子になって戻って来ただけとのことだ。レイチェルは無表情に涙を堪えながら今村の袖を引く。


「寒かったな……この世界マジキチだろ……世界標準温度-273度までは俺の外周気温設定を24度にするようにローブはなってんのによぉ……あそこの気温は標準温度で大体-1000度か?魔素以外一般物質の殆どが固体になってたし……術式無しじゃ流石に寒かった。」

「が、外枠に行ってたのにゃ……?」

「あー新しいワードとかノーセンキューですんで。寒い所に行ってた。因みにこれ売れるかなって思って持って帰って来てみた。」


 今村はそう言って何か普通に群生していた変わった形の草をマイアに見せてみる。この草は今村も見たことがなかったので50株ほど自世界に保存した。


「にゃ……これは……不治のやみゃいを全てにゃおすって言われてるスノーワイト草にゃ……売れる、売れにゃい以前に値段がつかにゃいにゃ……」

「あ、の…………これっ!私に売って下さい……」


 スノーワイト草と聞いてレイチェルが涙を溜めたままの瞳を上目遣いに、今村に強く懇願して来た。


「別にいーよー」

「えっ……あ、ありがとうございます!お、お金は、シャンブラン家が総力を以て必ず……」


 超軽かったので思わずレイチェルは驚いた。そんな彼女に今村は更なる追い打ちをかける。


「取りに行くのが怠いから要らんなぁ……今から寝た後は学園に行って忙しいんだよ俺。何か噂によると聖女とか言うのがいるんだって。そいつを落とす奴を育て上げる気分。だからまず寝るわ。」

「え、あ、……ご、ごめんなさい……」


 今村は何に謝られたのかは分からんが危害を加えに来るのであれば殺せばいいやと手をひらひらさせて部屋の中に戻って行った。


 その後ろでレイチェルはスノーワイト草を胸に抱いて泣いていた。











「さて、今度こそ行くぞ!」

「龍機は取ったにゃ。レイチェルはスノーワイト草をすぐに病気のママさんに届けるって言ってどっか行ったにゃ。」

「あいつ病気の母親いたんだ。」

「スノーワイト草を見て記憶が戻ったらしいにゃ。」

「……あいつ、記憶喪失だったんだ。」


 色々新事実が発覚したが、既に後の祭りなので放置して今村はさっさと中央学校へと進もうとする。


「それはそれとして……後、2時間程度であの本屋が開くんだよなぁ……待つべきか否か……学術都市だから本は大量にあると思うんだが……やっぱ一期一会だし、ここで出会った本は大事にするべきだと思うんだよね……」

「……いみゃむらさんには人との縁も大事にしてほしいにゃ……」


 マイアは今村の本と自分たちに対する態度の違いを非難するかのような視線を向ける。その程度には痛痒すら感じない今村はしばし考えた後に頷いた。


「ちょっと待とう。たかが2時間だし……」


 前日に人に待たされた時は3分で帰った男はそう言って魔術式の解析をしながら時が来るのを待ち、2時間後に目的の物を手にしてからようやくエキャルラットラパスを後にした。














「着いたぞー!」

「にゃー!」


 今村は学術都市に着くとすぐに中央に浮遊している巨大な建物を学校と何となく断定しその方向へと向かい始める。

 マイアは急に動き出し始める今村を止めて先にここに屋敷を持っているマイアの実家であるルノワールへと行くように勧めた。


「多分、手続きの半分くらいは省略できるにゃ。」

「ほー……」

「いみゃむらさんは魔力が分かり辛いから普通の試験だったら目立つと思うけどみゃーのお家の力があれば大丈夫にゃ。」

「ふーん。」


 菓子折りの1つ程度持って行くべきかどうか悩んだ今村はそう言えば目の前にいる黒猫美少女の命救ったんだったと思い、これで貸し借りなしということにしようと勝手に勘定を決めた。


「……正直、みゃーは学校が嫌で逃げてた所を捕みゃったから少し言い出し辛いけど……みゃあ、大丈夫にゃ。」

「お前の頭の中が大丈夫じゃないな。あんまりお前の親御さんに迷惑かけすぎるなよ?」


 軽い説教をした後、今村の異常な歩くスピードにも難なく合わせられるようになったマイアはすぐに自宅への案内を済ませる。


「……パパとみゃみゃ怒ってるかにゃ……?気付いてくれるかにゃ……?にゃんだか急に怖くにゃってきたにゃ……」

「まぁ、何なら俺はどっか行こうか?」


 マイアはそれに対しては首を横に振り、ローブの袖を捕まえたまま深呼吸して呼び鈴を鳴らした。

 その瞬間、扉が開け放たれてマイアの頭に拳骨が振り下ろされる。


「にゃっ!にゃに……あ、ごめんにゃパパ……」

「……お前は……父親の心配したという意味の愛の鉄拳に強烈なカウンターをするんじゃねぇよ……まともに受けてやれよ……」


 今村は玄関先で父親の拳骨に対して素早く横にずれて躱したと同時にアッパーで迎え撃ったマイアを非難する目で見た後に家の奥からやって来た女豹のような女性を見る。


「……この、アホ娘……心配させて……」

「みゃみゃ……ごめんにゃさい……」


(……あの人、旦那を踏んでるんだけど。いや、マイアもか……感動の再会の土台にされてるよ父親さん……まぁ幸せそうな顔してるからいいんだろうけど。)


 感動の再会らしきものを見ながら今村はドMらしい父親を蔑んだ目で見る。すると黒女豹であるマイアの母親が今村の方を見てマイアに説明を要求する。


「それで、あの狐は?」

「いみゃむらさんにゃ。みゃーたちを通りすがりに助けてくれたのにゃ。優しくてとっても料理上手で、ビックリするほど強いのにゃ!」

「へぇ……」


 瞬間、女豹さんはブレて今村の眼前に出現する。今村は龍機の中で眠っていた眠気の残りの所為で欠伸をしつつ、視線は踏み台にされた哀れな父親の方に固定したまま軽くそれを避ける。


「おや……魔力ナシの極潰しかと思ってたら……」

「あー……今日はそんな気分じゃないんでマジ帰りますわ……面倒な奴だなぁこいつバトルジャンキーじゃん……マジたるい……」


 考えていることを全て口に出しながら今村は再びあくびをしながらさっさと退散することにした。




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全盛期、相川だった頃を書く作品です
例外者の難行
例外者シリーズです
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