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例外者の異常な日常  作者: 枯木人
第二十六章~魔法大世へ~
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10.分析しようね?

「……では、属性は火、風、土、雷、そして木になります。それぞれの属性であそこにある的を壊せなければ登録できませんのでご了承ください。」

「はーい。で、順番は何でもいいんですかね?」


 荒涼とした果てしなく広がる大地、そこに今村と組合事務員の女性は立っていた。加えて、子どもたちがにやにや、あるいは不安そうにそれを見ている。


「はい。では、お願いします。」


 それが合図になり、今村はまず地面に転がっていたそれなりの大きさの岩を拾い上げるとそれなりに力を入れて的目掛けてぶん投げた。


 それは摩擦との兼ね合いで一気に燃え上がると的にぶつかり、それを貫通しながら炎上させる。


「ふぁいあーぼーる?かな。火はクリア~」

「え、あ、ちょっとお待ちを。」

「何?」


 笑っている今村を前に女性は引き攣った笑みで尋ねた。


「……今のは、魔術じゃありませんよね?」

「あなたは普通の人間が岩を投げて発火させられると思ってるんですか?」


 この世界は魔力至上主義。言い換えれば魔力以外はそこまで発達していない。そのため、魔力抜きの身体能力は高くないのだ。そして、試験と言うこともあり事務員の女性は今村の体に不正がないかどうかのチェックの魔術を今現在進行形で掛けている。


 異常は、なかった。


「……仕方ないなぁ……」


 だが、何となく納得いっていないらしい事務員の様子を察して今村は今まさに燃え上っている的の隣の的に行って……


 神速のスピードでカプセルの中に入っている「レジェンドクエスターズ」謹製の超燃性物質を撒いてマッチを投げた。


「へるふぁいあー?これで満足?」

「……その炎から魔力が検知できないのですが……いえ、まぁ……確かに的が炎上しているのは分かります……で、では、次を……その前に消火をお願いしてもいいですかね?的を新設するので……」


 成り行きを唖然として見ていた子どもたちの内、最初に心配していた方の子どもたちがすぐに消火してくれたので次の工程に入る。


「じゃあ次は風で。せいっ!えあはんまー?」


 正拳突きだ。言うまでもなく衝撃波が発生し的は粉砕される。女性はしばし無言になった後に溜息をついた。その様子を見ていた今村は仕方がないので刀を出して地平線を切り崩した。


「ふぇ……?」

「えあすらっしゅ?……風、クリアで良いですか?」

「い……今……何が……」


 見える範囲全ての一定ライン以上の物が斬り落とされるのを見て理解が及ばないと言った風に腰が抜けた女性。そんな彼女を見てニヤニヤ笑いながら今村は勝手にクリアと見做して続ける。


「土、か……まぁこれで行くか。的を狙うから本体は当たりはしないけど……危ないから全力で防御しておいた方がいいよ。」


 そう言って今村は先ほど切り開いた岩山をローブで一回り小さくなるほどの圧縮を掛けて丸ごと空に放り投げるとそれを追う形で空に跳び上がり、その山を投げるようにした後に、的から見て山の背後に回って突きを入れた。


 瞬間、切り崩された岩山は恐ろしいスピードで地面へと向かい、衝撃と轟音の後、高温の粉塵が辺りを覆ってただでさえ少なかったこの場の生命体のほとんど全てが死に絶えた。


 その後に着地した今村がへらへら笑って女性の隣に移動すると口を開く。


「めておすとらいく?土はこれでいいかな?」

「あ……あぁ……」


 女性は怯えて言葉も出せない。だが、今村の試験は続く。


「次は雷かぁ……粉塵の影響で放電しまくってるからアレを誘導して落とそうか。『雷塵波』」


 技名の部分は人間には聞き取れない音だった。その振動としか言えない音は放電を一ヶ所に誘導し、既に切り裂かれ天上からの落石により粉々になっている的へと落ちる。


「さんだーすとーむ的な……で、木っと。わんだーぷらんと……?」


 天変地異の後、世界の終わりと見紛う景色となった大地に今村はフィトの種をばら撒く。すると荒れ果て、壊れていた景色が緑に覆われ、割れていた土地は木により修復され、炎や粉塵などもそれを喰らう木が生まれることで綺麗さっぱりなくなった。


 そのついでに斬られ、潰され、燃やされた的が木に縛り付けられて圧壊しているのが見える。


「さて、これでまだ不合格なら……」


 今村はそこで動くのを止めて雷の時点で気絶していたが木によって起こされている女性の方を見て少し溜めて邪悪に嗤いながら言った。


「今度は、本気で魔術を繰り広げなきゃだめだなぁ……」

「ご、合格にします……いえ!合格にさせてください!お願いします!」

「ホント~?よかったぁ。落ちるかと思ったぁ……」


 最後にぼそりと「この星が」と付け加えると女性はびくりと体を震わせて地面を濡らした。そんな彼女にはフィトの種から生み出された精神安定の木の実を食べさせて落ち着かせて眠ってもらった後、今村は顔面蒼白の子どもたちの方を見る。


「さて、狸っ子。狐っ子。狢っ子。出て来い。」


 それはまるで死刑宣告のようなモノだった。あまりの恐怖にそこから動けない3人の青年たちの周囲からは人が離れる。


「そこかぁ……」

「ひぃっ!」

「あば……アバババ……」

「っあ……」


 今村と目が合った順に怯え、錯乱し、卒倒する。そんな彼らに今村は微笑んでみせた。


「そこの女子ーズに感謝しな。そいつらが居なかったらお前らを的に括りつけてたから。……聞いてないのな。」


 発狂するか気絶するかしかしていない男子3人組を見て今村は諦めた。それはそれとして無事に女性事務員が起きた所で組合の方に戻る。


 その道半ばで今村は周囲の反応を見ながら少し首を傾げていた。


(……魔法大世って、思ったより魔法使いまくってないのかな?あの程度の破壊規模はこの世界の魔力量的に普通だと思うんだが……平和なのかな?)


 にゃーにゃー言いながら腕を絡ませてくる黒猫娘に好きにさせながら今村は反省する。


(……って考えると。魔力を伴ってない技だからってあんまり破壊活動を大規模にやると密入世がバレるかもなぁ……まぁバレたからってどうかするわけじゃないけど。)


 自分のさっきの行動くらいであれば問題なしだが、本気で世界が壊れるかもしれないレベルをギリギリで見定めるような破壊活動は自粛することにした。


(機械魔術も試してみたかったんだけどな。これはまた今度にしよう。都合よく何か強くて凶暴な敵、出ないかなぁ……?)


 そう思いながら今村はナノ規模の超小型思考操作式機械群を周囲に漂わせてその中の1つだけを発火させたり放電させたりして小規模な災害をもたらす。


(群全部を動かしたいなぁ……まぁ無駄遣いはしないけど。お遊びはしましょうかねぇ……)


 先程の原因不明の突然の発火により騒ぐ子どもたちのことを無視して今村は組合に戻る道を歩く。そして意識を戻したところで今更ながら思った。


(……何でこいつ、俺と腕組んでんの?つーかあっちの奴は何をもじもじしてんのかな?まぁ……能力目当てだろうけど。)


 自意識が異常な今村はそんな変な感想を抱いた。もし、彼が自己評価を正しくできていれば、少し考えると彼女たちの状態は容易に想像できただろう。


 彼に信仰、またはそれに近しい好意を抱く者は基本的に加護を得る。すなわち今連れている子どもたちの内、成長と共に美少女になった者には警戒をするべきだ。

 そして彼は第1世界に来ているのだから、常に「αモード」。つまり黒髪狐耳の美青年の状態になっている。


 鏡を見ると割るような自己視点を持ち合わせている今村は折角恋愛から離れた場所でも再び奇妙な物を作り始めかねない段階に立っていた。




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全盛期、相川だった頃を書く作品です
例外者の難行
例外者シリーズです
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