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例外者の異常な日常  作者: 枯木人
第二十六章~魔法大世へ~
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9.組合登録

 森から出てホテルに泊まった翌日。今村たちはようやく人里が見えるところまで移動していた。今村は村の外から中の様子を窺いつつ呟く。


「ふむ……冒険者組合ってどこかね。」

「あ、あのみゃーくにゃ。」

「ほう。」


 今村は黒猫娘が指す方に人里近くなのでゆっくり歩く。そんな今村に全員ぞろぞろと付いて来た。

 そこでずっと、今日と言う日が始まってずっと口に出そうと思っていたがタイミングを逸していたことをティグリスが今村に切り出した。


「あの……」

「ん?」

「……一つ、いいですか?」

「おう。」

「僕らが一晩で成長したことはノータッチなんですね?」

「うん。」

「……わかりました。」


 一応答えは得たティグリスだが何となく釈然としない気分になった。そんな彼の周りには美男美女が揃っている。

 そんな面々を見ると幼少期に異常なほどの魔力を得ると能力だけでなく人並み外れた容姿になると言う説があったのをティグリスは思い出さざるを得ないでいた。


 そして、彼は内心でこう思う。


(そしてその中でもリオノワール家の王女と、シャンブラン家の王女は別格だ……それと、エキャルラットキャパスの公女3人も……堕としがいのありそうな……)


 ティグリスは急激な魔力上昇と身体能力の向上で若干子どもの頃のピュアさを失っていた。全能感を彼が包み、傲慢になっているのだ。


(リオノワールの王女は今村さんに懐いてるから無理だよな……多分、あの人には勝てない……魔力を一切感じ取れない程の巧者だし。シャンブランの王女は外見は良いが性格が微妙。エキャルラットから行くか……)


 そんな邪な気持ちを持ちつつ彼らは移動する。そしてそんなことを考えているのはティグリスだけではない。男女問わず、現在の力を得て様々な欲望が渦巻いているのだ。


「お、着いた。」


 そしてそんな現状を何となく見てわかっている今村はそれらは当事者間の問題であって別に自分は関係ないと組合に着いて超適当にドアを開けた。


「いらっしゃ……随分な団体さんですね。」

「冒険者登録したいんで、いいですか?」


 大勢で一気に入ってきたことから警戒される今村たち。そんなことをお構いなしに今村は自分の用件を伝える。


 それを受けると仕事だから仕方がないとばかりにお座成りな説明を受けて今村はそれを適当に聞き流す。


 要するに、身分証になるから落とすなということ、ランクを上げるには依頼を熟せと言うことが告げられた。


 簡単に言えば従業員証明書みたいなものだ。ある程度の身分証明にはなる程度の物らしい。


「身分証代わりに一時的に僕らも登録しますね。」

「……あ?俺に言ってんの?別にいいんじゃね?」


 子どもたちは子どもたちで冒険者登録をするようだ。形式上、身分証代わりと言っているが彼らの目は魔力計測器に向いている。


 現在の力を試したくてうずうずしているのだ。


「必要事項だから血を……王族の方々!?」


 ドヤ顔で登録書に血を垂らしていく子どもたち。今村は術式が使えないから自分の体を傷つけるのは嫌だなーとか、仮に傷つけてもいいけど果たしてこの登録書は自分の毒成分に耐えられるのかなど色々考えて先に計測を譲った。


「では、失礼します。」

「ひ、……こ、これは……さ、流石、王族の方でございます!」


 ティグリスが魔力計測器の紙片に手を触れるとその紙切れは一瞬で燃え上がり焼失してしまう。なので組合職員は新しい紙片を用意した。


「ふぅん……これなら耐えられるみたいですね。」

「に、二億オーバーです!」

「まぁまぁ、ですかね……一般人ですと200前後ですから高いと感じますが……確か史上最高値として租人族の聖女が初めて登録をした時が8兆オーバーとありますから……」


 凄まじくインフレをしている世界なんだなぁ……と今村は思いつつ溜息をついて手を切って血を垂らした。幸い、今日の血液は媚薬のようで登録書は溶けなかった。


 代わりに何人かの心が解かされたが……


「……やっぱ指先から滴るほど切るってそれなりに痛いんだよなぁ……まぁくっつけるけど。」


 傷口をくっつけて何事もないようにする今村は周囲が億だのうん千万だの言っている中でちょっとだけ笑って紙片に手を触れる。


 が、変化はない。連れて来ていた子どもたちが訝しげな目で紙片と今村を見るが組合事務員はツーランク下の紙片を差し出すだけで動揺はない。


「こちらの方が普通なんですよ。」


 そう言って笑う事務員だが、この紙片でも反応がなかったので顔を顰めることになる。そんな中で今村は笑っていた。


(うん。こういう対応は懐かしいよなぁ……これこそ俺に相応しい。)


 失望の眼差し、そして嘲笑の視線。今村はその中で笑っていた。事務員が最低ランクの紙片を持って来ても微かな反応しか示さないのを見て子どもたちの一部が耐えられずに笑い出した。


「ま、魔力値……14です……あの、冒険者は向いておられないかと……すぐに王都の病院へ行かれた方がよろしいのでは……?」

「いえ、結構です。」

「あの、自覚されていないようですが、かなり危ない状態ですよ?赤子ですら50を切らないのですから……」

「はい。大丈夫です。」


 そんなやり取りをしていると何かに耐えられなかったらしい黒猫娘が大声を上げた。


「笑うにゃ!この人がにゃーたちを助けてくれたのを忘れたのかにゃ!?」

「で、でもその人魔力……14なんだぜ!?」


 そんな子どもの一人が言う言葉に全員が再び笑いだす。


「…………」


 それが気に入らなかったらしい少女がその笑っている男たちの中の一人を無言で殴り飛ばした。否、拳圧で吹き飛ばした。


「次、笑ったら……怒るから……」


 そんな少女に追随する形でまた一人、一人と今村側に回って行く。


「あの、笑うのはダメだと思います。」

「さいてー」

「恩知らずですわね。」


(……別に擁護しなくていいのに。どっちにしろ笑った奴らは笑えない状態にする予定だったし……つーか、こいつら森での実力差についてどう考えてんだろ?脳味噌空っぽなのかな?)


 命拾いしやがったなぁ……と思いながら今村は組合事務員の人の説教を聞き流しながら成り行きを見守る。


「いいですか?魔力が少ないと言うことは生命にかかわる問題ですよ?……聞いてないようですね。仕方ありませんが、試験を受けてもらいます。」

「試験?」


 聞き流していた話の中で聞き捨てならない単語があって今村は事務員の顔を見た。彼女は頷く。


「試験です。これから私が組合が所有する訓練場で無作為に選ばれた5つの魔術が使えなければ残念ながらあなたは組合の資格を得られません。」

「……そんな決まりは聞いてないんですけどねぇ……」

「現代人だと誰でもできると言うことで既に形骸しているものですから。付いて来てください。」


 事務員の女性は別の女性に声をかけてカウンターから出てきた。そんな女性に付いて行くことになった今村は黒猫娘に出て行く前に声を掛けられる。


「大丈夫にゃ?さいあく、にゃーが養ったげるから安心するにゃ。」

「……ん。恩は、返す……」

「……何で俺の周りには俺をヒモにしたがる奴が多いんだろうか……そんなに働きたくないオーラ出てるかなぁ……働きたくないのは事実だけど……」


 そんなことをぼやきながら今村は組合から出て、女性の後を追った。





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全盛期、相川だった頃を書く作品です
例外者の難行
例外者シリーズです
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