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例外者の異常な日常  作者: 枯木人
第二十六章~魔法大世へ~
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5.発生

 「幻夜の館」の面々が初めに、そして同時に最後に気付いた異変はバレンタインに向けてのサプライズパーティの準備が嫌に進まないことだった。


「……おかしいですよね?私たちが先生の為に何かするのを忘れるって……」

「ひとくんにメディカルチェックの申請出しておいた方がいいわねこれ……」


 集まった面々が口々に我が身に何が起こったのか心配そうにそう語る中、クロノは空席となっているマキアの席を見て言った。


「最近、来ないね。作業はしてるみたいだけど……」

「忙しいんでしょう?」


 マキアはここ最近会議に出て来ていないのだ。だが、彼女がふとお金が足りないと言っているのを聞いたことがあるので借金をしているこの場の面々が強く何か言うことは出来ない。


「……とにかく、今日を入れてバレンタインまで後10日です。今日は節分ですからそれはそれとして楽しむことにして、このパーティは成功させましょう!」


 まとめに入った祓の言葉に全員が賛同した。














「ぅあ……マズい……」


 マキアは不眠不休で延々と動き回っていた。最近になってから記憶が薄れ始めているのを自覚しており、薬品の完成のためには時間が足りないことに気付いて路線を変えていた。


「……このアンプルは本っ当に凄いですね……」


 覚から手に入れたアンプル。それは現状の自分に掛けられた複雑な術式の対策の全ての下地を一気に担うことが出来る物だった。


(今対策したのは記憶保持……これが一番大事なんですけど術が強すぎてある程度までしかできなかったな……代わりに異性・同性への性的干渉の拒絶とかを入れて何とか清いままでいたいけど……)


「厳しいよなぁ……先輩とかは何とかしてあげたいんだけど……これ一人分しかないし……もう、時間もないし……」


 時間も資金もない。これまでの自分の全財産を使い果たしてバイトも熟したがそれでも足りなかった。


「まぁ、皆さん頑張ってくださいね……この術は掛かり始めてからしばらくは非常に強い効力を持つみたいですから、5年程度して起きましょう……」


 マキアはそう独りごちて薬品を呷ると自分が保有しているかなり狭い空間の中に自ら入って行き、眠りについた。



















「Year! Here comes my show times! さて、術式の起動を確認っと。後やらないといけないのは……第3世界の維持だな。フィトとシェンが自由に動き出すはずだから……代わりにライアーとこの腐れ緑を入れないと。」

「これやったら無罪放免だからね?前の件はなしだよ?」

「ぅげ……」


 世界が爆ぜたと思うほどの衝撃と共に何も起きないと言う不可思議な現象が起きた時、今村は自室にいた。


「仕事は神野にまたやらせてー、ライアーとこのゴミ腐れに力の付与を行ってー俺はエクセラールに行こうか。」

「約束してよ。大体嫁さん破裂した僕も結構言いたいことあるんだよ?その前にも僕の使徒を持って帰っちゃうしさぁ……」

「うっせぇ。」


 ライアーが抗議してくるのに対して今村は今手に掴んでいる血塗れの男を殴って頭部を炸裂させた。そしてそれはすぐに治す。


「分かってるっての。先日の件に関しては無罪放免。それと、ミーシャはもう俺の記憶ないから仕事の合間に頑張って口説けば?」

「おっし。やる気出てきたー!」

「緑はネムネムしてる母親さんのために頑張れ。」


 やる気を出しているらしいライアーを尻目に今村は緑色の髪を掴んで持ち運んでいる男にそう言った。彼は血塗れの口を開いて頷く。


「ふぁい……」

「ところでそのボロボロなのは何?」

「フィトって言う奴の息子。名前は奪って捨てた。以前弱ってる俺をボコボコにしやがったから現在何十回目かのお仕置き中。」


 お仕置きと言う言葉に身を竦ませる緑髪の男を見てライアーは憐憫の眼差しを向けた。


「ドンマイ。多分君は死ぬまでいびられるよ。」

「もう何回も死んでるから死んでもいびられてるんだけどな。」


 そんな会話をしながら今村たちは五柱神の間へと空間を繋げて移動する。その間にライアーもついでとばかりに緑髪の男の顔を蹴った。特に意味はない。


「よぉ火竜神様に水恋神様。君らの想い神は現在、自由に遊んでる。」


 以前来た時と違って雑務に追われているであろう五柱神に今村はそう言いながら神殿までの空間を無視して一気に神殿の中に入った。そして驚きの顔と共に向かい入れられる。


「陣中見舞いだ。人手と力を持って来たぞ。」

「……貴様は、……いや、……うむ。」


 複雑な顔持ちの火竜神と水恋神。土仙神は苦笑しながら長く白い髭に覆われた口を開いた。


「感謝しますぞ。」

「うん。じゃ、力の付与を行うから。魔力はここに預けて行くが……不用意に触れると爆発するから気を付けるように。」


 そう言って今村は黒い球体を生み出してその空間に漂わせ、息をついた。


「ふぅ……結構、疲れるなこれ……」

「隙ありだ!」

「ねぇよ。」


 今までの恨みを晴らそうと緑髪の男がそんな掛け声とともに今村に急襲を仕掛けてきたがその手は「呪刀」によって斬り落とされた。そして切っ先でそれを刺して今村は緑髪の男に突き付けて嘲笑う。


「俺は別に魔力に頼り切って生きてるわけじゃないんだよなぁ……確かに魔力が足りない頃は俺の体質も復活させられなかったが……一回起こせればもう大丈夫なんだよっと。」


 切っ先を振り、腕を宙に舞わせている間に今村は緑髪の男の残った四肢を全て斬り落としてそれらを細切れにした後に「呪刀」を仕舞う。


「水恋神様これ直しておいて。」

「はーい……」


 そして今村は余計に増えた仕事を水恋神に放り投げて踵を返す。しかし、そんな今村に土仙神が声を掛けた。


「何か産声が聞こえませんかの?」


 その言葉に今村は耳を澄ませる。すると確かに幼い子どもの鳴き声が響いていた。だが、ここは五柱神の間、それも神殿内だ。掟破りな今村がいるのは兎も角他の誰かが居ると言うことはあり得ない。


「……音源は、ここだな。」


 今村はそう言って先程自分が出した黒い魔力の球体に近付いて行く。すると声は大きくなった。


 何となく想像がついた今村はその球体の中に手を突っ込んで中にいるナニカを引き摺り出す。


「それは……」

「……あんまり巨大な力を発露するとこう言うことが起きるんだよねぇ……」


 今村はそのナニカを包むように白い布をかぶせて言った。


「初めまして我が娘。お前の名前は……そうだな。百合にしよう。月美。」

「はい。」


 白い布に包まれたナニカ。全裸の小さな女の子を見て今村は微妙な苦笑をしながら呪具の力を発動して月美を呼び出す。


「……呪具全部置いて行くことになるか……取り敢えず、この子の面倒を看ろ。データの蓄積はお前の中にも入ってるだろ。」

「……マスターは看ないのですか?」


 月美の問いに今村は何とも言えない笑みを浮かべる。


「……俺が娘を育てると、何か変な風に育つから……今回は少し趣向を変えてみることにした。何かあれば連絡を入れろ。」

「別にマスターのことを異性として好きになっても問題はないのでは……あなた様は神ですし、遺伝なんかに左右されませんし……大体、これまで御育てになられた子どもの方々は血も繋がってないですよね?」

「俺の気分の問題だよ。あー……呪具なし、魔力なし。それで第1世界最高の魔法大世に行くのか俺は……いいねぇいいねぇ。楽しくなって来た。」


 月美が何か言いたそうにしているのを無視して今村は魔力の球体以外で僅かに残していた自分の全ての魔力を使い果たして別世界へと向かわせていた森羅万象破壊丸へと飛んで行った。




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全盛期、相川だった頃を書く作品です
例外者の難行
例外者シリーズです
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