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例外者の異常な日常  作者: 枯木人
第二十六章~魔法大世へ~
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4.見せたい物

「マキアさん。ちょっとお見せしたい物が……」


 今村が仕事を片付けている頃、さとりはマキアの下に行って薬品を売りつけようとしていた。マキアは部屋に現れた存在に対して筆をおいて一度その薬品を手に取ってから返して無言で先を促す。

 それに対して覚は言われずとも自らセールストークを行った。この薬は今村が作った健康促進剤であり、ここから発展することも可能だと。嘘のラインには入らないように細心の注意を払い様々な誇張を行う。


 その間、マキアは薬品の鑑定と自分の懐状態について考えていた。


(……この前、合体の為の宝石を作るためにこれまで溜めて来てたお金を全部使ったんだよなぁ……全員の分担金になったけど、全額返してくれたのはまだお猫さんとみゅう様くらいだけだし……)


 かなり高額の買い物だったので一括で払ってもらうと他のメンバーは破産してしまうのだ。現在高給取りになっている白崎でさえその金額には血の気が引いていた。


(確かに、この薬品は先生が作ったみたいだけど……視た感じ力はあんまり強くないしなぁ……何か良く分かんないし……ちょっと気になるのは虹色勿忘草が入ってることかな……あれってかなり貴重でこんな性能の物に使う薬草じゃないはずなんだけどなぁ……)


 覚のセールストークを聞き流し、独自の解釈を付けつつこの虹色勿忘草が持つ効能からこの薬品の本来の用途を探るマキア。

 それに対して覚はマキアが終始無言であることにイライラして来てこの薬品を売るために切札的な言葉を口に出すことに決めた。


『これはあなたたちが記憶をなくすと聞いて今村さんが作った……?』


 マキアが飛びつくであろう言葉を口に出した覚は自分が言おうとした言葉が振動としても念話としても繋がっていないことに気付いて首を傾げる。そして直後にその後ろに今村が現れた。


「オイ。」

「ひっ!」

「余計なことするな。いいか?次はない。死にたくなければ黙ってろ。」


 首根っこを掴まれて持ち上げられる覚。必死にもがくことで持っていた薬品が落下する。今村はその薬品を見て覚を掴んでいる手の力を強めた。


「これを、こいつに売ろうとしたのか?」


 訊かれても覚は気道を潰されている上、もがくので必死で何も言うことが出来ない。そんな覚から目を離してマキアに今村は目で尋ねた。


「あ、はい。何か健康促進剤って聞いてるんですけど、先生の唾液が入ってるらしいから値段を吊り上げて来てるんですよ。」

「……唾液は入ってないからな?つーかそれはマイナス要因だろ……まぁいいや死んだみたいだし後で反省しろ。」


 覚を適当に投げ捨てて乱暴に白魔法をかけて時間差で復活し、直後に彼らの家に転送するように設定した後、彼がここに再び入ることのないように侵入許可書を取り消した。


 そして床に転がっているアンプルを消し飛ばすと今村はマキアの方に顔を向ける。


「邪魔したな。」

「先生に対して閉じる物を私は持ち合わせてませんよ。いつでも来てください!当然ながら先生限定で股も大開放中です!いつでも来てください!」

「それは閉じてろ。じゃあな。」


 今村が消えた後にマキアは手の中に持っていたアンプルAと書かれた覚から一度渡された時点ですり替えておいた小さな試験管を手の中で弄び振ってみる。


「……これ、何なんですかね……あんまり他人には見せたくない、もしくは売りたくないモノみたいですけど……覚にはあげてたみたいだし……私たちに……?虹色勿忘草が……まさか?」


 マキアは虹色勿忘草の効能と今村の態度から最悪の想定を行ってそうでなければいいのだがと思いつつも筆を進めながら思考を早める。


(仮に、そうだとすれば……このアンプルは是が非でも手に入れておくべき物ね。1人前しかないけど……ここまで完成してればギリギリ……多少無茶して時間をかけ続ければ、私でも記憶の特効薬は作れる……予想が外れてればいいけど……)


 外れていれば笑い話で済む。だが、もし今彼女が考えていることが実際に起こるのであれば悲嘆どころでは済まないのだ。


「……最近は、結構上手く行ってたと思ったんだけどなぁ……ダメかぁ……」


 一度悪い方に想像が行ってしまえば幾らでも材料が出てくる。マキアは溜息をついて泣きそうになりながらこの薬品の続きを作るための資金の入手方法を考えた。


(……うぅ……やっぱりこれしかない……折角綺麗に撮れたのに……せめて今晩はいっぱい使お……コピー取れたらいいのになぁ……)


 そして、彼女は非常に渋々と言った態で、涙目になりながら今村の写真を手放し、売ることに決めたのだった。














(さて、薬品は消し飛ばしたからもう大丈夫だろ。あの薬は基本的に希少種の薬草とか、妖草の栽培方法が確立してない種とか、外界だと絶滅種の毒草が大量に入ってるし、誰かが作ろうとしても材料を集められないからな。それに忘れたくない対象の血液も要るし。)


 今村は覚を処分してから自宅に戻っていた。外から堂々と多くの神物たちが訪問してくることは多々あってもここだと急に空間を裂いて誰かが来るということはない。


「……怪しまれないように、そして余計なことを考える暇を与えないようにバランスを取らないとなぁ……」


 現在も引っ切り無しに鳴っているインターフォンの音に今村は嫌々その場からローブを動かして外にいる人物を招き入れる。


「お兄ちゃーん!」

「パパー!」


 廊下を駆けてこちらにやって来たのは白銀のツインテールを持つ絶世の美幼女ことみゅうと今日はその艶やかな長い黒髪をサイドバックから編み込み、淡い水色のリボンで結んだ髪型のクロノがこちらに飛び込んできた。


 今村は飛び込んできたその両者にワンテンポ置いてカウンターを綺麗に叩きこむ。


「かはっ!」

「みゃっ!」

「開けたドアは閉めろ。お前らが閉めなかったからもうシメたが……」


 頭に強い衝撃を受けて地面を転がる二人を雲の欠片の上で寝転がったまま見下ろしながら今村はローブを元に戻して二人に何の用で自分の家に訪ねて来たのか尋ねる。


「別に用事はないよ……?」


 比較的痛みから早く立ち直ったみゅうが何を不思議なことを言ってるんだろうこの人は……という目で今村を見ながらそう言った。


「会いたいから来てるんだよ?パパだって別に何もなくても言われなくてもご本読むでしょ?そこにスンマとか転がってるけどみゅうはそっちの方が意味わかんない。」


 みゅうの反論に今村は少し考えた。このスムマはパチョーリと言う人が書いた楽しい数学大全なのだがどうにも理解してもらえなさそうだ。そんな今村とみゅうの間におでこを抑えながらクロノが入って来てみゅうに尋ねる。


「おでこ赤くなってないかなーお兄ちゃんに恥ずかしい顔見せられないからすぐに治したんだけど大丈夫?」

「うん。」

「……これ数学大全って名前付いてるけど、どちらかと言えば会計学の生みの親的な……簿記を初めて体系化した本なんだが……それを考えると実学的な話もあって面白いと……思わないみたいだな。」

「うん。」

「何言ってるのか分かんない。」


 外見でも10歳前後にしか見えない二人にこんな話をしていても今村の方にも違和感が生じるだけだ。


「んー……でもこれは偶々読んでただけで別に好きと言う訳じゃないから別のおすすめ……スムマはスムマでもスコラ哲学の方のに……」

「そんな事より遊ぼ?」


 今村がまた別の本を「でもこれ未完なんだよなぁ……」と言いながら出すのをクロノは遮って体を押し付ける。そんなクロノから一歩引いたところからみゅうが今村に尋ねた。


「読んだらチュー?」

「あ、じゃあクロノは抱っこしてもらいながらお膝の上に載せてくれるならそれ読む。」


 両方とも嫌だったので適当に過ごさせることにして今村は適当な文庫本を出して読み始めた。それに寄り添うような形でクロノとみゅうも各々やりたいことを始めてその後はまったりとした時間を過ごした。






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全盛期、相川だった頃を書く作品です
例外者の難行
例外者シリーズです
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