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例外者の異常な日常  作者: 枯木人
第二十六章~魔法大世へ~
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2.写すモノ

「……ひとくんがいないので会議にしましょう。」

「議題は?」


 今村とさとりが別の世界に行っている間に「幻夜の館」の女性陣たちの実力者トップ層は火傷の治療や仕事などを終えて集まっていた。


「ひとくんが楽しいって思える感じの何かを企画すること!もうすぐバレンタインだからそれに因んだ何かとかどうかな?」

「そうですね……最近、先生は機嫌がいいみたいなので私も嬉しいです。」

「ぎゅってしてくれるし、クロノも楽しいからお兄ちゃんをもっとにこにこさせたいな~」


 様々な思惑がある中、会議は進行する。その中にはイヴや白崎もいたが二人は全体の中で微妙な距離感にいるので発言はしないようだ。


「えっと……前に予想外の出来事が好きって言ってたよ?」

「あ~先生って何かあると笑いますからね~写真見ます?」

「え?あるの?見せて見せて。」

「ここで出したら燃やされるので後で私の部屋に来てください。」


 今村は誰かが自分の姿を写真に写した、もしくは写そうとした場合にデジタルカメラであればデータを、アナログの物であればネガを、魔術式であればその根源術式を燃やすように術式を組んでいる。


 だが、マキアはそれを自室に限って解除することに成功していたのだ。それにより自室から写真を撮ることは可能になったので望遠で写真を撮っていた。


「いや~1枚だけでいいんでお守り代わりに欲しかったんですけど……1万枚に1回ピンボケでも姿が写ればいい方という……もの凄いことに……アレって何なんでしょうね?」

「と、盗撮は……ダメです、よ?」

「だって頼んでもダメって返事しかないんですもん……魂だって盗ってませんし、絶対に表に出さないから少しくらいいいじゃないですか。」

「今まさに見せびらかそうとしておるように見えるのじゃがのう……」

「ねぇ、話戻そうよークロノお兄ちゃんが喜んでくれることしたいー」


 話が脱線していた一行がクロノの声で会議に戻る。そこでふといつもであれば言われずとも司会をしていた祓が何か考え事をしており、何も言っていないことに気付いた。

 祓は視線が集中しているのに気付いて顔を上げる。


「あ、いえ……先生にとってのバレンタインでの予想外って何だろうなと考えていまして……何をあげても想定内という返しが帰ってくるので……」

「そうですね~仁さんって貰い慣れてますからね~……バレンタインもお菓子交換会みたいな感じですし~……」


 こちらからどれだけ気持ちを込めて贈っても向こうは事務的に返している感が凄いのだ。というより、今村にとってバレンタインは呪いと負の感情を集める日であってお菓子を貰いたいと言う感情は薄い。


「……チョコレートの像は作ってる途中で怒られましたし……」

「クロノね。はだかんぼになってリボン巻いて行くと最高って聞いたからそれで行ったらね。怒られた。」


 ちょっと常識が漫画に毒された二人がため息をつく。


「手作りでも先生の方が上手いんですよねぇ……料理が本当に愛情で決まればいいのに……」

「全員チョコレートの中に入ってみるとか……」


 ああでもないこうでもないと話は続く。そんな中、全員の常識を根底から覆すような発言がみゅうから繰り出された。


「いっそ、逆にあげないとか……」


 全員の背景に稲妻が走るかのような衝撃が訪れる。次に出された言葉は


「……ま、間違いなく……あり得ないことよね……」

「よくそんなこと考えつきましたね……正気ですか?」


 何か色々と間違えた言葉だった。そしてこの案は少し考えられた後に今村であればこれが当然とでも言って普通に喜んでどこかに出掛けそうだということで棄却された。













 「幻夜の館」で愉快な会議が繰り広げられていた頃。


 温かく暗い場所、寒く明るい場所、薄暗く寒い場所、明るく暖かい場所、また力の働き方や魔力濃度が異常であったり気迫で合ったり、その他にも様々な特色を持った空間を無理矢理寄せ集めて繋ぎ合わせたかのような印象を受ける世界に今村と覚はいた。


「逃げんなよ?『黒魔の卵殻』が消えた瞬間お前はこの世界に適応できなくて死ぬからな。」


 周囲の光景に戦々恐々としている覚に今村は一応釘を刺しつつ薄暗く涼しい空間へと向かっていた。


「な、何をするんだ……僕をどうする気なんだ……?」

「まぁ危険はないよ。……適切に使えば。」


 付け加えた言葉は覚の耳に入らないほどの小さな声で笑顔で答えた今村は移動先である空間の何もない所に手を掛けて呪文を呟き、その空間を開いた。


 その空間の中に在ったのは古ぼけた洋館のような、外壁中に蔦が這っている巨大な屋敷だ。そしてその付近には様々な知的生命体と思われる者たちのなれの果てが転がっている。


「……何度も言うが、逃げるなよ?今更逃げたらその瞬間にこの植物に食い殺されるからな?」

「…………大魔王からは逃げられないから諦めてる……」

「……まぁ、俺が何だろうと別に良いが……」


 そんな会話をしながら屋敷に入ると不思議なほどに澄んだ空気が二人を向かい入れる。そんなことを意にも介さない今村に続いて覚もその屋敷の中へと入って行った。


「あ、ここから先は俺の後に続け。トラップが多いから死ぬぞ。」

「碌でもないな本当に……」

「口封じと過去の仕返しに殺されないだけマシと思え。」


 迷うことなく移動していく二人。途中で宝石を埋めて像を動かしたり暗号を入れたりしながら目的地に着いた。


 そこには金色の装飾で縁を彩られた巨大な鏡が厳然と飾られていた。


「……確率過程並行演算式魔玻璃鏡。」

「お前なんでこれの名前知ってんの?一応これを俺が創ってからは秘匿してたんだが……まぁご丁寧に正式名称じゃなくて魔玻璃鏡でいいよ。」

「……この鏡が、意思を持ってるから分かっただけですよ……」

「じゃあ使い方はこいつに訊け。」


 説明が省けていいと今村はその場から少し外れる。その間に覚はこの鏡の使い方、そして何をするのかを頭の中に入れた。


(……平行世界に在り得た可能性を見れる物ってことでいいよな……しかも一々抽出する必要もなく、本人が思った物を鏡の方で解釈し、それに最も近い世界を見せて、その確率を見せるという……)


「終わったみたいだな。」


 1分足らずの間に分かりやすく心の中で整理してくれた魔玻璃鏡に感謝の念を抱く覚の下に様々な物質を持った今村が帰ってくる。そして鏡の他には何もなかったこの空間に長机と実験器具を出すと覚に言った。


「これであいつら……『幻夜の館』の面々の幸福な世界を見て来てくれ。」

「……そのためだけに僕を?」

「……俺は少しずれてるから他者の意見を入れてみようと思ってな。」


 少しどころじゃないと言いかけた覚だが、何をされるか分かった物ではないのでそれを飲み込んで目の前の鏡に手を触れてみる。


 初めて使うそれを見て何となく覚のテンションは上がる。そんな彼に今村は一つ付け足した。


「あ、ついでに2~3個程度なら自分の好きな物見て来てもいいから。」

「行ってきますよ。」


 そして覚は鏡の世界へと入って行った。残された今村はこの部屋に持って来ていた物質の内、まずは植物に手を付けて呟く。


「……仮に、どうしようもなかったら……俺が何とかしないとな。まぁないとは思うが。」


 静かな部屋の中には磨り潰される植物の絶叫だけが響き渡った。





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全盛期、相川だった頃を書く作品です
例外者の難行
例外者シリーズです
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