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例外者の異常な日常  作者: 枯木人
第一章~最初の一年前半戦~
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5.訪問客

「はっは。こりゃいいねーどれ、飛髪操衣ひはつそうい!」


 目の前で何が起きたのか未だ理解できずに惚けている理事長の前で今村はローブを動かしまくる。高速でそれを動かして今村は操った感触を確かめた。


「うん。問題なし。これで作業も捗る……ん?」

「よぉ大将元気か?」

「……久し振りだな……」

「元気そうなことで。」


 ローブに気を盗られていた今村が気付くと目の前にタイプの違う絶世の美男子たちが三人現れていた。その姿を見て理事長が固まるが今村はそんなことを全く気にせず三人に片手を上げて軽く挨拶する。


「よーガキ共。」


 そんな今村の言葉に理事長は顔を青くする。


「いっ……今村君この方たちは『星海神』イグニス様と『創造神』トーイ様そして『武威神』タナトス様と言って……あぁ、とにかく頭を下げなさい!」

「ちょっ……テメ、その名前は……」


 美青年の一人が理事長を止めるがそれを聞いて今村は爆笑し始めた。


「あっははははははは! 何それ! でらウケるでな! え? お前ら何したんだ? 言ってみろよ。」

「……ちょっと……な……」

「うん……」

「あぁ……」


 三人とも方向は別々ながら顔を背けた。今村はそんな三人にものすっごく底意地の悪い顔を浮かべて絡む。

 その話題を続けられるのが嫌で三人の内、長く降ろした銀髪に銀色の目をした神が作り出した彫刻のような美しい顔をした男―――イグニスが強引に話題を逸らす。


「それにしても大将……顔……どうした?」

「生まれつきだバカヤロー」


 突然の侮辱に今村は間髪入れずに言い返した。それに納得いかないようにイグニスは言葉を選んで続ける。


「いや……実際気になった。前世との共通点が黒髪黒目と死んだ目ぐらいしかないぞ?」

「目ばっかりじゃねーか……まぁこの辺はアーラム任せだったしなぁ……正直見た目とかどうでもいいし目と鼻と口ありゃあなぁ……後、まぁ諸事情で普通の顔になった方が良いかなって……」

「……アリスさんは何て言ってた?」


 イグニスの何気ないその言葉に今村はまた歪んだ笑みをして更には口元を思い切り吊上げた。


「姉貴の様子が気になるか?」

「あぁ今更隠し立てはしない。」


 真正面から言い返すイグニスに今村は面白くなさそうに答えた。


「ちっ狼狽えやしねぇ……つまんねぇの! 姉貴のことなんざ知らん。俺の転生前にこっちに来る予定だったんだが土壇場で消えたしな。」

「……? どういうことだ? 何かあったのか!?」

「見つけましたよ!」


 喰ってかかるような剣幕になったイグニス。しかし話の途中で急に女の声が響いた。その可憐な声を聴いて何故かイグニスは固り、今村は何事かと辺りを見渡す。


「ん? 誰だ?」


 その声を合図にしたわけではないだろうがその場に様々なタイプの美女が現れた。


「おー何かこんなに美男美女がいると何となく凹むな。」


 そんな彼女たちを見て周囲を見たこの場にいるただ一人の不細工、今村はそんな感想を抱くことになる。


「イグニス様? 帰りますよ?」

梨姫りき……」


 項垂れて手を引かれるイグニス。今村は新しい玩具を見つけたようにイグニスに絡み始める。


「ねえねえ? お前ハーレム築いちゃったの? うっはマジウケる」

「ちょっ……頼んます! アリスさんには言わないでください!」


 焦った声で言うイグニス。そんなイグニスの言葉に美女たちは固まった。


「……イグニス様? その名前はどう考えても女性ですよね……この件は、家に帰って……ゆっくり、じっくりと聞かせてもらいますね?」


 梨姫が底冷えする声でそう言うとイグニスは瞬く間に拉致された。それに伴い美女たちも消える。それを指さして見てニヤニヤしていた今村は次いで別の問題について触れる。


「で、タナトスはそれ誰?」


 今村の視線の先にいる黒髪に黒曜石のような眼をした線の細い美青年タナトスも美女に迫られていた。その美女は今村に誇らしげに自己紹介をする。


「私は寧々と申します。タナトス様の……家内でございます。」

「いや違うからな!」


 寧々と言った美女の声にすぐに否定するタナトスだったが今村はそんなことは気にしない。


「そうかそうか。あんなに小さかったタナトスももう世帯を持ったか……オジサン行き遅れの気分だよ。」

「違うっつってんだろ!」


 口に歪んだ笑みを浮かべながら涙をぬぐう動作をする今村。タナトスは声を荒げて反論するがもちろん今村は聞いていない。


「寧々とか言ったな? タナトスはしっかりしているようでどこか抜けたところがあるから気にかけてやってくれるかな?」

「はい! あなた顔は崩壊してますけどいい人ですね!」


 今村の言葉に嬉しそうにする寧々は今村の言葉に暴言で答えた。今村は少し考える。


「……人か? うーんまぁまだ、組成は人か。」

「突っ込むところそこか?」

「中学のころはもっと酷いこと言われてたぜ? あー可哀想な俺。」


 今村はそう言い、タナトスがすぐに突っ込みを入れる。そんなタナトスの言葉に今村は矢張り歪んだ笑みを浮かべて言い返す。するとタナトスは軽く目を伏せて言った。


「……言った奴に同情するよ。」

「おいおい俺にしろよ」

「……まぁいいや。とりあえずこれあげるからアリスさんには……」


 そう言ってタナトスは今村にわいろを一冊渡した。今村はそれを見て首を傾げる。


「んー? 何だこりゃ『仙人道人せんにんどうじん』?」

「今俺の所で預かってるやつが書いたんだがなかなか面白くてな……現状写本のそれと原本の二冊しかないから……ってぇ!」


 表紙を読んで怪訝な顔をする今村にしたり顔で説明するタナトス。そんなタナトスは明らかに女の名前とわかる名前を口にしたことでなかなかユニークな自己紹介をしていた寧々に耳を引っ張られた。


「タナトス様浮気ですか? 浮気でしたら……」

「浮気も何も……」


 タナトスは最後まで自分の台詞を言うこともなく笑顔で般若の化身を見に宿した寧々に連れられて消えて行った。


「愉快なやつらになったなぁ……で? トーイは何で隠れてるんだ?」

「……ノーコメントだが……誰か来ても……いないと言って欲しい……」

「ふーん。育ての親にそんな口の利き方する奴の言うこと何か聞きたくないんだけどな~」


 今村はニヤニヤしながらそう答えた。


「え、これ……あなたが第3世界を治めるんだから偉そうにしろって言ったから無理矢理こうしたんですけど……戻していいんですか……?」

「そうだっけ? まぁいいや。じゃあ戻さないで。それよりお客さんだ。」


 そこにまたも美女達が現れた。


「あっはっは! ここまでやるか! 世の中不条理だよねー! だが、それでいい。そうじゃなきゃ面白くないよな~」

「そこの! トーイ様はどこだ!」


 今村が美男に美女がいっぱい付くこの世の悲しみを笑って誰かに同意を求めていると赤い服を着た苛烈そうな吊り目の美少女が強い口調で聞いてきた。


 今村は元気よく言い返す。


「知らん!」

「ここにいるのはわかってるんだ! しらばっくれるなら……殺すぞ!」

「あー怖いなー」


 本物の殺気を受けてものすごく適当な声で応じる今村。それを挑発とみなした赤服の女は怒りのボルテージを上げた。


「貴様っ!」


 だが次の瞬間彼女の目の前と喉元には今村の硬質化したローブの槍が突きつけられていた。


「殺す? やってみる? やってみろよ。あははははは! はー……音速越えて本を汚してしまった……最低だ俺……」


 高笑いをしたかと思ったら急に落ち込み始めたテンションを乱高下させる今村に赤服の女は狂気を感じて息をのんだ。


 そんな彼女に代わるようにして黄色い服を着た垂れ目の美女が今村に声をかける。


「ごめんなさいねぇこの子血気盛んなのよ……」

「あっそ……あー本に対してなんてことをすぐに直さにゃならんのう。あ、因みに言っとくけどお前が今やってることも無駄だからなー」


 頭の中が本のことしかない状態で話半分といった今村の言葉に一瞬女の声が揺らぐ。


「何のことかしら……」

「俺に魅了(チャーム)は効かないってこと。マジ無駄。」


 女は少し固まった後すごすごと引きさがった。今村はそんなことを気にせず棚の残骸を被った本の方を一心に見ている。


「仁様……なのですか?」


 そんな中の一人が今村の名を呼んだ。今世に入って呼ばれ慣れていないその単語を聞いてようやく今村は本から目を離す。そして名を呼んだ美女の方を見た。


「おーブラコンエレボスじゃん。」

「何か一つの名前のように変な冠詞を足す……やっぱり仁様ですね顔は変わってますが……」

「顔顔うっせーなー」


 今村が軽く面白くなさそうにそう言うとエレボスと呼ばれた美少女はすぐさま顔を青くさせた。


「すっ……すみませんっ! いえ、誠に申し訳ありません! お気を悪くなされないでください!」

「んー……まーいーよー」


 ものすごく適当な今村に怯えるエレボスを見て周りの美女たちは目を丸くしている。エレボスの焦った顔を初めて見たようだ。


「あ……あの……エレボス様? この人って……?」


 赤服の美少女がエレボスに尋ねるとエレボスは高速でレスポンスを返す。


「機嫌を損ねたらこの世界は終わる……いや、この世界だけで済めばまだいい方ですね……」

「おいおい俺を何だと……」


 今村が苦笑交じりにそう言うとエレボスは真面目な顔で答えた。


「紛れもないあるがままの仁様ですが……?」


 あまりにも当然といった風に言うエレボスに赤服の美少女が確認する。


「え……三男神様が治められていてもですか……?」

「まず、この方に3方が敵対することが考え辛く、この方が気に入らないから滅ぼすと言えば全員で滅ぼしにかかると思いますが……仮にイグニス様や、トーイ様、タナトス様が戦闘に入ったとしてもこの方に比べれば危険度ゼロです。」


 何を当然のことを聞いているのかという風に答えるエレボスに当の今村が困ったように軽く頭を掻いて反論した。


「……そんなこたぁねぇと思うんだがなー今なら、起きたての今ならトーイの方が強いんじゃね?」

「……それはない。」


 突然今村の後ろで低い男の声がした。今村は呆れたように声のした方を見る。


「……何で黙ってたのに出て来た?」

「……いや……あまりのことに思わず……だが、これだけは言わせてほしい。それはない。」

「えーお前までそんなこと言うのー? そんなこと言われるとなー割と傷つくんだぜー? ……まぁそんなことはどうでもいいんだ! それより言いたいことがある!」


 今村は楽しげにトーイの方を見ながらトーイに言った。彼は首を傾げてその言葉を待つ。


「……何だ?」

「トーイ……お前もか!」


 一番の腹心に裏切られた統治者のような声を出し、軽めのドヤ顔の後に笑う今村にトーイは怪訝な顔を浮かべて続く言葉を待つ。


「……どうした?」

「じゃあそんだけーじゃあな!」


 それを合図とみなしたエレボスが美女たちを動員し、トーイも美女に連れられて消えて行った。そんな光景にポカンとする二人に今村は言う。


「んじゃまこんな感じでよろしく。」


 理事長の顔は引きつっていた。それを無視して今村はその日中魔術書を写し続ける。




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全盛期、相川だった頃を書く作品です
例外者の難行
例外者シリーズです
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