17.探り探り
「【雷竜時空神】様……」
「……小娘共か。」
旧神が一柱、竜の支配者である時空竜の治めるその世界、そこに今の世を治める原神が2柱現れた。竜神はその2柱を天蓋付きのベッドで横になったまま気怠そうに見た後に興味なさそうに寝返りを打った。
そんな自分たちに興味がなさそうにしている竜神に対して原神が1柱、滅世の美幼女である【無垢なる美】ことセイランは一歩前に出て果敢に尋ねる。
「お兄様は、【魔神大帝】は、如何でしたか?」
「……あやつか。フン……まぁ、少し、大変なことにはなっておったわなぁ。」
機嫌を損ねれば殺されてもおかしくないのを自覚しながら尋ねてきたセイランの意気を鼻で笑い、そして正直に彼女が会った【魔神大帝】の様子を答えてみせる。
その返答に色めき立ったのはセイランの姉である【可憐なる美】ことミニアンの方だ。
「大変なこと……?【雷竜時空神】様が、言う程ですか!?」
「そうじゃ。我が盗って来たが……まぁ、これは時間稼ぎに過ぎん。」
話をする気になった竜神はベッドから身を起こして全裸のままでミニアンとセイランと対峙する。
「名前を言うと、我が喰ろうておるこれが目覚めるかもしれぬから答えは出せんが……小童は、文字通り化物じゃ。我から見てもな。まぁそれでこそ我が伴侶と言えるのじゃが……」
そう言って竜神は満足気にうむうむと頷くがその言葉だけでは納得いかないのがミニアンとセイランだ。
だがそんな両者が何か言う前に竜神は続ける。
「奴の能力は、一般的に伝わっている物とは違う。いや、ある意味正しい物かも知れんが……まぁ、詳しくは言えんが……取り敢えず非常に危険なものじゃ。それこそ自らを死に至らす……」
「なら本人にそれとなく注意を……」
「ダメじゃ。」
竜神はミニアンの言葉をはっきりと拒否した。何故と目で訴えて来るミニアンに竜神は溜息をつきながら答える。
「これを使うと、強く……それこそ世界最強になるのじゃよ……どれだけ危険でもあやつであれば……」
「嬉々として使おうとしますね……」
「と言うより、そんなのがあると知れば即座に解析に乗り出しそうだね……」
あまり自らの命を大切にしない今村のことを憂いて溜息をつく一行。その話の流れで竜神は思い出したように付け加える。
「因みにの、今は我があやつの能力を喰ろうておるからあやつは生きようとするが……その代わりに感情を抑圧する部分が減っておるから活動が非常に活発化すると思うぞ。」
「生きてくれるならいいんで……え、それって……大丈夫なんですか……?」
「……それは……まぁ、我などは大丈夫じゃが……主らはどうかのぉ……うむ。対策はしておいた方がいいとは思うぞ。能力は盗ったが、小童は我と会った時……主らと会った時とほぼ同時期の、全盛期の力を持っておるからの。」
その言葉にセイランが慌て、ミニアンも動揺した。彼女たちは今村があの手この手で色々としてくることを嫌と言うほど知っているのだ。
「お、お姉様!術の強度を上げましょう。ご褒美カードが……」
「ら、【雷竜時空神】様……もう少しそれは早く言っていただければ……」
「んむ……じゃが、それよりもこっちの方が色々問題がある物じゃからのぉ……仕方ないと思うのじゃ。それと。」
慌てて帰ろうとし始めるセイランとミニアンを竜神は能力で強制的に止める。それはすぐに破られるが、様子を見るために二人は場に留まった。
すると竜神は真面目な顔になってから口を開いた。
「我が権能で占ったところ……まぁ小童を占うと非っ常に不明瞭で分かり辛い上に抽象的なイメージしか来んのだが……一応伝えておく。
『滅びによって失われし祝福に、表裏一体の剣現れ其を呼び出す。彼の者嗤いてその子たる若き勇を見据え、全てを喰らう魔を鎮め、亡びを迎える。その闇に誘われし星々よ、虚ろになりし者の休める時に瞬くこと。大輪の花咲かさばそれこそ唯一の道なり。』
……まぁわからんじゃろうが……この文言だけが我らの唯一の道であることは間違いないようじゃ。」
「……大体わかりました。少し分からないところもありますが……まぁ、その部分はちょっとだけ楽しみにします。」
「うぬっ?教えてくれんかの……」
予想外だったらしい竜神が、いつも真面目にしている顔を少し悪戯っぽく笑っているセイランに少し驚きつつ尋ねるとセイランは分かったと答えようとして息を吸おうとして吐いた。
「っ!すみません!お屋敷の方にお兄様がもう来てるので失礼します!」
「早いよ!セイロン、テレポート!」
「はい、お姉様!」
堂々と偽名を名乗ってミニアンとセイランはこの世界から脱出した。それを呆然と見送る竜神は先ほどから強烈に感じていた眠気に抗おうと独りごちる。
「バカ者が……我は、奴の能力を喰ろうたせいで……その時、まで強制的に眠りにつかされ……この世界……閉じ…………」
だが強烈な眠気は竜神の機能を無理矢理停止させに掛かり始めたので竜神は外敵の侵入を防ぐためにこの世界を閉鎖空間にして長い眠りについた。
『お、よぉ。』
「き、来てくれて嬉しいよ?……そ、それで、どうしたのかな?」
『どうでもいいけどセイランは降りてくれないかな?』
今村が来る少し前にテレポートで屋敷に戻ったセイランとミニアンは現在今村が来た途端に子どもモードになったセイランが濃厚にキスをしたまま離れないという事態に陥ったまま玄関にいた。
『やぁー!』
我儘を言うセイランを無言で投げ飛ばして今村は笑顔でミニアンの方を見た。
「さて、ちょっと……【勇敢なる者】をぶっ殺したいから呼んでくれない?」
「……安全に、君の心身に一切の心配がないなら呼ぶ。」
「一切の心配がないとかそんなこと言い切れるわけないじゃん。やっぱりあいつのことが大事だから呼べないんだろ?」
「君のことが大事だから呼べないんだろ!どれだけ……何回言えばいいんだ……死ぬ気が薄れてるなんて嘘じゃないか……」
「死ぬ気?お前らが俺を巻き込んだだけだろう?さっさと呼べよ。殺してやるから。って言うのは冗談で。」
今村のへらへらしていた顔が一変して険しい顔になる。
「どこからどこまでが冗談なのか知りたいけど「お前らは。何をして、何を知っている?」……何のことだい?」
見つめ合う険しく、そして光の入っていない目と柔らかく、どこまでも綺麗な碧色の目。しばしの交差の後、碧色の目は閉じられ顔の距離は縮んでいく。
「止めろ。違うだろ?お前らは、今何をしてい……」
険しい声を無視してミニアンは自らの花唇と今村の唇との距離をゼロにした。そしてディープキスを今村に引き剥がされるまでやった後にきりっとした顔で答える。
「発情。」
「邪魔したな。勘違いだったわ。」
今村はすぐに席を立った。そして去り際に「ここじゃないか……次は独身貴族連盟の方に行くか……」と呟きつつ消える。その姿を見送ったミニアンは屋敷の一部になっているお風呂の準備をして戻って来たセイランにも聞こえないように呟いた。
「仁……君は絶対に、死なせないからね……」




