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例外者の異常な日常  作者: 枯木人
第二十五章~飛び立とう~
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15.過去と今

「るぅねと!」

「化物の!」

「「劇物及び薬物製造教室ー!」」


(………………何、してるんだろ……)


「今日作るのは弱体化、特殊薬です!」

「あるじ様ーどんな薬なの?」

「これは特定状況下においてのみ効果を発揮する弱体化薬です!あー飽きたから普通にやるわ。お前はこのまま続けろ。」

「はーい!」


 今村とるぅねはシュティの前で作業台を作って空間指定を行い、温度を一定にした情報へと吹き抜けの空間を創り出す。そして作業台には取れたての薬草や毒草、そして色とりどりの様々な果実が並んでいる。


「まず、オリドネルを磨り潰してペースト状にする。」

「オリドネルはカエンタケと同じサトラトキシンH類を液胞にたっぷり蓄えてるから注意が必要です!」

「次にナグリヒバシの粉末を過歳生薬で溶かして混ぜる。」

「ナグリヒバシはドクササコの3倍くらい強烈に手足が腫れて痛くなるから気を付けてね!」


 その後もどんどん毒物を放り込んでいく今村とそれを見て楽しそうにしながらもその生成過程をじっと見て行くるぅね。その地面は毒物の影響で草原の植物が枯れ果ててしまった。


「で、これじゃ苦いので天の甘露を入れた後に、ボツリヌス菌タイプHを入れてこれで魔術によって生体プログラムを書き換えると。」

「これ、生薬なんだね~」

「ある意味な。今入れた奴らは放っておいたら毒性を中和しやがるから魔術式が必要なんだが……結構面倒。」

「るぅね書くよ!」


 魔法陣を描くるぅねを見てシュティは文字は書けないのにこれはすらすら書くのか……とこちらを見ないるぅねにジト目を送るがすぐにやめて空を見上げて欠伸をする。


「そして俺の血を一滴入れると完成。」

「美味しくなさそう!それにあんまり毒が強くないよ?」

「……今回のは別に暗殺とか毒殺用じゃないし……お前物騒になってるよなぁ……シュティの所為かな?」

「濡れ……衣……」


 空に猛毒の煙が上がっているのを何となく眺めていたら濡れ衣を着せられかけていたので否定するシュティ。それは兎も角と今村はその薬物を生成し終えて溜息をつく。


「これで、追いかけっこは終わるかな?」

「終わらんのう……ようも寝させおったな?」

「!」


 瞬間、空間が爆ぜた。それに伴いシュティとるぅねが警戒態勢に入り今村も戦闘モードに入る。


 降臨して来たのは艶やかな黒曜石を思わせる鱗を持った竜だった。それは今村を視認した時点で人型になると同時に視界に入った実験台を見て鼻で笑ってそれら全てを破壊する。


「のぉ、小童。選択肢を与えよう。我の奴隷になるか、死ぬか。」

「あ、あるじ様ぁ……あの女の子って……何ですか……?よっぽど危険なのに手を出しちゃったんですかぁ……?」

「我を指すでない。塵芥風情が……」


 今村の返事を待たずしてるぅねは角や尻尾、それに羽を持ったダークブラウンの肌の色をした幼女に弾き飛ばされて機能停止した。


「りゅ、竜神……?な、何で……」

「おや、肉があるなぁ……昔みたいに、喰ろうてやろうか……?」


 不敵に笑う幼女、その姿にシュティはトラウマを刺激されたようで完全に戦意を喪失してその場にへたり込む。


 そして立っているのは今村、そしてそれを見降ろす形で空を飛んでいる竜神だけとなった。彼女は蠱惑的に笑うともう一度尋ねる。


「小童、今すぐ許しを請えばペットになるだけで許してやろう。だが、拒否は即ち戦争となることを思い知れ。」

「保留は?」

「ナシじゃ。選べ、結婚か、死か。」


 だんだんグレードが上がって来ている気がするのでもう少し時間を稼ごうか考える今村。だが相手はそれを許しそうにない。


「け、結婚するとして……」

「む!結婚かぁ……そうじゃな。うむうむ。ならば許そう!昔、鱗を毟ったこともその後封印したことも、そしてまた睡眠薬で昏睡させたことも!」


 今村の仮定の話に竜神は顔を輝かせて何度も頷いた。だが、今村には続ける言葉がある。


「今すぐなわけ?」

「そうじゃが?何か問題でもあるのか?」

「色々……例えば、竜神さんが興奮して本気で抱き着いて来たら俺死ぬんだけど。その他にも魅了されたら堕ちるし……」


 竜神はその言葉に首をこてんと傾けて想像してみた。


「むぅ……それは、困るの……」

「でしょうね。ところでこの状態なら俺にも戦い方はあるんですよね。」


 話を180度変えた今村はこの世界を改変して自らの力を完全にコントロールして竜神と真っ向から対峙した。その様子を見て竜神は軽く目を細めた。


「……小童が……我に勝てると思うておるのか?」

「いや……この状態でもよくて20%程度ですかね。」

「ふん……そんなにあるわけがなかろうに。じゃが……抵抗程度は出来るらしいな。無駄じゃが……」


 竜神は自らは動くまでもないとばかりにその場で術式を起動して今村を攻め立てる。暴虐的なその攻撃は最初の一撃で世界の運行を狂わせた。


「なぜそこまで我らを拒むか……主が束縛を嫌うのは分かるが、案外悪くないかもしれんぞ?寧ろ、極楽の生活を約束しよう。」

「はっ……それなら、そっちの方が大問題なんですけど、ね……俺は……俺が、そんな環境に居ていいわけがない……」


(ってーな……こいつ、マジで化物だ……白髪鬼を使うしかないか……?)


 油断している今なら白髪鬼を使えば勝てる見込みはある。だが、それは例え勝利しても死ぬという勝ちのない戦いだ。

 一応、現在は竜神の攻撃は止まっている。その間に出来るだけ回復を行うために息を整えた。


「そんな環境に居ていいわけがない……?小童、主は何を言っておる……?我は主をいい加減に劣悪な環境から出したいという意味で……言葉通りの言っておるのじゃぞ?主は、客観的に自分の生活を考えたことはないのか?」

「人が見る限りそこには主観が付きまとう物だろうが……」


 竜神は憐れむような目で今村を見た。


「なら我が言ってやろう。最悪じゃ、主の生活は。全て目的のためだけに費やしている。そこに娯楽の時間がわずかに入るものの、主が自称する【飽くなき娯楽の探究者】とは名ばかりの地獄の生活を行っている。」

「……勝手に人の生活を最悪呼ばわりしてくれるとはね……」

「事実じゃ。」


 竜神は断定し、続ける。


「主は、すべて自分でやろうとしているからのぉ……頼れば、簡単に目的も達成できるというのに……」

「俺は、独りだからな。それに、仮に俺の生活が最悪だとしても……最悪な奴の生活としては丁度いいだろう?」


 今村は嗤った。先程の防戦分の回復は済んだ。だが、竜神は何も仕掛けてくる様子はない。ただ、悲しそうに質問して来た。


「小童……いや、今村、仁よ。主は何故そこまで自分を追い詰める?世の中はもっと許しと愛に満ちているぞ?」


 竜神のその言葉に今村は思わず吹き出した。そして嗤いながら、目をギラギラさせて言葉を返す。


「少なくとも、俺は許されないし、愛される資格もない。それに、如何にこの世に愛が溢れようとも、俺にまで届かなければ、必要もない。」

「……罪は許される。仮に許されないとしてもそれを償うことは出来る。いい加減過去に縛られるのは止めにしたらどうじゃ?我は時を統べる竜神、時空竜。主よいい加減未来に目を向けんかの?」


 差し出された手、その手を前に今度こそ今村は哄笑した。


「何を言ってるんだか……」

「過去を気にし過ぎて今もなお不幸になる人間を増やす気か小童?そろそろ目を覚ます時間じゃぞ?」

「……世界は終わりに導かれる。そして、私も死に導かれるだよ。罪は許される?そんなわけがぁ……ないだろう?罪を過去の物として生きられないからこそこの世は不幸が満ち溢れている。だからこそ楽しいんじゃないか……【殺神皇帝】」


 今村は変なテンションに入ったことで別モードに切り替わった。


「……問答が終わるまで、付きうてやろうかの……小童。じゃが、ここでは不味いじゃろう。場所を変えるぞ。」


 剣呑な目に変えた幼女と今村は第1世界の果てへと飛んで行った。




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全盛期、相川だった頃を書く作品です
例外者の難行
例外者シリーズです
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