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例外者の異常な日常  作者: 枯木人
第二章~最初の一年後半戦~
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12.辞めた

「…『αモード』使うと楽すぎて面白くなかったな…」


 採ってきた素材を早速加工しようと「幻夜の館」に帰って来た今村は戻って来るなりそう呟いた。そして実験室を開けた。


「…お、よう。」

「はい。」


 中にはすでに祓がいて今村を待ち受けていた。祓は今村を見るなり頭を下げる。


「申し訳ないです。先生を信じ切れていませんでした。」


(…あ~、暗殺の件?忘れてた。…まぁどうでもいいか。うん。こいつのおかげで色々採れたし。)


「いや、気にするな。…信じられないのも当然だろうし。」


 今村の思ってることであれば結構どうでもよくないことをスルーした今村は採ってきた素材をローブから出して加工を行おうとする。そんな今村に祓はここで今村を待っている間に決めておいた台詞を言う決心を固めた。


「あの…こっちを向いてください…少しでいいので。」

「ん?」


 今から作業に入る今村は作業前に用事は終えておきたいのですぐに言う通りにする。祓は一度息を吸い込んで今村の目を見た。


「あ、俺の目直視したら駄目だよ。色々駄目になるから。」


 今村はすかさず目を逸らすが祓は今村の方に近寄って目を逸らさない。今村は少し困惑気味に祓を見返す。


「先生…私…」

ぃ!クラーケンキングは!?」


 その時、祓の言葉を遮って金髪の美少年神アーラムが現れた。そしてアーラムの言葉で今村は思い出す。


「しくった!採って来てねぇ!行って来る!」


 今村は慌てて勢いよく出て行った。その場に残された二人。祓はアーラムを睨みつけた。だが、アーラムの方も祓を憎悪の目で睨んでいた。一瞬ひるむ祓に今度はにこやかにアーラムは話しかける。


「やぁ…『カーレリッヒ』」

「…あなた誰ですか?私の邪魔を…」

「あんまり生意気なこと言ってると殺しちゃうよ…?僕の創ったニンゲン風情が…」


 術を発動しながら祓を観察していたアーラムは作られた笑顔を崩して息苦しくなるほどの威圧を放つ。だがそれも長くは続けなかった。


「…あんまり威圧とかしてると兄ぃとかぇに気付かれるからね…まぁそれはいいんだ。…ただ…今程度威圧で怯む位の思いで兄ぃに手を出すのは許さないからね…?」


 押し殺した威圧を放ちながらアーラムは「カーレリッヒ」を解いた。祓はそんなアーラムの言葉に反論する。


「…そんなのあなたが決めることじゃ…それにこの程度って…」

この程度・・・・だよ。そうだね誰を選ぶかは兄ぃが決めることだ…それにこの程度なら姉ぇの呪いで諦めるか。」


 嘆息するアーラム。祓はその様子が鼻についた。そして純然たる決意を持って対峙する。


「…私は諦めません。」

「言ったね?絶対だよ?」

「そうです。絶対です。」


 どこか楽しげに訊いてきたアーラムに繰り返して強調する祓。そこで初めてアーラムは本当に笑った。


「あはははっ!凄いな…兄ぃはどんな状態でもモテるんだなぁ~…じゃあ君には人間を辞める覚悟はあるってことでいいね?」

「…?何でそうなるんですか?」


 アーラムの言葉に祓は少し引きながら問い返す。アーラムはそれも知らなかったのかという風に肩を竦めた。


「そりゃ仮に呪いを打ち破った時に兄ぃを悲しませたくないから。寿命の差とかでね。」

「…寿命…違ったんですか…」


 軽く言われた言葉に祓は愕然とする。アーラムは当然と言った風に続けた。


「うん。そりゃ君たちからしてみれば僕らは神様だからね。基本寿命はないよ…さて、あんまり話してると兄ぃ帰って来るからその前に…もう一回聞くけど訊くけど本当にいいんだね?」

「…はい。」

「呪いは強いよ?結ばれない可能性の方が大きいよ?」

「構いません。」

「じゃあ…『カーレリッヒ』」


 度重なる確認に祓は毅然として頷き、アーラムはそれに納得して「カーレリッヒ」を使って祓を改造する。


「うん。…君たちで言うところの『神核』埋めたから…これで君は人間卒業だよ。」

「…ありがとうございます。」

「僕にお礼は要らないよ。…僕は君を利用しているだけだし。『カーレリッヒ』」


 アーラムはそう言って去って行った。丁度入れ違いに今村が帰ってくる。


「あり?アーラムは…」

「帰りました。…それでですね…先生に言いたいことがあるんです…」

「何?」


 今度こそ邪魔が入らない状態で祓は先程言いかけた言葉を今村に向ける。


「…好きです。私と…」

「嫌いです?あぁ、知ってる。で?」

「え?」

「え?」


 まず祓が困惑して次に祓が困惑したことに今村が困惑した。


「あの…私は好きって…」

「いや何回も言われなくても嫌いってことは知ってるんだけど…何?知られてたのが予想外だったのか…?」


 訝しげな顔をする今村。祓は少し悲しげに頭を振り言い返す。


「嫌いなわけないじゃないですか…」

「好きなわけない?だから何で態々…?何か変だな…おい。」

「…何ですか?」

「大きく口を動かして言ってくれ。…『死氣魔眼』」


 度重なる告白を拒絶されて不機嫌な祓に対して今村は目の状態を変えた。目に九角形の図形と複雑な文様を浮かべ祓の桜色の唇をじっくり眺める。祓はゆっくり「す・き・で・す」と動かした。それを見て今村は首を傾げる。


「…読唇術使えるんだが術使ってもさっきから靄がかかった感じでわかんねぇ…とりあえず嫌いの動きじゃないことだけわかったが…」

「その逆です!」


 これなら通じるのではないかと思った祓が大きな声で今村に伝える。だが今村は首を傾げるばかりだ。


「…今度は何も聞こえないし…聴覚失ったか?う~ん…いや、振動ごと刈り取られてるな。俺の内部の声は聞こえるし、おい、とりあえず何を言いたいのかは知らんけどしばらくその言葉は禁句ね。聴覚無くすって何気に怖いから。」


 普通かなり恐ろしいこと何気に怖いで済ませて平然と言ってのける今村。祓はこれがアーラムの言った呪いか…と思い不承不承ながら頷いた。


「…お、聞こえるようになった。…ところでそんなことより気になることがあるんだが…」

「…何ですか?」

「お前…人間辞めたな?何で?」


 詮索を止めた一端の理由である祓の体質の変化について尋ねる今村。祓はさっきのお返しにとばかりにそっけなく答える。

 

「…今禁句にされました。」

「…フ~ム…人間辞めて、聞こえない言葉…神化して言えなくなった…じゃあ俺の知らない言葉が理由か…?一応『ロストワーズ』は十一種覚えてるんだが…まぁ使わない分は忘れてるだろうし…ってことはトップダウン処理でも起こしてんのかな?いやそれじゃ聞こえない意味が分からんな…秘密主義か?」


 今村は祓の話を聞いてそんな考察を行う。祓の方は今村の呪いについて初めて知り、混乱しつつもどうすればいいかについて考え始めた。そんな祓を見て何やら混乱しているようだし、これ以上訊くのは酷かと思った今村は呪具の生成に移った。

 そこであることを思い出す。


「あ、人に戻りたくなったらいつでも言ってくれ。すぐに治す。」


 それだけ言うと今村はいつもの部屋に戻って行った。祓はその後ろ姿を少し恨みがましく見た。


「…戻るわけないじゃないですか。先生…私はそんな呪いじゃ諦めませんからね…」


 そう呟き決心を固め直すと祓は今村の後を追った。




 ここまでありがとうございました!


祓ちゃんも人間辞めた所で2章終了です。因みに理事長はまだ学校に帰って来ていません。


 

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全盛期、相川だった頃を書く作品です
例外者の難行
例外者シリーズです
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