4.地味な嫌がらせ
不敵な笑みを浮かべつつ会話の邪魔だと思ったらしいダークブラウンの幼女はみゅうを一瞬で気絶させて今村に詰め寄る。
「一つ目、イカせろ。主のテクは凄まじいからなぁ……あ、前みたいにキスだけとか生娘みたいなことは止めよ。あれでイッた我も我じゃが……」
一瞬にも満たない時間、今村はキレかけた。こんなんだからみゅうの母親であるお前の孫娘は大変な目にあったんだぞボケと思いながら今村は黙って次の選択肢を促す。その意を汲み取ったのか彼女は続けた。
「次、まぁ平たく言えば契れ。小娘共が色々しておるのは知っておるからその中で四天王的なポジションに収まらせるだけで良い。」
今度は別の意味で殴りたくなった。四天王と言うことは少なくとも4人は囲う予定があるように思われているのが心外だ。だが、勝てないので抑える。
「そして最後。もう継続しない。」
「じゃあそれで。もう、仕方ないんで。」
そして最後に告げられた選択肢。それが一番マシだったので即決だ。迷う必要もなかった。何かどこもかしこも同じこと言うようになって来たなこいつらと思いつつ今村は溜息をつく。それ以外に今の心境を表せるものがないのだ。
それを受けて目の前の彼女は軽く目を伏せて溜息をついた。
「んむ……まぁ、そうくるじゃろうて……ま、諦めんがの。」
「……何でですか?」
多少の不機嫌を一切表に出さずにそう尋ねると幼女は笑いながら答えた。
「そっちの方が面白いから。」
この理由だと今村は追及を止めざるを得ない。趣味が悪いとは思うがそれも個人的な物なので今村がどうこう言う物ではないのだ。
自分も恋愛はしたくないが他人の恋愛だと嬉々として推し進めるので他人の趣味に関しては深入りできないからなぁ……などとを考えている今村に聞こえないようにその存在は忍び笑いを漏らす。
「……それと、奴の反応も見たいからの……クックック……」
「誰です?」
「にょっ!?ま、まぁ……そうじゃな。ところでその敬語止めんか?」
話を逸らすのが下手だなと思ったが永遠の未婚者の友人である永遠の未婚及び処女もしくは童貞のか何かだと勝手に解釈しておいて今村は話題を戻す。
「結界が後20年ってところですか。ふむ……」
「条件を吞むなら「嫌です。」……手籠めにしてやろーかのー?ん?いつまでもいつまでも女々しい頭しおって……この体験で我の虜にして「嫌です。」……ところで、その敬語やめ「嫌です。」……むぐっ……」
今村は拒否を多用して会話がだんだん面倒になって来たので薬を使って無理矢理目の前の存在を眠らせた。そして白々しく尋ねる。
「あれ?もうお休みと言うことはこれ以上の用はないんですか?じゃあ帰りますね?みゅう起きろ。あ~こりゃ無理か……」
かなり強烈な一撃を喰らっていたようでみゅうは今村が声を掛けても目を覚まさなかった。ただ、体は声に反応して立ち上がる。
「……軽いホラーだよな。まぁいいけど……それじゃこの辺でお暇させていただきますね。」
一応断りを入れておくとこの空間から出てすぐに今村は他の世界より大幅に遅い時流を生み出すとそれがいた世界を包み、頷いた。
「……俺でもあの量使えば3日は昏睡状態になる。竜神さんならまぁ……あの空間で5分程度が限界かな?でもまぁこれでゲネシス・ムンドゥスに換算すると20年は持つはず……」
それなら、認識阻害が壊れるまでの時間……もとい、自身の命がなくなるまでの時間はきっちり稼げるだろう。
「ま、あんまり長生きするもんじゃないからな。」
あくまで自分のことではなく一般的な言葉として呟いておく。その顔は自嘲の笑みを浮かべていた。
「……よぉ、どれくらいの時間が経った?」
「まぁ、今村くんが居なくなって大体2週間程度かしら。」
少し寄り道をしてから今村はみゅうの襟を適当に掴んだままでゲネシス・ムンドゥスへと戻って来た。それを執務室で待ち受けていた白崎が何事もなかったかのように受け入れる。
「ふむ。状態は?」
「良好ね。あなたがいない間にと一所懸命になって頑張ってたわ。世間と微妙に乖離していたのが最近ではかなり溝が出来て、しかたなくウチに頼らないといけないという状態になってるわ。」
「重畳。」
二人は満足気な会話をする。だが、その後に今村は部屋の壁になったかのように山積みになった書類を見て白崎に尋ねる。
「……この書類は俺がやらないとダメなやつ?」
「……いや、その……あなたがというわけじゃないけど……流石に私だけじゃ終わらなかったのよ……」
「まぁお前の仕事だったとしても手伝うけど。」
今村がいなかった時間の割には少ないと思いつつ今村は作業に入る。
「さて、企業側が不満を持ってるが……それの対応は?」
「何度かこの世界の上層部になったあの子たちが説明会なんかに行ったけど……まぁ、誰が行っても参加者の全員が魅了されて会議にならなくなってからは全部代理出席の状態ね。あなたを呼んでほしいと財界の方から言って来られたときは喧嘩売ってたわ。」
「上々。恨みの種は撒きまくったな。外部からクラッキングやってた奴の進行度は?」
「もう個人レベルの技じゃなくてサイバー攻撃と言えるレベルになってるわよ。ダミーリストを頑張って手に入れようと頑張ってるわ。侵入度は80%よ。」
ならばと今村は資料とは関係ない対策表を出して白崎の机に提示する。
「……これ、意味あるの?」
「ない。あるとしたら、個人情報が漏れた!とか騒ぎ始めるマスコミがその次の日にそれはダミーリストだった!水増しか?って騒ぎ始めて、俺が辞職。それに猛追してきた翌日にダミーリストの名前の立読みをやって貰うことで無責任なマスコミに少し嫌がらせできる。」
「……報道の自由とか言って最後の部分だけ報道しないんじゃないかしら?」
「ウチが持ってるテレビ局で流せばいい。つーか本当に気になるやつは流出した分を見て勝手に騒ぎ始める。」
要するに今村はやってやったぞと思って鼻高々の状態をへし折りたいと言う訳らしい。
「手っ取り早く実力行使とか、まぁもっと嫌な案はあるが……まぁお前以外に悟られないように、4分程度で考えられるのはこれくらいか。」
「まぁ、今回気を付けるべき点はそこではないから……あ、今日の夜中に流出するはずよ。」
「はぁ?じゃあこれ今から全部やらないと……俺が仕事溜めてたと思われる。心外だから本気出そ。」
今村はそう言って書類の壁を切り崩しにかかった。
「……まぁ、きれいさっぱりなくした状態から大量に増えていく書類は恐怖だものね……新しく自信満々で入ってくるつもりの外部への嫌がらせをしたい今村くんのために頑張るわよ。」
そしてその日の内に二人で使っている執務室から全ての書類、そしてそこにいた全ての社員がいなくなった。




