22.オフの日の範疇
「……んぁ?……囲まれてんなぁ……」
雲の中で寝ていた今村は人の気配を感じて目を覚まし、水を飲んだ。枕元の水時計はこの世界が9時であることを示している。
「誰だこんな時間に……ここにゃテレビもないし、新聞も要らんぞ俺は……大体俺はまだ休みなのによぉ……あー居留守……っつーか、空間転移するか……?」
大量の独り言を漏らすと今村は何が来ているのかを確認するために雲の密度を一部だけ減らしてそこから外の様子を窺う。
もし、敵であれば安眠妨害ということで全力を持ってこのまま空の彼方か地面かにお還り願うつもりだ。
「……んー?何で、祓たちが……?」
だがどうやら外にいるのは見知った顔のようだ。こちらから一方的に見た感じでは非常に不安気な顔をしてそれでも俺を逃がさないように術式を行使している状態だろうか。
「ふぁ……眠いなー……攻めて来たらボコせばいいし、寝るかな……」
だが、そんなことは関係ないとばかりに今村は寝返りを打つと抱き枕を抱え込んで二度寝を決め込んだ。
「……ん~……まぁ、もう、今日は眠くならんだろ……」
水時計は15時を指していた。適度に警戒はしていたため、質はあまりよくないが時間を取ったためのそれなりの睡眠をとることが出来たので今村は満足して伸びをする。
「ぅあ~あ……あー……あり?俺何してたっけ……」
よく寝たおかげで今まで何をしていたのか忘れた。だが、忘れると言うことは取るに足りないことだったので忘れたのだろうと切り捨てて欠伸をした後に空腹を覚える。
「……メシだな。」
瞬間、外に様々な食べ物の匂いがし始める。それは果物だったり、ヨーグルトだったり、飲み物だったり、クッキーやケーキなどの洋菓子だったり、総菜パンや菓子パンだったり、和食だったり、様々だ。
「……?何だ?外はお祭りでもやってんのか……?」
今村は手近に適当に牛乳とシリアルをぶち込んでそれにちょっと味付けを施した後、食べると再び雲の密度を下げて雲の外を見る。
「……囲まれてんなぁ……何でだろう?」
本日の今村は呑気だった。首を傾げるだけで特に食事以外の行動に出ずにシリアルを食べた後に少し甘くなった牛乳を飲むと水の器を雲に戻す。
「……あ、この辺雨が降る頃に牛乳臭くなってるかも。まぁ凍ってるから腐らないだろうしいっかぁ……何かの電子掲示板でも見るか。」
外にはノータッチで行く。……つもりだったが、外に無視できない氣を感知して今村は顔を顰める。
「せっかくの休みなのに……折角ストレスフリーだったのになぁ……何だあいつ何しに来たんだ……大体引き籠りしてないと怒られるだろうに……主に俺に。」
「おにぃ……せーらん、なくよ……?」
「俺の方が泣きたい。見ろよこれ。水が固まって寝辛い。」
現れたのは原神が1柱、【無垢なる美】こと滅世の美幼女セイランだ。久々の再会で今村は現在寝ていた雲の布団がセイランの無意識の魅力に魅了されて固まったことにクレームを入れる。
「あぅ……そぇは、ごめなしゃい……」
セイランは来て早々にストレッサーだと言われ、抑えに抑えた魅力でも今村に迷惑を掛けてしまって既に涙目になっている。そんな彼女に今村は手元の端末を弄りながら用を話すように促す。
「……で、何か用?俺ぁ今休みなんだけど?用がないなら帰るか……まぁ別に邪魔しないならゆっくりしていけば?」
「…………そいね……」
「別いーよー」
「わぁい!」
涙目から一転して喜色満面のセイランが何をしに来たのかよく分からないが取り敢えず今村の背中に馬乗りになってそのままぺったり俯せになった。
「……【無垢なる美】?僕、そんなことをさせに君を送り出したわけじゃないんだけど?」
しばらく無言でそうして、今村が笑っている間にセイランがうつらうつらし始めた所で彼女の姉が現れた。
「ぁう……?」
「おー、よー。元気ー?」
「君が来ないからあんまり元気じゃない。今少しずつ元気になって来た。」
「気持ちわりー……あ、今俺スーパーやる気ねぇから。頼み事は聞かんぞ。」
ひらひら手を振って現れた銀髪の滅世の美少女、ミニアンにも適当な返事をして今村は欠伸する。
「……僕は、ちょっと恋する乙女たちに呼ばれて、どうしてもはずせない用があったから【無垢なる美】に任せてたけど、ダメみたいだったから危険を冒して来たんだ……けど……まぁ、最近会ってなかったからご褒美はいいと思うんだよ。」
「こっち来る?」
「ま、まぁ君がそう言うなら……」
どう聞いてもミニアンの方が来たがっている様子だったので今村は誘ったのだ
が、ミニアンは御呼ばれしたという形にしたいらしく、そわそわしながら今村の隣に入って来た。
そして顔を見て今村は後悔する。
「あ、お前今日……」
「?君、全盛期に戻れたんだよね?じゃあ緩めてもいいかなって……」
「きょ、オフ……」
ミニアンはかなり気を緩めていた。そのためセイランほど魅了の力を抑えていなかったのだ。今村も同様に気を緩めていた。結果、かなりぎりぎりまで魅了されてしまったのだ。
「……ふぅん。まぁ、僕の顔もまだまだ捨てたものじゃないね。」
「お前……お前程の美少女がそんなこと言ったら世界が大抵終わるぞ……」
「ひゃ……き、聞こえなかったから、もう一回……」
「どう考えても聞こえてただろ。この距離なんだし……」
「それでも聞きたい言葉はあるんだよ!」
「せーらんも!せーらんもおにぃにほめやえたい……!」
上に乗っていたセイランももぞもぞと今村の頭部の方へと移動してリクエストして来た。
「……お前褒めると何か犯罪チックになるから……まぁ、無難に可愛いよ?」
「録音しますので、お兄様もう一度お願いします。あ、名前から入れてもらえると嬉しいです。」
「ん~……それは、オフの日にやることの範疇じゃないな。毒日とかまぁ発情日とか気分が乗った日か……後なんかあるかな?……まぁ、要するに大体そんな感じの日だ。」
「その日はいつ……!?」
「それを調べるのはオフの日じゃない。休みの日は休むんだよ。別のことはあんまり考えない。」
セイランとミニアンはアイコンタクトで今度今村の様子が変わった日に危険を冒してでも会いに来ることを決めた。
その後小2時間ほどいちゃついた後で、ミニアンが先に正気に返った。しかし、呼ばれた理由はまだ後で果たせばいいか。と自分のことを優先する。
「充電中ー」
「じゅーれんちゅー!」
「あ、ズルい。僕もちゅー!」
「……まぁいいけど。因みにさぁ、俺が寝返りうつタイミングって何でわかんの?邪魔じゃないからいいんだが……」
「邪魔だと追い出されるからその辺は頑張ったんだよ。」
「せーらんもー!」
答えになってないなぁ……そんなことを思いながら3人は極寒の大空に浮かぶ雲の中で大勢の美少女達に囲まれながら平和な時間を過ごした。




