20.可哀想なゾフィール
「うん。体捌きのことを言われて特に送り足のことを意識してるのはいいことだね。ただ、上体が少し遅れ気味だ。上体移動も流れるようにすることで今の意識付けが綺麗に生かされて更によくなるからやってみな。」
「はい。」
「そうそう。少し前傾姿勢になってから潜り込む感じで……」
「こうですか?」
「うん。相手を見ながらって言うのは必須だからね。あともう少し低い方がいいよ。」
焼肉パーティから一夜明けて今村は子どもの指導をしていた。
「よし。……この体勢で今どこの筋肉を使ってると思う?」
「え……っと、この辺が少しキツい気がします。」
「じゃ、そこを鍛えようか。まずは王道のスクワットから。膝をつま先より前に出さないこと、膝から腿にかけては地面に並行。体はそれに垂直。一先ず出来るところまでやって……お、来たな。」
そして指導の最中に空間に亀裂が走り、そこから銀髪のツインテールの美幼女が現れる。
「……パパ。大変なんだけど……」
「忙しいならそっちに戻って……」
いつもと違うどこか不満気な顔で今村の方を見て来るみゅうに今村はそう言うがみゅうはそうじゃないと首を振る。
「みゅうのお仕事はパパが最優先だからそれはいいんだけど、祓さんたちが記憶無くなっちゃって変な人と付き合い始めてるよ?いいの?」
「いいよ。」
みゅうは顔を顰めた。ついでにその話題には興味があると白崎も他の奴隷の指導を止めてこちらにやってくる。
「そう。それに、多くの『幻夜の館』の子たちも何か変な術が掛かってるみたいなのよ。一応健康に害はないみたいだから仕事は始めてるみたいだけど……」
「でも、術式がよくわかんないから今の所って話なの。パパ、これ……この変な視たことない術式なんだけど、どこの世界のか分かる……?」
今村は自分がかけた物でどこ産なのか見なくても分かるが、その術式を鑑定して視た。
「カッサラームだな。俺もその世界にはいたことある。」
「……この術式、誰が作ったんだろ?解除方法を吐かせないと……パパだったらどう解く?」
「この辺が甘いからそっから入る。」
「だよね……」
今村はみゅうが自分が掛けたのではないのかという疑いの目を持っていたのに気付いているのでさくさくと答えを提示していく。
(何のために【最悪】の術式をコピーしたと思ってんだ。年季が甘いな。)
「……パパなら解けるよねこれ……」
「解けないこともないが……俺、オフなんだよね。働きたくないから。」
「でも……これ、蝕むから……可哀想だよ。」
「大丈夫大丈夫。身に危険が迫ったらこの前あげたアクセサリーが俺の持ってる宝石に警鐘を鳴らさせるから。」
そんな話をしている時だった。今村の下に騒音をまき散らしながらオニキスが飛んできているのに気付いた。
「……こんな感じで?」
「おう。こんな感じで。」
白崎の言葉に今村は頷く。
「……………………あ、やべ。」
「ちょ、パパ!助けに行かないと!」
今村の気のない声にみゅうが焦る。だが、今村は顎に手を当てて首を傾げるだけだ。
「……フィトとシェンが揃っててヤバいとか……誤作動じゃね?」
「パパが作った物に限ってそれはないよ!」
「るぅねもそう思う!あるじ様最高!やったぁ!」
「そんなこと言ってる場合じゃないんじゃないのか……?ギルマス。何か知らないけど行って来たら?」
るぅねは何を言ってるんだろうと思いつつ今村は一先ず宝石を通して何が起きているのかを見る。
そして納得した。
「あー……腐食の能力ねぇ……なるほど。金属も木もこれには弱いわ。」
「納得してる場合じゃないよ!早く行こう!?」
みゅうが小さな手で今村の指を握り世界間の扉を形成する。
「まぁ行くけどさ。にしても新しい男どもは情けないね~……」
しばらく見ていない、と言ってもこの世界の換算で3日程度で向こう世界で1週間程度だが、それでも見るからに堕落している元教え子たち。彼らは女性陣の陰に隠れていた。
「……ふぅ。まぁいいや。さっさと行こう。」
「うん!」
二人はこの世界を後にした。残された白崎とるぅね。それにリェンは顔を見合わせる。
「……取り敢えず、るぅねは皆の訓練すればいいんだよね!るぅね超頑張るから死なないでね!まずは~このお薬から……」
そして、魔改造が施された。
「……クックック【冥魔邪妖霊神王】に人質が出来るとはな……微弱なつながりを感じてきたが……中々どうして、奴も報われんのぅ……」
「だから、【冥魔邪妖霊神王】なんて人、私たちは知らない……!」
ゲネシス・ムンドゥスでは突如として襲来したゾフィールと名乗る男がデバッグと称して「幻夜の館」に強襲を仕掛けて来ていた。
彼はその中でも道標として使ったアクセサリーが全部別の男がいる女性につけられていることに気付いて笑っている。
「まぁ、知らんのだろうな。知らず知らずの内に守られていることも。誰が【冥魔邪妖霊神王】であるのかもな。……だが、そこは問題ではない。」
そう言ってゾフィールは手を翳すと暗黒の霧を目の前の美女たちに向けて発した。目標の女性たちは隠せない疲労の中、幾度目かもわからないその攻撃を何とか逸らすことに成功する。
「はぁっ……はぁっ……」
「ククク……まぁ、餌は生きておらんとな……まだ来んのか【冥魔邪妖霊神王】は遅いな……おっと。」
遊ばれている。どのように反撃をしても軽く喰われ、そしてそれよりも大きな力となって帰ってくるさまを見て彼女たちは苛立ちを隠せない。
「ふむ。にしてもしつこいな……お前は眠っていろ。」
「あぎゅっ……」
そしてまた一人気を失う。残されたのは祓、クロノ、サラ、アリスと6人の男たちだけになる。
だが、そこでようやくゾフィールは笑みを深くした。
「来たか。」
その声とほぼ同時に舞い降りてくる今村。それを見ながらゾフィールは目にも映らぬ速さで現在追い詰めている美女たちの方に回り込んだ。
それを見ながら今村はみゅうと一緒に着地して欠伸をした後に応じる。
「来たよ。……来たけど。何かなぁ……俺さぁ、やる気ないんだよね。」
「問答無用。こやつらの綺麗な顔に傷をつけられたくなかったら大人しくしてろごっ!」
「こっちこそ問答無用だ馬鹿。」
余裕を浮かべているゾフィールを普通に蹴り飛ばした。
「クク……正の者だからと言って、人質を取らぬと思ったか!後悔さべっ!」
「おぉ。タフ。でもさぁ、負の神相手に人質が通じると思ったかって話にならない?あ、術は使わない方がいいよ。死ぬから……あーあ。」
忠告を聞いてくれなかったゾフィールは普通に破裂して死んだ。今村は非常につまらなさそうにその死骸を蹴る。
「……ねー多分さぁ、第1世界の神だろー?もう少し真面目にやってくれないか?俺さぁ。わざわざ、休みの中、ここに来たんだ。死んだからってすぐ復活するんだろうからさっさと済ませるよ?」
「……パパ。普通に、真面目にみんなやってるよ……?」
「えー……眠い。みゅうだけでよかったんじゃね?俺来る必要あった?」
死骸が復活することのないように魂魄を剥離して死骸に植物を植えて花を咲かせる今村。欠伸交じりに伸びをすると大きく息を吐きながら言った。
「燃やせばいいじゃん……俺来る必要マジでないのに……火竜神は何してんだろう?金帝神さんがやられてるのに……怠いなぁ……」
「……いや、やられちゃったからね……うん。」
「あ~後さぁ、そこの7人?ちょっとお説教。」
今村はローブで7人の男たちの首を掴んで先程いた世界へと戻って行った。




