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例外者の異常な日常  作者: 枯木人
第二十四章~さぁ、動き出そう~
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19.奴隷たちの会話

「体捌きが甘いわ。これだとすぐに懐に……あら、お帰……」

「よう。」


 白崎は今村が出て行った後にしばらくしても帰って来ないので言われた通り訓練をしていた。


 そんな白崎が、今村が帰って来た時にまず見たのは今村だが、次に視界に入ったのは3階建ての家ほどもある巨大な牛だった。


「……それ……」

「焼肉。」

「Buoooooo!」

「うっせ、黙って捌かれろ。」


 完全に生きるのを諦めていたが自分より弱い生物を見つけることで彼が生きていた世界で命じられた本能によりそれに突撃しようと叫んだ牛は一瞬で斬り殺される。


 死んだ牛ゾンビを見て今村はるぅねとリェンに指示を出す。


「るぅね、血を取れ。」

「うん!」

「リェンは……そうだな、一部挽き肉にするか。まぁその前に牛の解体を。白崎は子どもを育てる。俺は寝る。」


 今村は頷いてその場に「雲の欠片」を浮かせて寝転がった。そして顔を上げてるぅねに言った。


「……あ、るぅね。臭いから匂いを何とかしろ。」

「るぅね臭い!?お風呂入って来る!」

「そうじゃねぇよ。牛だ牛……解体の匂い。」


 今村が言う頃にはるぅねは風呂に入って出て来ていた。


「これで……なぁんだ牛さんか……」

「今から解体するのに風呂入るとか……まぁいいけど。リェンはどうした?」

「……いや、ギルマスは何人くらいの女を囲ってるんだろうなぁって……」


 既に解体を終えた彼女の目は奴隷たちに向けられていた。取り敢えず白崎には首輪がないのを見て他の5人の方へと移動する。


「オレはリェン。ギルマスの奴隷だ。ここは待遇がいいぞ買われてラッキーだったな!」

「ギルマス……?今村くんのこと?」

「おう。」


 白崎は色々な火を横になったままでるぅねに用意させている今村の方を見ながらリェンに尋ねた。リェンは頷いて続ける。


「奴隷になる前、ギルマスに買われる前の奴隷時代、どっちも死ぬほど働かされて殴られたり、蹴られたり、鞭で打たれたりと色々されてきたけど、ギルマスは仕事したくないなら最低限だけでいいって楽させてくれるんだ。」


 そこから延々とリェンの自慢が始まる。だが、比較前が悪すぎて奴隷たちの顔が蒼褪めていた。


「ん?顔色悪いなー……肉あるし、食って血を増やさないとなぁ……買われて何日目なんだ?」

「2日目……です。」

「あ、じゃあまだこういう食べ物を胃が受け付けないんだ。ギルマスに魔術かけてもらわないと。」

「い、いえ……」


 言えない。彼女たちは比較的融通の利く奴隷商に雇われており、リェンとは全く違う道を歩んで来ていた。


 5人の内、雇われだった奴隷は、身を落とす前は週に1度は休めていた。1日10時間労働だった。陰口や軽いセクハラ程度はあるものの暴力はなかった。食事もまともなものを食べられていた。

 また、泣き虫と言われている娘も師匠と旅の中で比較的楽な生活をしており、指示に従って奴隷に身を落としただけだ。

 身を落とした後、奴隷商の下では働かずに体型の維持だけに努め、自由は少なかったが生きることだけを考えるのであれば楽だった。


 ――――――ただ、2人を除いて。


「リェン。焼くぞ。」

「はいはい。食えそうなんだから食えよ!」

「きゅー!」

「……あの、リェンさん……あなたと私も似たような目に遭ってたんです。」


 今村が引き取った奴隷の内、子どもの奴隷が暗く淀んだ目でリェンに話しかける。


「おう。じゃあしっかりついて行かないとな。」

「……私は、憎いんです……」


 怨念を振りまき少女は怒気を孕んだ声を押し殺すようにして続ける。


「一方的に略取し続け、日常的に私を痛めつける父親が。父の暴力が自分から逸れたことに安堵して私を生贄にする母親が。父と同じように私をモノとしてしか見ずに搾取する側に回った兄が。まだ幼い私を犯そうとした義兄が。私が被害者なのに私の方が夫を誑かした加害者の様になじる姉が。私を隠れ蓑に散々なことをして、自分の失敗を隠すために奴隷に売り出した弟が!」


 彼女は怒りのあまりに泣いているようだった。


「私は、憎いんですよ。全てが。世界が。私を取り巻く環境が!」

「うん。だからギルマスが救ってあげたんだろ?オレも兄弟はいなかったけどそんな感じだったしなぁ……復讐したいならギルマスに言いなよ。あらゆるプランを考えてくれるから。」

「いや、俺オフ。」


 二人の会話が聞こえていたらしい今村が網に薬品を塗りながら振り返りもせずに言った。


「……まぁ、国を亡ぼす程度には白崎とるぅね……リェンもやるかな?後、今は少し忙しいらしいから遅れてるがみゅうも呼んで鍛えるから。自分が考えるプランで復讐はやりなよ。」

「……いや、ギルマスがやってよ……オレ恰好付かないじゃん……」

「ん~お前、俺の仕事代わりにする?」


 今村の言葉に白崎が反応した。それに構わずリェンは頷く。


「働きたくないけど。オレに似た境遇の奴の為だし。」

「言ったな?」

「止めた方が……もう遅いわね……」


 リェンの目の前に大量の書類が浮いた。


「…………へ?」

「あら。まだ少ないわね……羨ましいわ。今村くん。これだけだったら1時間程度しか空かないでしょう?いいの?」

「は?」


 リェンが既に後悔しかかった顔で呆然と声を漏らす。


「ギルマス……働いてたの?」

「働きたくないけどなぁ……何か、気付いたら。」

「驚くところはそこなのね……」


 てっきり量について言及しているのかと思った白崎が呆れたように呟く。それを放置して今村は肉を焼き始めた。


「……まぁ、ギルマスが働いてるのにオレが働かないのはアレだし……やるけどさ。働いてるなら言ってくれよ……」

「急にやめるかもしれんしなぁ……別に言うほどのことじゃない。」

「あなたに辞められたら色々大問題じゃないの?」


 働いていて、本部との書類のやり取りをしている白崎だが事業の底が知れないレジェンドクエスターズ。その一端ですら世界を創り上げ、存続させているその企業はトップの力で成り立っている。


「疲れたしなぁ……そろそろ辞めよっか。」


 この男だ。事務処理能力であれば他の人物がフルで頑張れば何とかなるかもしれないがこの男が居なくなると全員やる気がなくなる。


「……まぁ、いっか。今日はオフだから仕事について考えるとかやってられないな焼肉しよう。」


 取り敢えず焼肉を続行し始めた今村。るぅねはニンニクを摩り下ろしたり様々な調味料を作っている。


「あ、でもギルマスに教えられる時には気を付けろよ?うっかりしてるとすぐにホレるから。まず、飯がやたらと美味い。」


 ここで一つ目と言うようにリェンは指を立てた。


「次に指導されてるときにふと気付くんだ。自分が工夫したところを褒めてくれるし、よく見てくれる。」


 そして二つ目の指を立て、次が重要と言う風に声音を変える。


「後、色々あるんだが……オレはこれにやられた。ギルマスの舞な。あれ見たら感動するんだよ……オレ、心なんて奴隷になる前からとっくの昔に亡くしてたと思ってたのにさぁ……見てたら何にも考えてないのに勝手に泣けて来たんだ……」


 リェンの言葉に頷いたり真剣に聞いたりする奴隷たち。白崎は何か取り残された気分になって取り敢えず焼肉に誘われていることだし今村の方へと小走りに移動した。


「土が舞う!」

「あ、ごめんなさい……」




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全盛期、相川だった頃を書く作品です
例外者の難行
例外者シリーズです
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